127
「言い伝えのことは聞いたことがあるけど、
まさかアナタたちが渦中の人間だったとはねぇ。」
一通りシェリルから説明されたヴィンセントは、
は〜、と長い息を吐いて納得したような顔をする。
もともとリアムの性格が歪んでいるのは知っていたが、
言い伝えの"血"まで受け継いでいるというのなら
ますますあの歪みに拍車がかかるわけだ。と。
「あのゼインって男、
うちと自分の国を行き来してる外交官よね?
しかもアイリーンの幼なじみで?」
「そうなんです…………
だから余計に外交官を他の方に変えてもらうのも
難しいと思うんです…………。」
「そうねぇ………
いざとなればあのクソガキの力で
どうとでも出来るでしょうけど、
特に問題も起こしてないとなると難しいかもね。」
「それに…………わたしには、よくわからないんです。」
「?
……………わからない?」
「………リアム様は、"血"に惑わされたワケじゃなく
自分の意志でわたしを選んだって言ってくれますけど、
それも心の底から信じられない時があって………。
だからゼイン様に関してはなおさら、
ただ昔の記憶に縛られて、"血"のせいにして、
彼女の面影をわたしに重ねてるだけだと思うし
近づかない方がいいのはわかってるんですけど。
…………でも、時々。」
腕や太腿に浮かび上がる鎖のようなアザを、
全部消すことが出来たのなら………
「………アザが、消えたら。
………わたしは誰のそばに…………。」
「シェリルちゃん。」
「!」
「たとえアザが消えたとしても、
アナタのそばにいるのはあのクソガキよ。」
「…………………………。」
「言い伝えや血に惑わされることなく、
アナタはアナタの意思で
リアムのそばにいることを選んだんでしょう?
それはきっと、あのクソガキだって同じよ。
たまたま出会うきっかけがソレだっただけで、
まさに運命の出会いだと思えばいいじゃない。
それに、出会ってからの過程だって大事だしね。」
そうでしょ?と微笑むヴィンセントにつられ、
考え込んでいたシェリルもフフっと笑ってしまう。
………言い伝えも、受け継いだ血も、
彼と出会うためのきっかけに過ぎないと思えば、
少しは心の中に渦巻く不安を消すことができる。
「さっ!あなたもお茶飲んでお菓子食べて!
クソガキの会議が終わるまで付き合ってあげるから。」
「…………ありがとうございます、先生。」
そうして二人は、
リアムの会議が終わるまで楽しい時間を過ごした。
…………ただ、シェリルの腕のアザが、
薄くなっていることには気づかないまま。




