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「は?婚約したい?」
そう言って口をあんぐり開けているのは、
この国の次期国王となる王太子、バルドだ。
「あ、相手は?どこの王女だ?
というかいつの間に相手を見つけてたんだ?」
急に弟に"婚約したい人ができた"と告げられ、
バルドは驚きを隠さずにいた。
なんせプレイボーイと呼ばれ、
決まった女性と付き合うことをしてこなかった弟が
急に婚約したいと言い出したのだ、
何があったのかとうろたえて当然のことだろう。
「実は今日見つけたんだけど。」
「きょ、今日?!」
「そろそろ現れる頃かなぁとは思ってたけど、
まさか部下の身内だとは思わなかった。」
「………部下の身内?」
「俺のとこで見習い補佐官してるのがいるでしょ?
それのお姉ちゃん、ファルツォーネのご令嬢。」
「ファルツォーネ?……あの公爵家の?」
「そう。
だから身分的には問題ないよね?」
「そ、それはそうだが………
相手から承諾は得ているのか?」
「それはまだ。」
「じゃあダメだろ?!問題ありありじゃないか!!」
「明日にでも公爵家に使いを出すよ。
"お宅のお嬢さんをください"って。」
「そんな簡単にくださいって言う奴があるか!!」
「父上と母上にも使いを出すし、
俺としてはさっさと自分の手元におきたいから。」
「お、お前………婚約をなんだと思ってるんだ?」
この国の現国王と王妃は、
実際のところすでに隠居生活に入っている。
王太子であるバルドが
数年前から国王としての責務を引き継ぎ、
あとは戴冠式を行うだけ、といったところだ。
なのでリアムからすれば
国王(仮)である兄の許可さえおりれば、
すぐにでもシェリルを囲ってしまおうと考えていた。
「そもそもなんで急に?
今までファルツォーネの令嬢の話なんて、
お前の口から出たことなかっただろう?」
不思議そうにバルドが聞くと、
リアムは目を細め、嬉しそうに笑いながら答えた。
「…………彼女が"ソレ"だからだよ。」
「!」
"ソレ"とは、
リアムからすれば鎖で繋ぎたい相手のことだ。
そしてバルドは、
弟が鎖を握る者の血を引き継いでいることを知っている。
………半信半疑だったが。
「だが………
いくら彼女がそうだとしても、
正式に婚約の申し入れをしなくてはダメだ。
………いくらこちらが王家だとはいっても、
公爵家のご令嬢を"攫う"ようなマネはできん。」
そう言ってバルドは弟を見据える。
公爵といえば爵位の中でも一番上の位だ。
高位な立場のご令嬢を婚約者にしたいというのならば、
それなりの段階をふまなければ非礼にあたる。
「まずはファルツォーネの当主に登城してもらって、
令嬢との婚約を打診することからだな。」
まずはそこからだ。そう言ってバルドは
ファルツォーネ家に使いを出すように指示を出した。




