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シェリルがフィオナに絡まれる少し前。
リアムは自分に声をかけてきた隣国の要人との話を終え、
シェリルを探しに行こうかと人混みに視線を向けた。
自分が持つ不思議な力を使えば
簡単にシェリルを見つけることはできる。
だが今ここで使えば、彼女がケガをするかもしれない。
それならば自分が迎えに行った方がいいかと、
人混みの中に向かおうとした時だった。
「リアム殿下。」
「…………レン?」
いつのまにか隣にいた見習い補佐官に声をかけられ、
シェリルを探しに行こうとしていた足を止める。
「………姉さんでしたら、あそこですよ。」
「!」
「つい先ほどから、一人のご令嬢に捕まっています。」
「……………………。」
「あのご令嬢、
事あるごとに姉さんにつっかかるんですよね。
公爵家の方ですから、
今日も来てるだろうとは思ってたけど。」
そう言ってレンが見ている方に視線を向ければ、
たしかにシェリルが
派手な赤いドレスを来た令嬢と向かい合っている。
「きっとまた嫌味の嵐でしょうね。
まぁ姉さんも黙って聞いてるだけではないでしょうけど。」
「………シェリル"らしい"ね。」
「でも今日の嫌味は、きっとあなた絡みだと思いますよ?
………たしかあの方、
あなたを慕っているはずですから。」
「!」
どんな対応してるんでしょうね?と言って、
レンはシェリルがいる方に視線を向ける。
「早く迎えに行った方がいいと思いますよ?
姉さんが何言ってるかわかりませんから。」
レンがそう言い終わるのと同時に、
リアムはシェリルに向かって足を進めていた。
「シェリル・ファルツォーネはあなたに相応しくないと。
あなたに相応しいのは…………このわたしだと。」
フィオナをまっすぐに見つめ、シェリルは言う。
この人がリアム殿下を慕っていることは
ずっと前から知っていた。
自分こそがリアム殿下に相応しいのだと、
取り巻きのご令嬢たちに言っているのを聞いたことがある。
………ならば、あなたがあの人の隣に立てばいい。
自分と同じ公爵家の令嬢の立場だ、身分も問題ない。
そしてなにより、リアム様に惚れ込んでいる。
「い、いいわ!
私からリアム殿下に伝えてあげる!
あなたのような、なんの取り柄もない令嬢より、
私の方がよっぽどあなたに相応しいって!」
「…………えぇ、そうしましょう。」
悲しむフリをしながら、シェリルは下を向く。
………こんなにうまくいくなんて。
そう心の中で思いながら、口を緩ませそうになる。
これだけ大勢の前でリアムに助言すると言ったのだ、
フィオナも引くに引けないはずだ。
この大勢の人に証人になってもらいましょう?フィオナ様。
笑ってしまいそうになる口元に力を入れ、
シェリルは悲しげな表情で顔をあげた。




