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「…………………。」
シェリルは後悔していた。
つい先ほど、差し出されたリアムの手を取ったことを。
「食べないの?シェリル。」
「…………………。」
「せっかく持って来させたのにひとつも口にしないなんて
用意した人間が悲しむと思うけどなぁ。」
「…………………。」
黙ったままのシェリルの視線の先には
いろいろな種類のお菓子がずらりと並べられ、
食べられるのを今か今かと心待ちにしている。
普段ならアレもコレも手をつけているだろうが、
今はお菓子どころではない。
「………そう思うのなら、
この状況をなんとかしてもらえませんか?」
「どうして?このままでも食べられるでしょ?」
「食べる食べないの前に、この格好が嫌なんです!!」
………現在シェリルは、
リアムの膝の上に乗せられ、
腰あたりをガッチリ掴まれた状態だ。
そんな状況で
どうやって目の前のお菓子を食べろと言うのか………
そもそも先ほど父や王太子がいる部屋から出て、
この部屋に辿り着くまでずっと、
手を繋いだままだったのがいけなかった。
ここに着くなりひょいっと膝の上に乗せられ、
その格好のままリアムがメイドを部屋に招き入れた時には、
顔から火が出るんじゃないかと思うぐらい恥ずかしかった。
「さっき言ったでしょ?
シェリルを甘やかして骨抜きにさせる自信があるって。
そのためにもまずはお互いの体を………。」
「そういうのはいらないんです!!
というか甘やかされて骨抜きにされたくないんです!!」
グググと力を込めてリアムの腕から抜け出そうと
シェリルは体を捩らせてみるが、まったくビクともしない。
筋肉隆々には見えないその細身の体の
一体どこからこんな力が湧いてくるのか。
「ねぇ、どうしてそんなに嫌がるの?
ワガママも聞いてあげるし、甘やかしてあげるし、
シェリルが望むことなら叶えてあげるよ?」
「いや、おかしいですよね?
わたし達つい最近初めて会って
ちょっと話したぐらいの関係ですよね?
それがなんでそこまでしてもらう関係になるんですか?」
「シェリルの全部、俺が貰うからだよ。」
「………な、」
「だからそのお返しに望みは叶えてあげる。」
自分の膝の上にシェリルを乗せたまま、
リアムは満足げな笑みを浮かべている。
それとは対照的に、シェリルの顔は真っ青だ。
「そ、それなら、
わたしじゃなくて他の人を…………。」
婚約者に選んでください。
と続けようとしたシェリルの言葉を予想していたのか、
「叶えてあげられることならね。」
そうリアムにピシャリと言われてしまったが、
ここで黙ってしまったら相手の思うツボだと
シェリルは自分の中に残された
ほんの少しの勇気を振り絞る。
「………叶えられるはずです。
わたしの望みはリアム様に、
わたしではない方を婚約者に選んでいただくことです。」
それがわたしが叶えて欲しい望みだ。
昔の言い伝えとか、腕にある鎖みたいなアザなんて
この際どうだっていい。
とにかくこの王子は危ない、普通じゃない。
「………いいよ。わかった。」
「…………へっ?!」
すんなりいいよと言われ、
シェリルは拍子抜けして変な声をあげてしまう。
だが驚いている場合ではない、
すぐにでも王太子と父に伝えに行かなくては!と
意気込むシェリルに、
「そこらへんにいる
テキトーなご令嬢に婚約者になってもらって、
結婚はシェリルとすればいいよね?」
「そうじゃない!!そうじゃないんです!!」
噛み合わない答えが返ってきた。
「だって結婚はシェリルと絶対するし、
でも婚約者にはなりたくないって言うなら、
結婚するまで誰かに身代わりになってもらわないと。」
「その方とそのまま結婚したらいいんですよ!!」
「え、絶対やだ。無理。
そんなことになるならシェリルと一緒に死ぬ。」
「勝手に殺さないでもらえます?!」
「じゃあシェリルが婚約者になって?
それでそのあとすぐに結婚しよ?」
「嫌だし、無理です。」
はぁ、とため息をつくシェリルを膝に乗せたまま、
リアムはテーブルのお菓子に手を伸ばす。
一番手前にあった皿からクッキーを一枚つまむと、
そのままシェリルの口辺りまで持ってくる。
「はい、あーん。」
「…………なんですか?このプレイ。」
思わず出たこの言葉が、
また自分を窮地に追い込むことになるとは
この時まだシェリルは知らなかった。




