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その鎖、まぼろしです。  作者: クロネコ
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「姉さんが?!」


外回りへと出向いていたレンが、

姉の身に起こった出来事を知ったのはその日の夕方。

リアムの補佐官であるジュードが教えてくれた。


「で、姉さんは?どこにいるんですか?!」

「いつもシェリル様が使われている客間に。

 ………リアム様がついてらっしゃる。」

「………なんで、姉さんが。」

「いくつか身内としてお前に確認したいことがあると、

 戻ったら侍医のところに行くようにと言伝だ。

 今なら客間に行けば会えるかもしれん。」

「!」


その言葉を聞き、

レンは急いで姉のいる客間へと向かった。




「…………姉さん。」


ベッドで眠る姉の姿に、レンは言葉を失う。

ちゃんと生きているのはわかっているのに、

その顔色の悪さに本当に大丈夫なのかと疑ってしまう。


「君がシェリル様の弟だね?

 いくつか聞きたいことがあるのだが…………。」


姉が眠るベットのそばに座るリアムと、

ベッドを挟んでリアムの向かい側に立つ侍医を確認して、

レンは"なんでしょうか?"と静かに聞き返す。

………チラリとリアムを確認すれば、

彼の目は光を失い、ただジッとシェリルを見つめていた。


「シェリル様は、

 なにかアレルギーのようなものをお持ちで?」

「…………いえ。そのようなものは。

 食べ物も、植物や動物にもアレルギーは無いはずです。」

「鼻血が出やすい体質などでは?」

「それもないかと。

 幼い頃から姉が鼻血を出しているところなど

 滅多に見たことはありませんから。」

「…………そうか。」


姉が鼻血を出したところなど、

幼い頃に顔面からズッコけた時に見たぐらいだ。

何かを食べたり飲んだりして、

鼻血を出したところなど見たことはない。

ましてやジュードから聞いた話だと、

かなりの出血量だったらしいが。


「………姉の出血量は、

 体に害を及ぼすほどのものだったのですか?」

「………普通の鼻血の量ではないな。

 着ていた服についていた血の跡を見れば、

 かなりの出血があったことがわかる。

 ひとまず輸血するまではないと判断したが、

 この先の状況によっては必要になるかもしれん。」

「…………意識は、ちゃんと戻るんですよね?」


侍医への問いかけに、

リアムの体がピクリと反応した気がする。

やはり彼も、そこが一番気になるのだろう。

アレルギーもない、鼻血が出やすい体質でもないのなら、

姉が相当の出血をして意識を戻さないということは、

なんらかの毒が盛られた可能性がある。


「意識は必ず戻られるだろう。

 先ほどシェリル様が口にされたお茶の検出が終わって、

 毒などは入っていなかったと報告を受けている。

 使われたカップからも毒は出なかったそうだ。」

「!…………そうですか。」

「だが…………

 顔色も体温も、なかなか正常に戻らない。

 鎮静剤を投与させてもらったが………

 薬のアレルギーはあったりするのか?」

「いえ、それも無いかと………

 両親に聞けば詳しいことがわかるかもしれませんが、

 あいにく二人揃って視察に出ていまして、

 こちらに戻るのは数日後のはずです。」


そうか、と侍医はうなずき、

何かあればすぐに知らせてくれと言って部屋を出た。

その姿を見送り、レンはリアムの方へと体を向ける。


「……………殿下。」

「……………………………。」

「姉さんなら大丈夫です。

 昔っから体は丈夫だし、

 体調を崩しても一晩寝ればケロッと元気になりますから。

 …………だから、少し休んでください。

 姉さんのことは僕が見てますから。」

「………………あんなに血を流して、

 ………………"大丈夫"だって?」

「!」

「…………どこが大丈夫?

 顔色は元に戻らない、体温は低いまま。

 シェリルが着てた服、見た?

 …………あんなに血を流して

 今でも咳き込んで苦しそうなのに、

 …………なんで、っ…………!!」

「殿下!!

 …………姉さんは、絶対に大丈夫です。

 いざとなれば弟の僕がいくらでも血を分けます。

 絶対に目を覚まします、

 毒も飲んでないとハッキリしています。

 ………姉さんが一度寝たらなかなか起きないのは、

 殿下だってよくご存知のはずです。

 だからあなたが今するべきことは、

 起きてくる姉さんのために休んで、

 目覚めた時に笑ってあげることです。」

「…………………………。」

「………目が覚めてあなたがそんな顔をしていたら

 きっと姉さんのことだから余計な気を使って、

 自分のせいで心配をかけたと凹むはずです。

 ………そちらのソファでいいんで横になってください。

 少しでも姉さんが動いたら起こしますから。」

「……………………………。」


シェリルをジッと見つめていたリアムが、

ゆっくりと椅子から立ち上がる。

自分の説得が効いたのか、

姉に余計な気を使わせたくないのか、

どちらかはわからないがソファへと歩いていく。

その姿を見届けて、

レンはリアムが座っていた椅子へと腰掛ける。


「…………姉さん、

 ちゃんと休んでまたいつもどおり起きてきなよ。

 ………じゃないと、

 殿下が殿下じゃなくなっちゃうからさ。」


眉を下げ、困ったような顔をしながら

レンは静かにつぶやいた。


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