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自分の向かい側に座るその人が、
こちらを見ながらニコニコと微笑んでいるのを
シェリルはなんとも言えない気持ちで見つめる。
………その笑顔の裏で、何を思っているのか。
そう考えるだけで身震いがして、視線をそっとそらす。
そんなシェリルの横に座っている父が
この場に漂う気まずい空気を打ち消すかのように話し出す。
「バルド様、リアム様。
先日いただいた書状についてですが………
書かれていた内容に間違いはありませんか?」
「………ないよ。
ぜひシェリルに"僕"の婚約者になってもらいたい。」
普段は絶対に
自分のことを僕なんて言わないであろうリアムが、
ファルツォーネ公爵の方を見ながら答える。
嘘でも冗談でもなく、
本気でシェリルを婚約者にと望んでいる証拠だ。
「ですが………
あまりに突然のことで私も娘も驚いているのです。
リアム様と娘の間に交流などなかったはずですし、
なぜ急にこのような申し入れを………?」
「………一目惚れです。」
「はっ?」「えっ?」「なっ?」
リアムの突拍子もない発言に、
ファルツォーネ家の父と娘、
それに王太子までもが驚きの声をあげる。
「先日こちらに来ていたシェリルを見て、
恥ずかしながら一目惚れしてしまって。」
「ひ、一目惚れですか………。」
唖然とする父を尻目に、
息を吐くかのようにスラスラと嘘をつくリアムを、
シェリルは軽蔑のまなざしで見ていた。
………絶対違うじゃん。
あなたが持って生まれたその血が、
昔から続く呪いが、わたしを欲しがってるだけだよね?
鎖で繋いで監禁したいって思ってるんでしょ?
そうしようと考えてるんでしょ?
それのどこが一目惚れって話になるの?
「それに……公爵もご存じですよね?
シェリルの腕に浮かび上がったアザのことは。」
「!」
「そのアザは、
何百年も前に王家の者と"愛し合った女性"と
同じ立場になる者の証なんです。
どれだけ時が経ち、見た目が変わっても、
必ず二人は巡り合い、愛し合う。」
「…………………。」
「二人を繋ぐ鎖が、
アザとなってシェリルの腕に浮かび上がった。
もう結婚してそばにいるしかないんです、僕ら。」
色っぽい表情を浮かべながらそう語るリアムを、
シェリルと父はぽかーんとした顔で見つめる。
つい最近初めて会ったばかりの二人が愛し合う?結婚する?
絵本に出てくる王子様とお姫様のような、
そんな素敵な関係じゃないでしょ……とツッコミたくなる。
「たしかに言い伝えに出てくる男は、
愛するが故に愛しい女にひどい仕打ちをしましたが、
それだけの想いを彼女に抱いていたからこそです。
片時も彼女を離したくない、
誰の目にも触れさせず、自分だけを見て欲しい。
口に出して言えば重すぎるように感じますが、
たいていの恋人たちは皆そうではないですか?
自分の相手が異性と仲良くしていれば嫉妬するし、
自分にだけ愛を囁いて欲しいと思うのは普通では?」
「………そ、それはそうですが。」
「言い伝えの男は身分の違いから結婚できず、
女に対しそのような行動をとってしまいましたが、
僕とシェリルは違いますよね?
爵位の高い公爵家の令嬢であれば
王家の人間と結婚することは可能ですし、
それに僕は国王になるわけじゃない、
ただの第二王子という気楽な立場です。」
「………まぁ、そうですな。」
シェリルには屁理屈に聞こえるリアムの熱弁に、
父が洗脳され始めている。
やはり父はアテにならない、期待はしていなかったが。
「で、でも、
リアム様にはもっとふさわしい女性がいるのでは?
………あれほどの浮き名を流されているのですもの、
優秀で見目も美しいご令嬢たちが
我こそがと婚約者の座を狙っているはずですわ。」
反撃の言葉を口にしたシェリルの唇は、
緊張と恐怖から少し震えている。
だが黙っているわけにはいかない。
洗脳されてしまった父はアテにならないし、
頼みの綱である王太子は黙ったままだ。
「言い伝えの二人の間には愛があったかもしれません。
ですがわたしとリアム殿下の間には
そのような"重い"愛は存在しておりません。
ですがきっと!
殿下のそばにいるご令嬢たちの中に、
重い愛を持って殿下を見つめる方がいるはずです。」
鎖で繋がれることも、監禁されることも、
喜んで受け入れてくれる令嬢はきっといる。
なにせ相手は見目麗しいこの国の第二王子、
身分も見た目も
すべてがパーフェクトといわれるこの男に
その身を喜んで捧げてくれるご令嬢を選べばいい。
「…………それなら。」
「!」
口元に薄笑いを浮かべ、リアムが見つめてくる。
「これからそうなればいいだけじゃない?
僕はシェリルを誰よりも愛してあげるし、
甘やかして骨抜きにさせる自信があるし。」
「…………い、いや。それはご遠慮させて…………。」
「それに、
シェリルは僕から"離れられない"でしょ?」
「!!」
「………離れられないことを証明しようか?今ここで。」
そう言ってリアムはあの時と同じように
すっと人差し指を立て、ニヤリと笑った。




