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その鎖、まぼろしです。  作者: クロネコ
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王家からの書状が届いて数日後、

シェリルは父とともに王城内の一室にいた。


先ほどメイドが淹れてくれた紅茶がテーブルの上にあるが、

とてもじゃないが口をつける気になれない。

これから話し合われる内容が頭の中をグルグルとまわり、

シェリルの気持ちをどん底に突き落としていた。


「………シェリル、大丈夫かい?」

「…………大丈夫そうに見えます?」


隣に座る父が心配して声をかけてくれるが、

むしろ何も言わずほっておいてほしい。

そして今すぐにでもこの場から逃げ出したい。

いっそ本当に逃げ出してやろうかな………

そんなことを考え始めていたシェリルの耳に、

部屋の扉を開ける音が聞こえてきた。

隣にいる父もその音に気づいたようで、

立ち上がるようそっと促してくる。


「待たせてすまなかったな、ファルツォーネ殿。」


二人にそう声をかけてきたのは、王太子だ。

明るい茶色の髪と、"あの"王子と同じ漆黒の瞳。

さすがは兄弟というべきか、

こちらもまた、ご令嬢たちに人気のイケメンだ。

だがすでに王太子には婚約者がいるらしく、

ならば狙うは弟だ!と息巻いているご令嬢もいるのだとか。


「………そなたがシェリルだな?」

「!」


思いがけず声をかけられ、

シェリルは驚きながらも挨拶をする。

………もうこの人しか、自分を助けてくれる人はいない。

あの第二王子よりも身分が高く、

婚約の話を無かったことにできるのはこの人しか!!


「すぐにリアムもこちらに来るはずだ。

 話は全員そろってから………。」

「王太子殿下。」

「!」


勇気を振り絞ってシェリルは王太子に声をかける。

あの王子がいない今がチャンスなのだ。


「王太子殿下、

 大変申し訳ございませんが………

 この婚約の申し入れ、お受けすることはできません。」

「!!

 シェ、シェリル?お前いきなり何を………!」


隣にいる父が驚き、焦るのを尻目に、

シェリルは言葉を続ける。


「リアム殿下はこの先、

 王太子殿下と共にこの国を背負っていかれるお方です。

 そのような高貴な方の隣に立ち、

 支えていく力など私にはありません。」

「…………………。」

「わたしのような者を婚約者にしてしまったら、

 リアム殿下に恥をかかせることになってしまいます!

 ですからお願いです、このお話は………!」


"無かったことにしてください!"

そう言葉を続けようとしたシェリルは、

あの時と同じ胸騒ぎを不意に感じ、言葉を止める。


………この感じ。


突然の胸騒ぎはあの日の事を思い出させ、

シェリルの心にはじわじわと恐怖心が広がり始める。


「………シェリル嬢?」


顔を下に向け、

突然黙ってしまったシェリルを不思議に思い

王太子が声をかけようとしたその時、

ガチャリと音がして部屋の扉が開く。


「遅くなりました。」


その声を聞いたシェリルは、小さく肩を揺らす。

部屋に入ってきたその人がこちらに向かってくるのも、

自分の横に立ち、その足を止めたことがわかっても、

シェリルは顔をあげることができなかった。


「…………シェリルちゃん?」

「!」


クスクスと笑いながら、自分のすぐそばに立つその人に

甘ったるい声で自分の名前を呼ばれ、

シェリルは思わず顔を上げてしまう。


「………リ、リアム殿下。」


目に映ったその顔は、愉しそうに微笑んでいた。



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