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「………っ、は。」
アイリーン達と別れ、
気づけば早足で廊下を歩いていたシェリルは、
上がってしまった息を整えるため足を止める。
………ゼインに触れられた瞬間に感じた感覚。
恐怖でも嫌悪感でもない、
あれはむしろ"心地良い"と呼べる感覚。
「………なんなの。」
ゼインと会うのは今日が初めてではない。
パーティーがあったあの夜、
2回も彼に抱き止められるかたちになったのに、
その時こんな感覚は無かった。何も感じなかったのに。
ゼインに掴まれた手を見つめながらシェリルはなぜか、
自身の腕に浮かび上がっているアザが
熱を持っているような気がして、
腕を覆っている服の袖をスルスルと捲りあげた。
「……………なんで。」
アザが………薄くなってる?
捲りあげた袖の下にある、鎖のように見えるアザが、
今朝見た時よりもずっと薄くなっている。
呆然と自身の腕を見つめていたシェリルの耳に
「………こんなところにいたの?シェリル。」
今一番会いたくない人の声が聞こえた。
じっと黙ったまま、
こちらを見ようとしないシェリルを不思議に思ったのか
その人物がこちらへと向かって歩いてくる。
………お願い、近づかないで。どうしてここにいるの?
今はあなたに会いたくない、話したくないんです。
声にならない声を心の中でつぶやく。
「シェリル………?」
自分の背後に立ち、覗き込むように話しかけてくる彼の顔を
シェリルは見ることができない。
先ほどアイリーンとゼインと話していた内容のせい?
リアムも自分と出会うまではたくさんの女性と
"大人の関係"を持っていたかもしれないから?
それとも、
ゼインに手を掴まれた時のあの心地良い感覚に、
なぜか罪悪感を感じてしまっているから?
「…………ねぇ、どうしたの?シェリル。
具合でも悪い…………。」
そう言って心配そうに声をかけるリアムの視線が、
自分の顔から袖を捲って露わになっている腕に移ったことに
シェリルは気づき、捲っていた袖を元に戻そうとしたが
その手をリアムが掴んで阻止する。
「リ、リア…………。」
「………なんで?
どうしてアザが薄くなってんの?」
腕を掴んだままそうつぶやいたリアムの声は
冷たい怒気を含み、シェリルを青ざめさせる。
「わ、わかんな………。」
「なにしたの?
薬でも塗った?医者にでも診てもらった?
ついこの間まではくっきり浮かび上がってたよね?」
「な、なにもしてません………
自分でも、どうしてか…………。」
シェリルは嘘をつく。
………ゼインに触れられた時、
感じたことのないあの感覚を味わった時、
きっとこのアザも何かしらの反応を示したのだ。
「で、でも、薄くなっても、
べつに困ることは何も………。」
「ダメだよ。………薄くなって消えちゃったら、
シェリルは俺から離れていっちゃうでしょ?」
「?!」
「このアザは、シェリルが俺のものだって証だよ?
シェリルはずっと、一生死ぬまで、
俺のものでいなきゃダメなんだから。」
リアムから漂うその黒い影に、
シェリルは危険を感じて距離をとろうとする。
だが自分の手を掴んでいるリアムの力は、
とてもじゃないが振り払える弱さではない。
「………あぁ、もう、
このアザだけじゃ不安で物足りないかも。」
「!」
「でもいいよね?俺たち婚約者なんだから。
………楽しみは大事にとっておこうかと思ってたけど
どうせ俺がもらうんだから、いつヤっても同じだよね。」
そう言ってリアムは、
シェリルの手を掴んだまま歩き出す。
「リアム様っ、待って!止まって!!」
「やだ。」
「っ………ど、どこに行く気ですか?!
こんな、引っ張らなくても、ちゃんとっ………。」
「いやだね。
そう言ってシェリルはすぐ逃げようとするから。
………あぁ、それとも?
人に見られながらするのがいいの?シェリルは。」
「はっ?」
リアムが何を言っているのかわからず
そのまま引き摺られるように連れて来られた場所は、
パーティーの時にも担ぎ込まれたリアムの寝室だった。




