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「………それで、お話というのは。」
ゼインと共に中庭に来てきたシェリルは、
少し離れた場所に立つ彼に話しかける。
………あの夜、
聖堂で会った時の彼は怪しげな雰囲気をまとっていたが、
今は穏やかな笑みを浮かべこちらを見ている。
「………あの夜、
僕はあなたに言いましたよね?
………本当ならあなたは、
僕の花嫁になるはずだったのに、と。」
「!」
「あなたや殿下も気づいていると思いますが、
言い伝えに出てくる女性には愛する人がいたんです。
幼い頃から一緒に過ごし、
いつしかお互いを異性として意識するようになって、
結婚するのが"当たり前"だと思っていた相手が。」
「………あなたが、
その男性の血を受け継いだ人間だと………?」
「………えぇ、そうですね。
現に今も………
あなたをどうやってあの男から引き離そうか
考えているところですから。」
「………………………。」
「どうしてあなたは
あんな男のそばにいるのですか?
あの男の顔が好み?それとも王子様だから?」
「………………………。」
「確かに立場は向こうの方が上ですが、
僕も外交官としての地位は得ていますし、
あなたに生活面での不自由はさせないですよ?」
「…………残念ですけど、
わたしはあなたを運命の人だとは思っていないので。」
「それは、あの男に囚われているからでしょう?
たまたま向こうが先にあなたを見つけただけで、
自分が運命の相手だと刷り込まれているだけでは?」
「刷り込みって…………。」
「あなたとあの王子が、
想いあって婚約をしたというのなら別ですが、
そうではないんですよね?」
「!」
「…………アザのせいですか?」
「…………っ。どうしてそれを………。」
「あの王子があなたのアザを見て確信したように、
僕もあなたにアザが浮かび上がっていることは
"血"が教えてくれるんですよ。
…………取られた人間と、取った人間、
どちらにしても鎖は重要ですからね。
僕とあなたは見えない鎖でつながれていたのに、
あの男は見える鎖であなたをつないだ。
………なのにどうして、
今は見えない鎖をあの男が引いているのか。」
「………………………。」
「本当なら僕があなたの鎖を引くはずだったのに。
………あの男は、
僕たちの間につながれていた見えない鎖を引きちぎって、
あなたを連れて行ってしまったのだから。」
「………昔のあなたも、
よっぽど彼女に執着していたんですね?
赤い糸ならまだしも、鎖でつながっていたなんて。
とても運命の人なんてロマンチックなものじゃない。」
「それぐらい強固な結びつきだった、ということです。
あの男のように本物の鎖でなんかつなぎませんよ。」
笑みを浮かべてゼインはそう言うが、
シェリルは彼の目が笑っていないことに気づいている。
リアムにしろこの男にしろ、
どうして鎖でつないでおこうという思考になるのか。
本当に言い伝えの彼女は、
こんな男を愛していたのだろうかとシェリルは疑問に思う。
「………あなたと王子をつないでいるその見えない鎖、
邪魔だと思ったことはないんですか?」
「…………邪魔?」
「何かしらのチカラがあるんですよね?
あの時もあなたは急に痛がって
その場にしゃがみ込んでしまったし。
………チカラ加減を間違えた、と
王子が言っているのが聞こえたものですから。」
「………………………。」
「どうして僕とではなく、
あの男とそんなものでつながるのかなぁ………
本当なら僕とつながるハズなのに。
…………消せないんですか?そのアザ。」
「!!」
………この人、気づいていない?
自分が触れれば、このアザが薄くなることに。
「………以前あなたの手を掴んでしまった時、
不思議な感覚がしたんですよね。
………何かを、ほどくような。」
にやりと笑ってゼインは、シェリルの左腕を見る。
気づいているのか、それともカマをかけているのか。
どちらとも言えないその笑みに、
シェリルが戸惑っていることを気づいたゼインが
こちらへと歩み寄ってくる。
「………もう一度、手に触れてみてもいいですか?
それと、そのアザとやらも見てみたいのですが。」
「っ………
申し訳ありませんが、
そんなに気軽に見せれるようなものでは………。」
ジリっと後ろに下がりながら、
シェリルはゼインの申し出を断る。
………もしここでこの人に触れられて
アザが薄くなったりでもしたら。
そのことがリアム様にバレたら………?
また噛みつかれるに決まってる………!
あれ?
でもそう考えるとわたしのアザって無限ループ?
たとえこの人に消すチカラがあるとしても、
リアム様にはアザを浮き上がらせるチカラがある。
………ならまたリアム様に噛みつかれないように、
アザは消えない方がいいってこと?
「…………すみませんが、
わたしはこれで失礼します。
………それと、
わたしの運命の人はあなたじゃありません。
わたしはわたしで、彼女は彼女なんです。
同じ気持ちで同じ考えでいると思わないでください。」
その場から立ち去るシェリルを見ながら、
ゼインは静かに、小さくつぶやく。
「…………大丈夫、助けてあげるからね。」




