36
「………キミ、よく転びそうになるね。」
「……………ははは。」
隣にいたメガネの男性が腕を掴んでくれたおかげで、
シェリルは後ろにひっくり返ることはなかった。
………が。
「………シェリル。」
「!!」
後ろから聞こえてきた自分を呼ぶ声に、
シェリルは"あぁぁぁ……"とうなだれた。
「………どこに行くつもり?」
いつの間にか背後に立ち
シェリルの顔を覗き込んだリアムは、
目を細め、口元にはうっすらと笑みを浮かべてはいるが
その不機嫌さを隠そうとはしていない。
「リ、リアム殿下………どうしてここに………。」
「どうしてって、
自分の婚約者を迎えに来ただけだよ?
………それとも、
本気であの女を後釜に据えるつもりだったの?」
「!」
「やることが可愛いよねぇ、シェリルは。
………でも残念、あれはいらない。」
そう言うとリアムは、
ひょいっとシェリルを担ぎ上げた。
「婚約者はキミで十分だよ、シェリルちゃん。」
「どっ、なっ、お、降ろしてっ!!」
「まだ話は終わってないから。」
シェリルを抱えたまま、リアムは来た道を戻っていく。
その光景をあっけにとられて見ていたメガネの男性が、
「………アレが、王子の婚約者?」
そうつぶやいたことを、二人は知らない。
「ねー、さっきの男だれ?」
「っ………し、知らない!
そ、それより、降ろして………っ。」
荷物のようにシェリルを担ぎ、リアムはスタスタと歩く。
せめて、違う抱き上げ方で運んでもらえないだろうか。
お腹あたりがちょうどリアムの肩にひっかかり、
シェリルはちょっと苦しくなっていた。
「知らない男となにしてたの?浮気?」
「はっ?!だ、だれが浮気なんて…‥…!」
「俺にあんな女をあてがっておいて、
自分はほかの男と遊ぶつもりだったの?」
「なに言ってっ………。」
「そんな暇があるなら、俺の相手もできるよね。」
そう言ってリアムは、
パーティー会場の入り口ではない扉の前で足を止めた。
そしてそのまま扉を開き、中へと進んでいく。
「リ、リアム様…………ここって。」
顔をあげてあたりを見回すと、そこは寝室らしき部屋。
来賓用にしては広すぎるその部屋に、
シェリルは嫌な予感がした。…………まさか。
「んー?………俺の寝室だよ?」
その言葉に顔を引き攣らせたシェリルは、
ポーンとベッドに放り投げられた。




