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「………これぐらいあればなんとかなるよね。」
静けさが漂う深夜、
シェリルは小さなトランクに荷物をまとめ、
脱走計画を実行するために部屋から出ようとしていた。
必要最低限の荷物と、
何かあった時の為にと貯めておいたお金を持って。
「………父様母様ごめんなさい。
どうしてもあの王子は無理なんです。」
今まで育ててくれた両親にむけて
小さな声で謝罪の言葉を口にしたあと、
シェリルは部屋の扉をあけた。………が。
「ぎゃっ?!」
開けた扉の先に立っていた人影に驚き、
たった今出たばかりの部屋へと後ずさる。
「………姉さん、考えがバレバレなんだよ。」
「………レ、レン?」
「あの殿下から逃げられるワケないだろ?
いつもそばで見てる僕が言うんだから間違いない。」
そう言いながらレンは、
シェリルをグイグイと押して部屋へと戻す。
「殿下は狡猾だよ?
姉さんがどこへ行こうとも探し出して、
自分のところへ連れてくるように命じるよ?
そうなったら本当に鎖で繋いで監禁状態にするかもね。」
「だからっ、監禁とか言わないでよ!!
「それぐらい殿下はチカラもあるし、頭もキレる。
とりあえず屋敷から出て
後のことはゆっくり考えればいいなんて思ってる
甘い考えの姉さんが逃げ切れる相手じゃないよ。」
「ぐっ………。」
自分の考えをレンに見透かされていたことに驚き、
シェリルは言葉を詰まらせる。
「………それでも、
やっぱりあの王子はわたしには無理!
だってなんか怖い、怖すぎる!」
「そういう感情も引き継がれてるんじゃない?
初代が味わった
"鎖で繋がれて監禁される恐怖心"ってのが。」
「やっぱりただの呪いじゃない!!」
「………でもさ、
母さんの言うことも一理あるんだよ。
だって姉さん、婚約者がいてもおかしくない歳なのに
ことごとく縁談を断ってるだろ?
そこにこんな話を聞かされてなおかつ相手が王子なら、
母さんがあぁ言うのも仕方ないと思う。」
「そ、…‥そんなこと言われても。」
「だからさ、
鎖で繋がれるとか
監禁されるかもなんてまだわかんないんだから、
王子と少し話してみたらいいんじゃない?」
「…………話す?あの王子と?」
「向こうだって、
姉さんをどうこうする気はないかもよ?
こっちが深く考えすぎてるだけで、
王子はなんとも思ってないかもしれないし。
それにあのタイプの人は
逃げるよりもちゃんと話し合った方がいいと思う。」
「は、話し合う………。」
「だからひとまず逃げるのはやめなよ。」
レンにそう言われ、シェリルは肩を落とす。
確かにあの王子から逃げるのは難しいかもしれないが、
あの王子と話し合うのも至難の業ではないだろうか。
脱走計画はいったん保留にし、
シェリルはベッドに倒れ込む。
そんな哀れな姉を、弟はただ見守るしかなかった。




