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晴れ渡る空の下。
屋敷の中では、シェリルの叫び声が響き渡っていた。
「やっぱり、逃げるべきだったじゃない!!!」
大声をあげながらシェリルは、
レンの襟元を掴んでブンブンと体を揺らす。
さすがのレンも姉の怒りを感じ、されるがままだ。
「………まさか、そうくるとは。」
「なにがまさかよ?!
話し合いもなにもっ、婚約ってどういうこと?!」
「………さすが殿下。行動が早いなぁ。」
ファルツォーネの屋敷に王家からの使いがきたのは、
シェリルの脱走計画が未遂で終わった翌日の朝。
王太子殿下からです、と書状を渡された当主は、
仕事のため王城へと向かう支度を終えたばかりだった。
「なんだ?
今日のことでなにか追加の伝達か?」
そう言いながら書状を確認した当主は
虚空を見つめしばし黙ったあと、
隣で自分を見送ろうとしていた妻に、スッと書状を手渡す。
なんですの?と夫から書状を受け取ると、
公爵夫人は中身を確認する。
そして夫と同じように虚空を見つめたあと、
ニヤリ。……と悪そうな笑みを浮かべた。
そんな悪い笑みを浮かべた母に、
同じく仕事のために登城しようとしていた息子が
何かあったんですか?と声をかける。
ふふふ。と笑う母から書状を受け取り、
中の文面を確認した息子はやはり虚空を見つめ、
しばし己の時間を止めた。
そしてバトンのように家族内で回された書状を
最後に受け取り見たのがシェリルだった。
「…………なにこれ。」
書状の中身を見たシェリルは絶句する。
………あの王子が、わたしに婚約の打診?
なんで?昨日初めて会ったよね?
ほとんど会話なんてしなかったよね?
レンの職場の上司なんだっけ?
でもそれとわたしは関係ないよね?
「………姉さ………。」
「やっぱり、逃げるべきだったんじゃない!!!」
こうしてシェリルは、
レンの襟元を掴むことになったのだ。
「諦めなさい、シェリル。
うちに断る理由はないわ。」
「なっ?!
娘がこんなに嫌がってるのに?!
それも立派な理由になるでしょ?!」
「なるワケないでしょう?
王子が嫌だから婚約したくありませんって?
そんなこと言ったらお父様の首がとぶわよ?」
「なんでそうなるの?!」
「もとよりお前が悪いでしょう?
私が用意した縁談をすべて断らずに
ひとつでも受けて相手を見つけていたら、
今回の話の断る理由になったかもしれないのに。」
「!」
目を細め、薄らと笑いを浮かべた唇で
「………バカね、シェリル。
親の言うことは聞いておくものよ?」
母はそう、小さな声で呟いた。




