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その鎖、まぼろしです。  作者: クロネコ
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それからしばらく経ったある日。

聞いて欲しい話があると言って尋ねてきたシェリルを

友人のジネットは快く自宅に迎え入れる。

幼い頃からの友人である彼女は、

シェリルにとって悩みを相談できる数少ない人間の一人だ。


「なんだか大変そうね?シェリル。」

「………大変なんてもんじゃない。」

「あの騒ぎのことも聞いたわ。

 またフィオナとやり合ったんでしょ?

 あの子も相変わらずあなたにご執心ねぇ。」

「………いらない、あんなご執心。」

「………で?ほかに何があったの?」

「…………………。」


このところ、リアムの攻撃がすごい。

婚約者として交流を深めるべきだと

用もないのに王城に呼び出され、

隙あらば手を繋ごうとしたり、抱きつこうとしたり、

髪に頬ずりされながら甘い言葉を囁かれたり。 

そういうことへの免疫がゼロなシェリルは、

されるたびに顔を赤くして、抗議の声を上げるが、


「甘やかしたいから甘やかすのの、何が悪いの?

 これでも我慢してる方だよ?

 この先もっとすごいことするようになるのに

 シェリル大丈夫?耐えられる?体力もつ?」

「……………少し黙ってもらえます?」


膝の上に乗せられてそう言われた時のことを思い出し

シェリルは顔をポンっと赤くする。

どうやら彼は、自分と二人でいる時だけ甘くなり、

仕事中は穏やかな笑みを浮かべつつ、

部下たちに緊張感を与えるオーラを出し、

甘い雰囲気なんて微塵も感じさせないらしい。

補佐官見習いとしてリアムのそばで働くレンも


「………仕事中の殿下?

 顔は笑ってるけど失敗は許さないみたいな、

 サッサと終わらせろ、出来るだろ?みたいな

 冷たいオーラを出しながら仕事してるよ。」

「………………。」

「殿下の側に仕えてる人って優秀な人が多いんだけど

 それに加えてあの笑いながらかけてくるプレッシャーに

 耐えられる人じゃないとやっていけないんだよね。

 まぁちゃんとやれば褒めてくれるし、

 理不尽に怒ったりはしないんだよ?

 なんで出来ないのか理由も聞いてくれるしね。」

「…………二重人格なの?あの人。」

「甘いのは姉さんにだけだよ。

 ………だから頑張ってよね?

 姉さんと何かあった日はこっちにとばっちりがくる。」

「………………あぁ、そう。」

 

そんな話をレンから聞いて、

シェリルは恥ずかしくなると同時に、

このままじゃダメなのではないかとも思う。

リアムは確かに自分に甘い、

だが自分と会う時間を作るためにも、

やることはしっかりやっているのだ。

王子として民のために策を考え、守るための職務を。

ならば自分は?

リアムに甘やかされて、

このままではただの"お飾りの妃"になるだけだ。


「………………。」


突然自分のところに話があると言って訪ねてきたシェリルを

ジネットはただ黙って見つめていた。

何を思い出したのか突然顔を赤くしたり、

かと思えば真剣な表情で悩みだしたり……

コロコロと変わるその表情に、

きっと殿下絡みね、とジネットは予想する。

無理に自分から話を振るより、

話し出すのを待っていた方がいいと判断したジネットに

意を決したようにシェリルは話しだした。


「………このままじゃダメだと思って。」

「…………………。」

「ただリアム様に甘やかされて、

 なんにも出来ないただの王子妃になるなんて………

 それじゃあ対等な立場でリアム様の隣には立たない。」

「………じゃあ、シェリルはどうしたいの?」

「もっといろんなことを知りたい。

 リアム様の為にも、もちろん自分の為でもあるけど

 王子妃として恥ずかしくない人間になりたい。

 ………だからその為に、

 もっといろんなことを勉強したいと思う。」

「………そう。

 それならそれを、ちゃんとリアム殿下に伝えなきゃね?」

「!」

「あなたはもう、ただの公爵令嬢じゃない。

 王子の婚約者として、ゆくゆくは王子妃として、

 この国を守っていかなきゃいけない立場になった。

 だからこそ勉強して、

 リアム殿下や国民の為に力をつけたいと思うなら

 まずはその事をリアム殿下に知ってもらわなきゃ。

 黙って行動に移せる立場じゃないし、

 そんなことをしたらまた怒られちゃうわよ?」

「………わかってる。………でも。」

「言う前からダメだって言われるのを怖がってたら

 今となにも変わらないって、

 それをわかってるから悩んでるんでしょう?

 ………シェリル。………思っていることは

 ちゃんと言葉にしないと伝わらないのよ?」

「!」

「したい事も、して欲しい事も、

 ちゃんと相手に伝えなきゃダメなの。

 心の中で考えてるだけじゃ伝わるワケがないわ。

 あなたは自分の言いたいことを我慢して、 

 気持ちを殺して生きていけるタイプじゃないでしょ?

 ………きっと大丈夫。

 リアム殿下ならわかってくれるはずよ。」

「…………うん。」


ジネットにそう言われ、

きっとすぐには了承してもらえないであろう自分の提案を、

リアムに伝えてみようと決意する。


「………ところでシェリル?

 もちろんいつもの"パイ"は食べて帰るのよね?」

「!!………いいのっ?」

「あなたが来たって知って

 急いでメイドたちが調理場に走って行ったわ。

 だからパイが出来上がるまでいろいろ聞かせてくれない?

 ………リアム殿下とのあまーい話とか。」

「!!!」


ポンっと顔を赤くしたシェリルを

ジネットはクスクス笑いながら見つめ、


…………大丈夫よ、シェリル。

あなたならきっと、立派な王子妃になれるわ。


そう心の中でつぶやいた。



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