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その鎖、まぼろしです。  作者: クロネコ
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「ヴィー先生。………お話があります。」

「あらやだ、そんなに改まってどうしたの?」


…………本当は知ってるけど。

ヴィンセントは心の中でそう思いながら、

知らないふりをする。

授業が終わったら話があると言われた時から、

きっとあの事だろうとは予想はしていた。

だがヴィンセントは何かしら?と眉を少しあげ、

シェリルが話し出すのを待つ。


「………ヴィー先生は、

 わたしの王子妃教育が終わったら

 何をするかまだハッキリ決めていないんですよね?」

「えぇ、そうよ。」

「………じゃあもしわたしが、

 先生に護衛騎士になって欲しいってお願いしたら

 考えてもらえる余地はあるってことですよね?」

「…………………………。」

「本当なら、

 こんなことをお願いできるような方じゃないのは

 聞いてるしわかってるんですけど………でも、

 先生と話すのは本当に楽しくて、勉強になるし、

 この先もずっと

 そばにいてもらえると嬉しいなぁ………なんて。」


テヘヘと照れたように笑うシェリルにつられ、

ヴィンセントも困ったような笑みを浮かべる。

………今の言葉、

あのクソガキが聞いてたら怒るんじゃないかしら?

あくまで護衛としてだが、

ずっとそばにいて欲しいなんて

他の男に言ってるのを知ったら…………。


「………そうね。

 あのクソガキの妃になるってことは、

 外遊に出ることが増えるだろうし。

 それに私もついて行けるなら好都合だわ。」


自身もシェリルと同じで

異国のことを知るのが好きなヴィンセントからすれば、

護衛騎士という立場を利用して各国をまわれて

"放蕩息子"の汚名も返上できるのは一石二鳥だ。

国王の護衛騎士にと指名された時は嫌でしかなかったが、

この子の護衛騎士になるのは悪くない。

ただ、そばにいる男が少し厄介なだけで。


「でもわかってる?

 今は私が先生で、

 あなたが生徒だからこれだけ気軽に話せてるけど

 主と護衛の立場に変わったらそうはいかなくなる。

 立場は逆転するし、

 私もこんな話し方であなたには接しなくなるわ。」

「………………………。」

「もちろん、

 やるからにはあなたを命に変えても守るし、

 あなたの命令には可能な限り従うわ。

 ………それにたまになら、

 歴史のことを話すのもいいかもしれないわね。」

「!」


そう言ってヴィンセントは

それまでシェリルに見せていた顔とは違う、

本来の彼であろう"男性"の表情を見せる。


「その申し出、謹んでお受けいたします。

 ………ただし、あのクソガキを説得できればね。」

「!

 そ、それは大丈夫です!わたしがなんとかしますから!」

「大丈夫かなぁ?

 シェリルちゃん、アレに勝てる?」

「任せてください!

 ワガママはなんでも聞いてあげるって、

 リアム様から言われてますし。

 ………それにきっと、

 ヴィー先生の実力をリアム様も認めてるはずですから。」


ふふっ、とイジワルそうな顔でシェリルが笑う。

リアムがシェリルに弱いことは、

誰の目から見てもわかりきっていることだ。

滅多にワガママを言わないシェリルのお願いを、

リアムが断れるはずがないことも。


「…………そういえば、

 先生はゼイン様にお会いしたことはありますか?」

「ゼイン………?

 ………あぁ、アイリーンのとこの外交官のこと?

 何度か見かけたことはあるけど、

 軽く会釈するぐらいで話したことはないわ。

 ………あれが何かあるの?」

「………詳しい話はリアム様に許可をもらってから

 先生にもお話しすることになると思うんですけど、

 あの人には気をつけてもらいたいんです。

 アイリーン様が連れてきた人ですし、

 外交官の立場でもありますから

 無下には出来ないんですけど…………。」

「そう………

 その男はシェリルちゃんにとっても

 あのクソガキにとっても厄介な相手なのね?」

「………そう、ですね。

 極力近づきたくない相手ではあります。

 リアム様にもあの方とは二人っきりになるなって

 念押しされているので………。」

「なんだか

 ただの嫉妬心からくるものじゃなさそうね?」

「嫉妬心というか、なんというか………。」


言い伝えの血のことを

ヴィンセントがどこまで知っているのか、

それともまったく知らないのかはわからないが、

早いうちにリアムから許可をもらって伝えなければ。


「まぁいいわ。

 話せる時がきたら教えてちょうだい。

 護衛に任命されるまでの間も気をつけとくし。」

「!

 ありがとうございます、ヴィー先生。」


ニコニコと笑うシェリルを見ながら、

………この子。

護衛についたら自分のことをなんて呼ぶつもりだろう?

まさか先生のままか……?と、

ヴィンセントは苦笑いを浮かべたのだった。



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