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「姉さん、何かあったの?」
「………へっ?」
あのあと屋敷へと戻ったシェリルは
レンが仕事を終える頃に再び城へと登城した。
幸いなことに、リアムにもゼインにも会うことはなく、
少し赤くなった目の周りのことは
痒くなってこすっちゃって、とレンには誤魔化しておいた。
そして今はレンと共に
よく二人で来るレストランで夕食をとっている。
「べつに何もないよ?どうして?」
「………いや、なんとなく。
王子妃教育で疲れたりしてないかなと思って。」
「全然?むしろ楽しかったよ。
ヴィー先生の格好とキャラは特殊だけど、
授業はわかりやすいし楽しいから。」
「そう?
………じゃあ、殿下と何かあった?」
「!…………なんで?そっちも何もないけど?」
「今朝、殿下を起こしてくれって頼んだよね?
てっきり上機嫌で執務室に来るかと思ってたら、
むしろ不機嫌で部屋に入ってきたから。
まぁ朝に機嫌が悪いのは今に始まったことじゃないし、
僕らにもいつもの態度だったんだけど、
もしかして姉さんと喧嘩でもしたのかなぁって。」
「………喧嘩なんてしてないよ。
殿下のことはちゃんと起こしたし、
その後も普通に話をしながら執務室まで送ったから。」
「そっか………ならいいんだけど。」
そう言うと一旦話すのをやめ、レンは食事を始める。
その姿を確認し、シェリルは気づかれないように
小さくため息をついた。
………レンは勘が鋭いから気をつけないと。
さすが16年も自分の弟をやっているだけあって、
彼はシェリルのわずかな変化にもすぐに気がつく。
幼い頃からその洞察力は優れており、
何度いたずらを両親にバラされたことか。
しかし今、
自分の中でグチャグチャになっているこの感情まで
彼に知られるわけにはいかない。
そうなればリアムにバラされ、迷惑をかけることになる。
自分の感情のために、リアムの手を煩わせる必要はない。
「そういえば、
姉さんはいつまで屋敷から城に通うつもり?」
「………え?なに?どういうこと?」
「だって面倒じゃない?
王子妃教育も始まって登城することも増えるし、
殿下の婚約者として客人に会う機会もあるでしょ?
それなら王城で暮らした方がラクじゃない?」
「はっ?!イヤだし!そんなのムリムリ。」
「そんなに嫌がらなくても………
そのうち殿下からも言われるんじゃない?
シェリルはいつになったら城で暮らすの?って。」
「い、いつって………
いずれは城で暮らす………暮らすの?城で?」
「んー、多分だけど、
城の近くに邸宅を用意して
殿下はそこから城に通うことになるんじゃない?
だから姉さんはその邸宅で暮らすことになるね。」
「…………屋敷から近いといいんだけど。」
「うちの屋敷にじゃなくて王城に近いところでしょ。
いつまで実家にベッタリでいるつもりだよ。」
「ずっと。永遠に。
アンタが結婚しても義妹と仲良くなって
しょっちゅう遊びに行ってやるから。」
「なにそれ、すごい迷惑。」
その後もたわいもない話をしながら食事を終え、
シェリルはレンと共に屋敷へと帰る。
食事中も、帰路につく間も、
自分の感情がおかしくなっていることに
レンは気がついていないはずだ。
そしてリアムにも、このまま知られないようにしなければ。
そんなことを考えながら、
シェリルは早々に眠りにつくことにしたのだった。




