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その日の夜、夕食の席に着いていたシェリルは
「そういえば姉さん、どうやって殿下を起こしたの?」
「うぐっ。」
レンからの突然の質問に、
思わず口の中の物を吹き出しそうになる。
この場に両親がいないのが不幸中の幸いだ。
「…………なっ、なに?急に。」
「執務室にいた全員が驚いてたよ。
あの人、寝起きがものすごい悪いから
いつもなら不機嫌丸出しで部屋に入ってくるのに、
今日は上機嫌で仕事もこなしてたから。」
「………………。」
今朝リアムにねだられた"おはようのキス"が
絶大な効力を発揮していたことを知って、
シェリルはなんとも言えない恥ずかしい気持ちになる。
………あの時。
そんなの無理、出来ないと拒否したシェリルに
"………じゃあ起きない"とリアムは拗ねた。
シェリルが何を言っても、
拘束された腕の中でどれだけもがこうと、
顔をフンと逸らしたまま無言の抗議を続けたのだ。
………この人、私より年上のはずだよね?
拗ねてそっぽを向くリアムを見て呆れるシェリルだったが、
ずっとこのままでいるワケにもいかない。
「………リ、リアム様。」
「…………………。」
「こっち向いてください。
………おはようのキス、して差し上げますから。」
「!」
そう言った瞬間、リアムがこちらを向く。
………大丈夫、できる。
唇を軽く当てるだけ、唇を軽く………
そう思いながらシェリルは
リアムの顔におずおずと自分の顔を近づけていくが、
ふとあることに気づく。
…………おはようのキスって、唇じゃなくてもよくない?
「………シェリル?」
動きを止めたシェリルを
リアムが不思議そうな顔で見つめる。
「………おはようございます、リアム様。」
にっこり笑ってシェリルは、
リアムの"頬"にキスをした。
「!」
「………これも立派なキスですよね?
だから約束どおり起きてください。」
そう言って勝ち誇った笑みを浮かべるシェリルを見て
リアムは一瞬あっけにとられた顔をしたが、
すぐにクスクス笑い出す。
「………いいよ。今日はコレで起きてあげる。」
リアムも同じように、シェリルの頬にキスをする。
そのことに少し驚きつつ、
力が緩められた腕から抜け出したシェリルに
「…………でも次からは
ちゃーんと唇にしてね?シェリルちゃん?」
今度はリアムが、不敵な笑みを浮かべたのだった。




