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その鎖、まぼろしです。  作者: クロネコ
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ヴィンセントと連れ立って部屋を出たシェリルは今、

廊下の角からこっそりと顔を出し

バレないように視線の先にいる人たちを観察している。


「…………ヴィー先生、ヤバいです。」

「………なにがヤバいのか知らないけど、

 あなたも不審者みたいになってるわよ。」

「……………リアム様とゼイン様が向き合ってます。」

「えっ、なにその面白そうな状況!」


縦に並ぶようにシェリルとヴィンセントは

廊下で向き合って何か話している二人を見つめる。

さすがに会話の内容まで聞き取ることは出来ないが、

リアムとゼイン、

両者ともに作り笑いを浮かべていることはわかる。


「何話してるんだろう…………。」

「…………あのクソガキ、

 相当イライラしてる感じねぇ。」


二人がそんな会話をしながら

自分たちを見つめているとはつゆ知らず、

リアムとゼインはお互いに腹の内を探り合っていた。


「お久しぶりですね、殿下。」

「……………………。」


目をすぅっと細めて、

リアムは自分の前に立つ男を無言で見つめる。

………優秀な外交官だとは兄から聞いている。

本来ならば同じ外交の職務を任されている自分とも

それなりに顔をあわせなければいけない相手だが、

リアムはゼイン相手のことは

自分の補佐官であるジュードに任せていた。

………こいつを見ると、虫唾が走る。

だから今も声を発することなく、

リアムはただ黙ってゼインを睨みつけている。


「………殿下?いかがなさいました?」

「…………いえ、なにも?」

「実は一度、

 殿下とはゆっくり話がしたいと思っていたんです。

 仕事の話はもちろん、彼女のことについても。」

「……………………。」

「アイリーンから聞いたのですが、

 彼女は異国のことについて学ぶのが好きだとか?

 それならばぜひ、

 我が国についても知っていただきたいと思って。

 近いうちに彼女を"勉強会"にお招きしても?」

「……………さぁ、どうだろう?

 あの子には優秀な指南役がついてるから

 外交官殿のお手を煩わせずとも大丈夫では?」

「あぁ、たしか殿下の従兄弟殿ですよね?

 たしかに彼は優秀な方だと小耳に挟みましたが、

 その国の者にしかわからないこともありますし。

 殿下の婚約者だと存じてはいますが、

 彼女と話すのはとても………楽しいので。」

「…………へぇ。」

「それに、

 思い出してもらいたいんです、彼女に。

 ………キミが本当は、誰の相手なのか。」

「……………………………。」

「あの子から聞いてますよね?

 僕もあなたと同じで"血"を引く者だと。

 それに本当の、………運命の相手だって。」

「…………ははっ。」


挑発するような態度をとられ

おもわず嘲笑の声をあげたリアムに、

ゼインは怯むことなく言葉を発し続ける。


「まぁ一時の気の迷いか、

 鎖につながれて身動きがとれないだけなのか

 なかなか僕のところに来ようとしなくて。

 運命の相手は自分じゃないなんて戯言を並べて

 距離を置こうとするんですよね…………。

 殿下が彼女に見せてる愛情は、

 "刷り込み"でしかないと教えてあげたのに。」


口角をあげてニヤリと笑ったゼインに、

黒く暗い視線を向けていたリアムだったが、ふと、

視界の端にチラリと別の何かが映ったことに気づく。


「!

 ……………刷り込み、ね。

 同じように過去の"血"を引く者なのに

 そちらはその刷り込みすら今世は出来ていないらしい。」

「!」

「………運命、運命と。

 その言葉だけに縋り付いているような男に、

 自分の愛しい子を譲るほど俺は阿呆ではないよ?」


そう言うとリアムは、手に少しだけ力を入れながら

ゼインの横を通りすぎる。

………運命、運命と。馬鹿の一つ覚えみたいに。

だからいつまで経っても手に入れられないのだと

なぜあの男は気づかないのだろう?

アレが望んでいるのは彼女自身ではない、

叶えられなかった約束を叶え、その満足感に浸ること。

………あの子は、あの女ではないのに。


ゼインの横を通り過ぎ、

スタスタと廊下の角まで歩いてきたリアムは、


「…………覗き見なんて、

 褒められた趣味じゃないね?シェリルちゃん。」

「!!」


片眉をあげてニヤリと笑いながら

その場にへたり込んでいるシェリルに声をかける。


「チ、チカラ………使ったでしょ、リアム様。」

「んー?なんのこと?

 俺は可愛いシェリルの姿が目に映ったから

 こうやって迎えに来てあげただけだよ?」

「う、嘘つき!!

 もうチカラは使わないって言ったのに!」


気づけばヴィンセントの姿も見当たらず、

リアムのチカラによって

その場に"待て"の状態をさせられているシェリルを

ひょいっとリアムは抱き上げる。


「………さ、行こっか。」

「ど、どこに?!ってその前に降ろして………!」

「降ろさない。

 あの憐れで可哀想な男にみせつけてやらないと。

 …………刷り込むのも、それも愛ゆえにだってこと。」

「?!」


冷たい空気を身に纏い、

怪しく笑うリアムを見てシェリルは

"おとなしくしていた方がいい"と瞬時に察する。

こういう時の彼には逆らわない方が身の為だ。


「………シェリル、お茶しようか。」

「え?」

「アップルパイ、食べたくない?」

「!」


そう言って自分を見つめるリアムの表情が

いつもの甘いモノに変わっていたことに安堵しつつ、


"ゼイン様と何を話していたかは、聞かないでおこう。"


心の中でそうつぶやいて、

シェリルは喜んでお茶の誘いにのることにした。

 


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