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その日の夜、
シェリルは今日あった出来事を両親に話した。
………両親が自分を守ってくれるかもしれないと
一縷の望みをかけて。
「聞いたことがあるわ、その言い伝えなら。
………執着心の強い男には気をつけろって、
昔の人が考えた作り話かと思っていたけど。」
そう思うよね、やっぱり。
シェリルは母を見ながらそう思う。
まさかそれが本当にあった話で、
しかも男の方が王家の人間だなんて誰が思うだろうか。
「………でも、
その話のようにあなたを攫って、
鎖で繋いで監禁するなんてことはしないでしょう?」
「それはどうだかわからないよ?
なんといっても相手はあのリアム殿下だからね。
あの方は自分の心の内を人に見せるタイプじゃないし、
今日の様子からするときっと姉さんを………。」
手籠めにするつもりだ、と言おうとするレンを
シェリルはキッと睨んで制する。
「だ、だからね?!
わたしとしてはリアム殿下のそばから離れたいの!
母様の言うように、まさか監禁とかしないと思うけど、
それでも用心に越したことはないし、
わたしとしてはあの王子はちょっと怖いというか。」
"鎖で繋がれてる"なんて笑顔でいう人が
まともな人間であるはずがない。
それにあの指の動き………指をくいっとされると、
なぜかリアムの方に引き寄せられてしまうのだ。
まさに、見えない鎖で繋がれているかのように。
「まぁたしかに………
言い伝えがほんとうの話で、
自分が監禁された女性と同じ立場だと言われれば
シェリルが怖がるのは至極当然のことだね。」
「!!………父様っ。」
わかってくれる人間がここにいた!!
「父親としても、
可愛い娘が監禁されて鎖で繋がれるなんてことは
なんとも耐え難い仕打ちだからね。
………向こうが何か行動を起こしてくる前に、
シェリルを王子の手の届かないところに………。」
「何を言ってるの?あなた。」
「え?」
「言い伝えが本当だったとしても、
それは何百年も前の話で、現代の話ではないのよ?
実際にシェリルが監禁されるわけないでしょう?」
「で、でも!!
………それに近いことはするかもしれない?」
監禁とまではいかなくとも、
レンの言うとおり手籠めにされ、
嫁にいけなくなるような状態にされるかもしれない。
「相手が王子なら、それもよしでしょう。」
「…………………。」
平然とそう言ってのけた母に、
三人はあぜんとして言葉を失う。
………これはマズい。母様の暴走を止めなければ。
「か、母様はっ!
わたしが王子のてっ、手籠めにされてもっ
なんとも思わないってこと?!」
「もしそんなことにでもなれば、
あなたを妻として娶って貰えばいいでしょう?」
「なっ?!妻?!」
「うちは公爵家なのよ?
いくら相手が王家の人間だとしても、
公爵家の娘を手籠めにして捨てるなんてこと
許されるはずがないわ。
ならば素直にその寵愛をうけて妻にしてもらいなさい。」
「…………………。」
再び沈黙が訪れる。
どうやら母はシェリルが
リアム殿下と"そういう仲"になっても構わないらしい。
縁談を断り続け、一向に婚約者を作ろうとしない娘に、
ちょうどいい話が舞い込んできた………
そう思っているに違いない。
しかも相手はこの国の第二王子、
地位も身分も文句のつけどころのない男ときている。
「い、いやでもさすがに………
シェリルを妻にしようとは思ってないんじゃないか?
いくらうちが公爵家だとしても、
さすがに第二王子に嫁がせるのは………。」
「どこの馬の骨かもわからないような男に嫁がせるより、
よっぽど安心でしょう?」
ピシャリと言ってのける母に、父は言い返せない。
………それより、
なぜわたしがあの王子に嫁ぐと思っているのだろう?
嫁ぐどころか近寄ることもしたくないのに、
このままでは監禁されるどころか、
はい、どうぞ!と、
こちらから自分を差し出すつもりではないだろうか。
………家族の助けは得られそうにない。
こうなったら強硬手段に出るしかないと、
シェリルは再び、脱走計画を実行する決意をした。




