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その夜、
シェリルは当たり前のようにリアムの隣にいた。
屋敷に帰るつもりでいたのに
"…………もちろん泊まるよね?"と、
リアムにお願いという名の脅迫をされたから。
そして現在、
当たり前のようにリアムの横で眠りにつこうとしている。
「………一緒に寝るのは慣れた?」
「!
…………な、慣れません。」
「その割には、
俺に背中ポンポンされるとすぐ寝るよね?」
「…………気のせいです。」
王城に泊まった夜は必ず、シェリルはリアムの隣で眠る。
もちろん一緒に眠る相手がリアムなので
何もされないまま眠りにつくことは皆無だ。
髪に頬ずりされたり、キスされたり、
近頃はどんどんエスカレートして
背中や腰、太腿あたりを撫で回すようになった。
服の上からとはいえその行為に、
最初のうちはジタバタと暴れていたシェリルも
体が慣れてきたのか最近ではあまり抵抗することなく
むしろ………くすぐったさではない別の感覚に、
ゾクゾクとすることが増えてきていた。
ただシェリルにはそのゾクゾクする感覚が
いったいなんなのかはわからない。
………わたし、どんどんおかしくなってない?
あっちこっちスリスリされて、くすぐったいだけなのに、
………なんで、もっとしてほしいって思うんだろう。
体の変化に怯えながら、
リアムが自分の体を撫でまわすのをやめ、
背中をポンポンとし始めるのを残念に思うことがある。
…………触るのをやめてほしい自分と、
もっと触ってほしいと思う自分が葛藤する。
そんな時に隣にいるリアムを見上げれば、
ん?と目を細めて微笑んでくれる。
「…………で?あの男とはなにを話したの?」
「!」
「今日会って話したんでしょ?………なにを?」
「…………あの人もやっぱり、
言い伝えの彼女と関係のある人で間違いないです。
本当なら自分が、鎖でつなぐはずだったのにって。」
「…………………………。」
「リアム様のあの不思議なチカラのことも、
自分が持つはずだったのに………って。
あの人が言う鎖は、物理的なことじゃなくて、
たぶん………精神的なものだと思います。
言い伝えの彼女は今も、自分を想ってると………。」
「へぇ………
そうなるとシェリルもあの男のことを想って?」
「お、想ってないです!
…………ただ彼女が、
あの人を想っていたことは間違いないです。
ずっと一緒だって約束していたのにって。
でも彼女は戻らなかった、
戻れなかったって言った方が正しいのかもしれないけど、
………でも、ちょっと考えたんです。
彼女は最後、誰を想っていたんだろうって。」
「!」
「最後まで約束していた男性を想っていたなら、
わたしの体にアザができる必要はあるのかなって。
だって彼女からすれば
鎖でつながれることは苦痛だったはずなのに。」
「………………………。」
「"現代"の彼女はまた………鎖につながれてる。」
現代の彼女というのは、もちろん自分のことだ。
きっと自分もリアムやゼインと同じように、
"血"を受け継いだ者なんだろうとシェリルは思う。
だから腕にはアザが浮かび、リアムに捕らわれ、
彼女よりは酷い扱いを受けていないとはいえ
その執着心を向けられている。
………でも自分は、リアムの隣にいることを選んだ。
ならば彼女は?
一緒にいると約束した者の隣に戻れず、
自分の気持ちを殺してあの暗い部屋にいたのだろうか。
約束を守れずにごめんなさいと、
穢れてしまってごめんなさいと、
ただひたすらに謝るだけの日々を送ったのだろうか。
…………彼女は、
自分を捕らえた男をどう思っていたのだろう。
「何から何まで言い伝えどおりなワケじゃないよ?
現に俺はシェリルを鎖でつないでいないし、
あの男はシェリルと約束を交わしていない。
………でもまぁ、
いつそうなってもおかしくはないかもしれないけど。」
「!」
「俺が愛してるのはもちろんシェリルだけど、
あの男が求めているのは
血が見せる昔の女なのかもね…………。」
「…………それなら、リアム様は?
リアム様も本当は…………
わたしの中の彼女を求めてるんじゃないですか?」
「!」
「だってきっと最初は、
わたしがアザの持ち主だから声をかけたんですよね?
それってつまり、
自分の血がそうさせただけであって、
リアム様がそうしたいと思って
声をかけてきたわけじゃないですよね?」
「キッカケはね。
あの子が自分の"運命"だって
自分の中の血が気づかせたのは間違いないよ。」
「……………………………。」
「でも俺は言い伝えの男じゃない。
シェリルもあの捕らわれた女じゃない。
………俺"が"
"シェリル"を欲しいと思ったんだよ?
甘えて欲しいのに甘えてこない、
ワガママを言ってもいいのに言ってこない。
怒ったかと思えば申し訳なさそうな顔をして、
結局は俺のワガママを聞いてくれるシェリルがいい。」
甘ったるい声と笑みで語るリアムの気持ちは、
嘘偽りなどないとわかっている。
………でももし、アザが消えて無くなったら?
"運命"だと教えてくれたアザが無くなっても、
この人はわたしを選んでくれるのだろうか?
ゼイン様がわたしに言ったみたいに
もしその気持ちが"刷り込み"だとしたら?
「………シェリル?」
自分の腕の中で何かを考えるような、
それでいて寂しそうな顔を一瞬浮かべたシェリルを
リアムは少しだけ眉をひそめながら見つめる。
「………そうですね。
リアム様が選んでくれたのはわたしですもんね。」
………でもあなたには、
あの言い伝えの彼の血が流れている。
だからもし、アザが消えて自分がいらなくなったら。
「リ、リアム様!
背中ポンポンしてもらえます?!寝ますから!」
「………………………。」
リアムの胸元に体をうずめ、シェリルは小さく首を振る。
もし自分がこの人のそばから離れる日が来たら、
こんな甘えもワガママも言えなくなる。
それならいっそ私なら、
すべてを忘れてしまうことを選ぶだろう。
…………でもあなたは、忘れてほしくなかったんだね。
心の中で彼女にそう問いかけ、
シェリルはリアムにポンポンと背中を叩かれながら
静かに眠りに落ちた。




