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その鎖、まぼろしです。  作者: クロネコ
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シェリルが早足で去ったあとのその場には、

なんとも言い表せない空気が流れていた。


「………リアム殿下。」


フィオナが色っぽい目つきで呼べば、

シェリルが去って行った方を見つめていたリアムが

静かに振り返る。


「シェリル様との婚約破棄が正式に行われたら、

 私にお時間をいただけますか?

 リアム殿下や王太子様にもお伝えしたいことがありますし。」

「………今ここでどうぞ?」

「えっ?」

「伝えたいことがあるんだよね?

 なら今ここで言ってもらって構わないよ。」


いつもの優しいまなざしとは違う、

怒りを宿したような瞳でリアムにそう言われ、

フィオナは一瞬たじろいだが、すぐに気持ちを立て直す。


「シェリル様との婚約が正式に破棄されましたら、

 私と婚約を結び直していただけませんか?」


自分より背の高いリアムを上目遣いで見上げながら、

フィオナは甘えた可愛らしい声でリアムにお願いすると、

周りにいる者たちがざわつき始める。

先ほど"まだ"婚約者のシェリルが去ったばかりなのに、

もう次の後釜に自分を推薦するなどと、

フィオナの傲慢さに驚く者もいれば、

あの方ならばリアム殿下の婚約者に相応しいと

同調する令嬢たちの姿も見られた。

だがその令嬢たちがフィオナの取り巻きであることぐらい、

リアムにはわかりきっていた。


「あなたが、俺の婚約者に?」

「えぇ、そうですわ。

 シェリル様は何の取り柄もない、

 容姿も普通のただのご令嬢に過ぎません。

 そんな方がリアム殿下の婚約者だなんて、

 どこのご令嬢に聞いても納得しませんもの。」

「………じゃあキミはシェリルとは違うと?」

「もちろんですわ!

 シェリル様と同じなのは公爵家の娘というだけで、

 容姿も博識の広さも

 もちろん社交の場での立ち回り方も、

 すべてにおいて私の方が優れていましてよ?」

「へぇ………。」

「あの方と来たら、

 昔から男性を虜にするのだけはお得意らしくって、

 そのくせどの男性にも冷たい態度をとられるんですの。

 きっとリアム殿下にも

 失礼な態度をとっていたのでしょう?」

「………失礼な態度、ねぇ。」

「私がもっと早く、父にお願いしていればよかったのです。

 私をリアム殿下の婚約者にと申し出てほしいと。

 ですがリアム殿下をお慕いしているご令嬢達に

 引け目を感じてしまって………

 だってもし私が婚約者に決まったら、

 皆さんのリアム殿下を

 私が独り占めすることになりますもの。」


そう言ってうっとりと微笑んだフィオナを見て

リアムは思わず笑ってしまったが、その笑みが、

自分をあざ笑うものだとフィオナは気づいていないようで

なぜか頬を赤く染め始めた。


………バカな女。


リアムが心の中でつぶやくと、

目の前にいるフィオナが話を続けようとする。


「ですが、

 リアム殿下を誰よりも慕っているのは私ですから、

 きっと皆さんもわかってくれますわ。

 そしてすぐに認めて納得するはずです、

 リアム殿下に相応しいのは…………。」

「あのっ!!」


『私しかいない。』

そう言葉を続けようとしたフィオナの声に

被せるように声をあげる者がいた。


「突然の発言申し訳ありません!!リアム殿下!

 で、ですがっ

 どうしてもお伝えしたいことがあります!」


緊張からか少し声を振るわせ、

リアムに発言の許可を願い出たその男性は

この騒ぎが始まる前まで

シェリルと談笑していた隣国の客人だった。




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