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その鎖、まぼろしです。  作者: クロネコ
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「はじめまして、シェリルちゃん?」


………目の前に美女がいる。………ただとてもデカい。


アザが薄くなったり濃くなったりした事件から三日後、

言われていた王子妃教育開始のため城に登城し、

案内された部屋で自分の先生となる人物と対面したのだが。


「は、はじめまして。……ヴィンセント先生?」

「やぁーねぇ、

 ヴィーって呼んでくれる?シェリルちゃん。」

「…………………。」


ただでさえ背が高いことで圧を感じる"ヴィー先生"が

その整った顔をズイッと前に出して言う。

どうやらヴィンセントと本名で呼ばれるのは嫌らしい。

ちなみに先生は間違いなく男だ。

だがその中性的な顔立ちと一つにまとめた長い髪、

そしてその話し方が"女性なのか?"と錯覚させる。


「あなたの王子妃教育の指南を頼まれた時は驚いたわ。

 ………あのクソガキに婚約者ができるなんて。」

「………………。」


なぜかは知らないが、先生とリアム様は仲が良くない。

事前にそのことは王太子からも、

そしてリアム本人からも聞いていたシェリルは、

ならばなぜわたしの王子妃教育の指南を頼んだのかと

不思議に思ったが、どうやら先生としてはピカイチらしい。

教養、礼儀作法、ダンスから語学に至るまで、

この先生から教われば間違いないと言われているとか。


「でもまぁシェリルちゃんは

 公爵家で礼儀作法や教養に関して学んできてるみたいだし

 それに少しつけ加えて教えるだけでよさそうね。

 アイリーンちゃんみたいに王妃になるわけじゃないし、

 あのクソガキの妃になるのなら、

 どちらかといえば語学や外交について学んだ方が

 あなたにとっても役に立つでしょうね。」

「クソガキ………。」

「アレはこの先バルドに変わって

 他国を訪問することも増えるはずだし、

 シェリルちゃんもそれに付き添うことになるだろうから

 そっち方面を重点的に学んでいきましょうか。」


にっこり笑ってこちらを見ているヴィー先生の提案は

外交や歴史について学びたいと考えていたシェリルにとって

思ってもみない幸運だった。

…………それにしても。


「ヴィー先生は……

 リアム様やバルド様と昔からの知り合いなんですよね?」


先ほどの話の中で

王太子を"バルド"と呼び捨てにしていたし、

リアムにいたってはクソガキ呼ばわりしている。

普通ならば不敬罪で処罰されるところだが、

昔からなんらかの関係であの二人とつながっているらしい。


「知り合いというか、従兄弟なのよ。」

「はっ?!従兄弟?!」

「あら、聞いてなかったの?

 ………私の母があの二人の母親の姉でね、

 幼い頃からからよく一緒に遊んだりしてたんだけど、

 まさかあのクソガキに

 こんなに可愛い婚約者ができるなんて………

 あなた、騙されてそうなったんじゃないわよね?

 もしくは何か弱みを握られたとか。」

「い、いえ!そんなことはないです!」


弱みというか、鎖を握られてるんです。

でも先生はそのことに関して聞いてないみたいだし、

いずれ知られることになるだろうけど

それまでは黙っておこう。その方がよさそうだし。


「今日は王子妃教育はお休みにして、

 まずはあなたがどんな子なのか知るために

 いろいろと教えてくれないかしら?」 

「わたしのこと、ですか?」

「そんな堅苦しく考えなくていいの。

 好きな事とか、好きな食べ物とか。

 ………あのクソガキにイジめられてないか、とか?」

「!」

「あの子は昔から狡猾で腹黒かったし、

 将来結婚する相手も似たような性悪女か

 見た目にツラれたおバカな女を選ぶかと思ってたのに、

 あなたみたいな"真っ白"なお嬢さんを選ぶだなんて。」

「………"真っ白"?」

「だってアレに近づいてきてたのって、

 見た目が派手なおバカそうな子が多いじゃない?

 まぁそうやって自分を目立たせて

 なんとかリアムの目に留まりたかったんだろうけど

 私こそが王子の婚約者にふさわしい!みたいな

 勘違い女が多かった気がするのよねぇ。」

「……………………。」


それ、フィオナ様のことかな?

見た目は確かに派手だし、おバカかどうかは知らないけど、

自分こそが婚約者にふさわしいって思ってたはずだし。

あの人が婚約者になってこの先生と会ってたら、

きっとお互いの派手さに驚いたんじゃないかと思う。


「それが蓋を開けてみたら、

 純粋無垢でケバさなんて微塵もない、

 公爵家できちんと教育を受けた

 可愛らしいお嬢さんが出てくるんだもの。

 ………やっぱりあの顔が良かったの?」

「ま、まさか!

 そんな理由で王子の婚約者になんてなりません。

 顔で選ぶならもっと気楽な立場の方を選びます。」

「そう?

 ………じゃあ他に、

 あのクソガキを選んだ理由があるってことね。」

「!」

「まぁバルドから聞いた話だと

 あなたよりリアムの方が熱を上げてるみたいだし、

 その辺もいろいろ聞かせてちょうだい?」

「え、えっと。それは………。」


気まずそうに視線をそらすシェリルを見ながら、

ヴィンセントはいじわるな笑顔を浮かべたのだった。



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