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その鎖、まぼろしです。  作者: クロネコ
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「じゃあやっぱり、

 国によって言語も違えば、

 同じ国の中でも訛りがあったり

 発音が違ったりことがあるんですね?」

「えぇ、そうね。

 この国でも北端と南端で違うように、

 他の国でも違いはあるわ。

 まぁよほどの田舎町にでも行かない限り、

 聞き取れないほどの訛りで話されることはないと思う。」

「そうですか………。」

「外交で出向くとしたらその国の王城か、

 もしくは中心都市でしょうから。

 それに心配しなくても通訳もいるはずだし。」


ヴィンセントとの初授業は、

他国で使われている言語についての授業だった。

この先リアムの外交に付き合って

他国に行くことが多くなるであろう自分も、

少しは他の国で使われている言葉について知っておきたいと

事前にヴィンセントには伝えておいたのだ。


「………それにしても、

 他の国のことを知るのが楽しいだなんて、

 シェリルちゃん、留学経験でもあるの?」

「いえ、それはないんですけど………

 つい最近、隣国について調べる機会があって。

 その時に新聞やら本やら取り寄せて

 自分なりに調べてみたらそれがすっごく楽しくて!

 ただ会話のキッカケになればと思って

 始めてみたんですけど………

 思いのほか自分に響いたみたいです。」

「そうだったのね。

 自分で調べてそれを会話のきっかけにする、

 とってもいいことだと思うわ。」


そう言ってヴィンセントは

目を細めて笑いながら褒めてくれた。


「でもまぁ、あのクソガキからしたら、

 心配のタネが増えるって気が気じゃないかもね。」

「?」

「好奇心旺盛で賢い子が婚約者だと、

 他の男に目移りされちゃうかもしれないから。」

「はい?」

「どこの国でも賢い女性は好かれるのよ。

 カラダだけの関係ならバカな女の方がいいけど、

 自分の妻にするのなら社交的で賢い子のがいいもの。

 その方が自分の為にもなるしね。」

「…………カラダだけの関係。」


ヴィンセントが何気なく発したその言葉に、

シェリルは先日あの男、ゼインが言っていた

"大人の関係"を思い出す。


「やっぱり、リアム様もそうだったのかな。」

「え?」

「………たくさんの女性と、

 "大人の関係"ってやつを築いていたんでしょうか?」

「がはっ。」


突然のシェリルの発言に、ヴィンセントが驚いて咳き込む。


「きゅ、急になにを………

 あ、あぁ?いま私が言ったカラダだけの関係ってやつ?

 それは特に深い意味はなくて、

 そういう自分の体だけを武器にして近づくアホな女は

 高貴な地位や爵位を持つ人間の妻には

 ふさわしくないって思われてるってことで。」

「まぁべつにいいんですけど………

 リアム様が今までに

 どれぐらいの女性と関係を持っていたとしても

 そこまでわたしが口出しできる立場じゃないですし。

 ただこの先、今まで関係を持たれた女性たちに

 なにかふっかけられたりするんじゃないかなぁと思って。

 それがちょっとめんどくさいなぁ、って。」

「…………………。」


以前パーティーで揉めたフィオナのように

リアムに好意を持っていたご令嬢はたくさんいたはずだ。

自分こそがリアムの、もしかしたら自分がリアムの、

そう思っていた女性は数多くいただろう。

なんといっても彼は世間で人気のプレイボーイ。

その彼が突然現れた、しかも、

今までまったくのノーマークだった自分が、

婚約者という立場まで掻っ攫ってしまったのだから

知らないところで恨まれていてもおかしくはない。


「そ、その点は大丈夫じゃないかしら?

 あのクソガキのことだから、

 そういうことは綺麗サッパリ精算してるとおも………。」


最後までハッキリ言い終える前に、

ヴィンセントは自分の発言が失態なことに気づく。

………この言い方じゃあ

アレの女性関係を認めることになるじゃない!!


「そうだといいんですけど………

 さすがに今はやめてくれてるとは思うけど

 そのうちまた始まるかもしれないし。

 ………あ、でも、

 もしそうなったら、その、

 そういう関係を持つのはやめてほしいって

 リアム様に言ってもいいんですよね………?」


さすがに自分という婚約者がいる以上、他の女性と

"大人の関係"とやらを持ってほしくはない。

かといって自分がその行為をする勇気も"まだ"ない。

ならば嫌だと言うのはワガママなのだろうかと、

シェリルは考えてしまう。

………なにより、

リアムが自分以外の女性を甘やかしている場面を想像し、

"おもしろくない"と感じてしまったのだ。


そんなことを頭の中で考えながら、

モジモジしながらヴィンセントに問いかけたシェリルを


「シェリルちゃん!!あなたっ………!!」


感極まった様子のヴィンセントがガバッと抱きしめる。

シェリルは驚きのあまり"おわっ!?"と声をあげたが

ヴィンセントは大男なので、

抱きつかれるというよりすっぽり包まれた状態になる。


「ヴィ、ヴィーせんせっ………苦しっ。」

「心配しなくてもあのクソガキは

 あなたにべったりゾッコンよっ!!

 むしろあなたの方が私は心配なんだけど!」

「えっ?なに?心配?」

「あなたみたいな純粋無垢で穢れを知らない子が

 あんな悪魔みたいなクソガキに捕まって、

 この先あんなことやこんなことやそんなことまで 

 されちゃうんじゃないかと思うと。」

「………すみません、

 あんなことやこんなことやそんなことって

 具体的にどんなことですか?」

「それは言えないけど。

 ………でもほんと

 なんであんなのに捕まっちゃったのっ?!」


自分の頭をよしよしと撫でながら嘆くヴィンセントを、

"あんなことやこんなことやそんなこと"ってなに?と、

不思議そうな顔で見上げたのだった。



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