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その鎖、まぼろしです。  作者: クロネコ
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湖から少し離れた木陰に、二人はそっと腰をおろす。

いつもの自分なら、

サンドイッチ食べます?なんて、

気軽に声をかけているだろうが、今はそれすら難しい。


「…………………………。」

「……………ごめんね、シェリル。」

「!」

「………まだ怒ってる?

 でも可愛かったから、止められなくて。」

「…………は?」

「跡つけるたびにビクついて、可愛い声だして………。」

「やめて。それ以上言わないで。」


もう思い出させないで欲しい。

顔を少し赤くしてシェリルはリアムを止める。


「………やっぱりまだ怒ってる?

 まさかガーターつけてるなんて………。」

「見間違いです。つけてません。」


本当はつけてた。

いつもはロングの靴下を履いているのに、

なぜかこういう時にか限って

黒のストッキングとガーターベルトが

着替えのトランクの中に準備されていたのだ。

………なんでこれ?とシェリルは思ったが、

素直に履いたのが間違いだった。

ちなみに今はもうつけていない。外してやった。


「…………じゃあ、噛んだこと?」

「!」

「…………痛かった?」

「いっ、痛かったに決まってるでしょ?!

 あんな思いっきり……!

 今だって痛いんですよ?痕が残ったらどうす………。」

「残っても大丈夫。

 シェリルのことは責任もって一生面倒見るから。」

「そ、そういうことじゃなくて………。」

「残す為につけたんだから、消えてもらっちゃ困る。」

「……………は?」

「腕にはそのアザがあるからいいけど、

 首輪をつけるのは嫌だって言うし、

 足にも鎖がわりの何かつけなきゃって思ってたから。」


開いた口が塞がらない。

この人は何を言っているんだろう?

自分が少なくとも好意を寄せている相手に、

消えない傷痕をつけるのを当たり前のように口にして、

なんでそんなに愉しそうに笑ってるの?


「知ってる?

 噛み跡って肌が柔らかいところの方がつきやすいって。

 ………シェリルはどこも柔らかそうだから

 全身に痕が残せるかもしれないよねぇ。」

「………………………。」

「あ、でも。

 痛いのが嫌だって言うなら、

 痛さを和らげる方法もあるよ?

 ………シェリルが俺に"すがってる"間なら、

 痛みとは違う感覚に溺れてるだろうから。」

「…………すみませんけど、

 ちょっと何言ってるかわからないです。」


ちょっと引き気味に、シェリルはそう言葉を返す。

それでもリアムはニコニコと笑みを浮かべたまま、

シェリルの目をジッと見ながら話を続ける。


「俺もよく我慢してると思うんだけどなぁ?

 昨日だって、ヤろうと思えば最後までヤレたよ?

 噛み跡なんかよりもずっと………

 シェリルに俺を刻み込む方法、あるんだけどなぁ。」

「…………そ、それは必要な…………。」

「たぶんあの言い伝えの男も、

 きっとこんな気持ちだったのかもね。

 ………どんなに想っても、

 相手は自分だけを見てくれない、愛してくれない。

 じゃあ閉じ込めてしまおう。

 自分だけのモノだって印をつけよう。

 自分だけが与える快楽に溺れさせて、

 逃げられないようにしよう。………って。」

「リ、リアム様…………?」

「シェリル言ったよね?

 捕らわれた女の気持ちに同調しちゃうんだって。

 ………それ、自分だけだと思った?」

「!」

「俺もそうなのかなぁって思う時があるよ。

 もちろん俺が愛してるのはシェリルだけど、

 どうやって捕まえておこうか、とか。

 どれだけ甘やかしたら俺に依存するのかなぁとか。

 言い伝えの男も、

 こんなこと考えながら監禁してたのかなって。」

「だっ、だめですよ?

 あなたは同調しちゃ…………。」

「まぁ元々シェリルには俺が依存しちゃってるし、

 生まれつき性格も歪んでるんだろうけど

 それに加えて"血"が騒ぐというか。」

「…………………。」

「だからごめんね?

 痛いこともやめないし、離してもあげられない。

 でもちゃんとその分甘やかすし可愛がるよ?

 今日みたいにシェリルが怒って拗ねても

 あー怒ってるのかなぁ?可愛いなぁ。って。」


そう言ってリアムがニヤリと笑い、シェリルの手を握る。

…………その瞬間。


「ぎゃぁっ?!」


静かな湖畔に、悲鳴が響き渡った。



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