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騙されるようなかたちで
リアムとの婚約が成立してしまったシェリルは、
ヘトヘトに疲れ果てて屋敷へと帰宅した。
自分が第二王子の正式な婚約者になったことに対し、
父はそうだろうね、と諦めたような顔をし、
母はそうでしょうね、となぜか嬉しそうだった。
「これで完璧に逃げ場を失ったわけだ。」
「………そんなことない。」
弟のレンにそう言われて、シェリルは首を振って否定する。
実はまだシェリルには、考えている策があるのだ。
「もう諦めたら?
どんなに姉さんが頑張って逃げようとしても、
あの殿下から逃げられるわけないよ。」
「そんなのわかんないでしょ?
それにわたしからすれば
生きるか死ぬかの死活問題よ。」
「そんな大袈裟な………
姉さんがおとなしく殿下の寵愛を受け入れれば
言い伝えのようなことはされないと思うけど。」
「"受け入れれば"でしょ?
悪いけどそんな気はまったく無いし、
あの人の寵愛とか怖すぎて無理…………。」
そう言いながら、シェリルは今日あったことを思い出す。
………ファーストキスだったのに。
あんなわけもわからない状況で、
顔をそらしてやめてくれと必死で抵抗したのに、
リアムはそれを許さず、何度も唇を重ねてきた。
しかも彼は、苦しくて息継ぎがうまく出来ない自分を、
クスクス笑って愉しそうに見ていたのだ。
………そんな人の寵愛なんて、普通じゃないに決まってる。
「それにレンだって嫌でしょ?
自分の上司が姉の婚約者なんだよ?
わたしが万が一リアム様を怒らせたりしたら、
アンタにとばっちりがいくかもしれないのに。」
「あの人は公私混同しないタイプだから。
………それに殿下は、
よっぽどのことじゃない限り怒らないと思うよ?
ハイハイ、よしよし。って、
宥められて終わりだと思うけどな。」
「…………………。」
「顔良し、身分良し、
おまけに自分のことを誰よりも寵愛してくれる、
それのなにが不満なわけ?」
「中身に決まってんでしょ!」
たとえ世のご令嬢たちが夢中になる男性だとしても、
自分にとっては恐怖の対象でしかない。
………逃げろ、捕まるな。と、
自分の中の"何か"がそう告げるのだ。
もしかしたらそれは言い伝えに出てくる女性からの忠告で、
彼女が味わった"恐怖"を
自分も受け継いでいるのかもしれない。
ならば足掻いて、逃げてみせる。
腕にあるアザが、
いつ本物の鎖に変わってしまうかわからないのだから。




