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「………お久しぶりですね、フィオナ様。」
豊かな金髪をゆるくカールさせ、
真っ赤なドレスを見に纏ったその女性は
シェリルを見るなり嫌な笑顔を浮かべる。
「シェリル様は質素で素朴な方ですから、
この会場の中で探すのは苦労しましたわ。」
それはつまり、シェリルが地味だと言いたいのだ。
地味な自分をわざわざ探し出して姿を見せたのは、
間違いなくリアムとの婚約に関して
何かイチャモンをつけに来たに違いない。
ちなみに彼女とは幼い頃からの顔見知りで、
彼女も自分と同じ公爵家のご令嬢だ。
その関係もあって、
同じパーティーなどで顔を合わせることが多かった彼女は
なぜかいつも自分につっかかってきた。
やれドレスのデザインが古いだの、
つけているアクセサリーが似合っていないだの、
挙げ句の果てには取り巻きのご令嬢たちを引き連れて、
取り囲むようにして嫌味を言われたこともあった。
「そうですね。
わたしにはフィオナ様が着られているような
真っ赤なドレスを着る勇気はありませんから。」
軽くそう返せば、
フィオナはシェリルを値踏みするようにじっと見る。
またお得意の粗探しでもしているんだろうと、
シェリルは黙ったままおとなしくしていた。
「………それにしても、
どうしてあなたがリアム殿下の婚約者に?
もっと相応しい人間がいるというのに。」
「そうですね、わたしも不思議です。」
「あなた、どうやって殿下に近づいたの?
お父様にお願いしたの?
それとも王城に勤める弟に
殿下と引き合わせてくれるように頼んだの?」
「…………………。」
「そうでもしないと、
あなたみたいな方がリアム殿下と婚約なんて
出来るわけないものね?」
フィオナの口攻撃を聞いて、
周りにいた客人たちがヒソヒソと話し出す。
この場にはもちろん、
二人のことを知っている令嬢たちもいる。
その中にはフィオナの取り巻きたちもいて、
シェリルの方を見ながらクスクスと笑っている。
「今からでも婚約破棄を申し入れたらどう?
リアム殿下もきっと、
あなたのような人間が婚約者だなんて
ほんとは嫌でいらっしゃるかもしれないわ。
………いいえ、きっと嫌なはずよ。」
「……………やっぱりわたしでは、
リアム殿下の婚約者なんて務まりませんよね。」
「!」
「もっと聡明で、見目麗しいご令嬢が、
この国にはたくさんいらっしゃいますから。
………殿下にも嫌な思いをさせているのですよね。」
「えぇ、きっとそうよ!
だからあなたからお断りするべきだわ。
リアム殿下はお優しい方ですもの、
自分から婚約破棄を言い出せないだけなのよ。」
「………そうなんですね。
きっとリアム殿下に相応しいご令嬢というのは、
フィオナ様のようにリアム殿下のことを
よくわかってらっしゃる方なんでしょうね。」
シェリルは心苦しいというような、そんな表情をして、
フィオナをジッと見つめそうつぶやいた。
リアム殿下に嫌々婚約させてしまったご令嬢、
リアム殿下に相応しくないご令嬢、
リアム殿下にふさわしいのは、わたしではない。
「ではそのようにリアム殿下に、
フィオナ様からも助言していただけますか?」
「え?」
「シェリル・ファルツォーネはあなたに相応しくないと。
あなたに相応しいのは…………。」
わたしのような、………いや、わたしだと。




