91:魔法剣士
「変わった武器っていうのは俺に関係することなのか?」
魔法学校の演習場で魔道具の実験に付き合わされていた俺はコーリーとアシュリーの師弟になにやら新しい発想らしい武器の開発に誘われていた。
「そうね、順番を追って説明しようかしら。まずは魔法の武器というのがだいたいどういうものかってところから……うーん、ちょいと面倒だからアシュリーちゃんよろしく」
「はあ、先生はそうやって面倒ごとを押しつけるんですよね。まあいいですけど。じゃあ基本から。チャックは魔法の武器を実際に見たことはあるかい?」
アシュリーに問いかけられた俺はちょっと考える。
「そうだな、パーティー組んで冒険者やってた頃に他のグループと共同で大きめの討伐やったときに組んだパーティーの戦士が魔法の剣を持ってたみたいだ。詳しくは詮索しなかったが魔力付与した様子もないのに不死者を切り裂いてたからな」
「うん、基本的なのはそういう攻撃力強化の魔法を常時発動させる魔法剣だ。周囲から魔力を自動で集めて発動させるが実際に接触している使い手の魔力を使うものが多いね」
俺が記憶をたどって答えたのにアシュリーが応じてそう言うが、その説明にちょっと引っかかるものがあった。
「多いっていうのはそうじゃないものもあるのか?」
「魔道具の魔力源をどうするのかというのも人気のある研究対象だからね。通常時に蓄えた魔力を運用時に使うとか、出力を抑える代わりに使用者の魔力を使わないとか、いろいろあるよ」
「魔力の放出が少ない子もいるからね。特に剣士をやってるような人だと無意識に自己強化に魔力を使ってるようなのも多いから。自分でほとんど使い切って外部に放出してない子もいるのよ」
黙っているのに退屈してきたかコーリーも追加の解説を入れてきた。それを気にせずアシュリーが講義を続ける。
「じゃあ次に行くよ。これも割と多いのが使用者を強化する系列だ」
「力が強くなるとか素早さが上がるとかいうやつね。こっちは使っててもよくわからないと思うけど、攻撃力強化よりは数が少ないわね」
「少ないっていうのはなぜなんだ?」
俺が発した疑問にはアシュリーが答えた。
「本人を強化するアイテムなら武器じゃなくて常時身につけるものにした方が効果的だからね。装飾品に付与する方が多いんだ」
「ああ、魔法の指輪とか腕輪みたいなやつか。たしかにあれはちょくちょく見るな」
俺が納得しているのにコーリーが続ける。
「指輪や腕輪ならちょっとした設備でも作れるからね。魔法使いが稼ぐのにもいいから数が出やすいのよ」
「さて、ちょっと見るのが珍しくなるのがまず属性付きの魔法剣だ」
話が魔道具の方に流れかけたのをアシュリーが戻してきた。
「属性付きというと、英雄物語とかによくある刀身に炎をまとった剣とかのことか」
俺がそういうのにアシュリーは首を横に振る。
「まあそれもそうだけど、そこまでいかない属性付き魔法剣のほうが多いね。攻撃が当たった相手に炎系のダメージが入るとかそういうやつだ」
「抜いてるときは常に炎を出してるとかだと魔力の消費も大きいからねー。まあ偉い人には光をまとった剣とかが人気あったりするけど。儀礼的なものに使われてたりするわね」
「言われてみればそんな剣があったら目立って仕方ないはずなのに噂にも聞いたことないな」
俺が納得しているのにアシュリーが続ける。
「属性ダメージを追加するだけなら見た目は普通の魔法剣と変わらないからね。斬った相手の傷口を見れば炎や氷のダメージが入っているのがわかるかもしれないけど」
「俺が見たやつは倒した相手の傷口は普通だったと思うな。少なくとも気になったところはなかったぞ」
「属性効果といっても痕跡が残るものばかりじゃないからね。毒とかだと調べないとわからないし、麻痺や混乱、睡眠とかの効果だったら調べてもわからないわよ」
俺が答えたのにコーリーが混ぜっ返してくるがそれを気にせずアシュリーが続ける。
「属性付きの魔法剣っていうのは魔力消費が増える割に効果的な相手が限定されるから数はぐっと減るね。その分を通常攻撃強化に回した方が有効なことが多いんだ。明確な仮想敵がいるとか、作成者・使用者の好みとかでないとあんまり作られない」
「属性付きは作るのにも手間がかかって面倒なのよね。あとはかなり特殊なのもあるわ。曲がるとか伸びるとかの変形するやつとか、視覚を乱して刀身が見えなくなるやつとか。このへんになると本当に趣味の品に近いわね」
「なるほどな。それで俺に一枚噛めというのは魔法剣のことになるのか。だが俺に魔道具なんか作れないぞ」
俺がそう言うとコーリーがずいっと身を乗り出してきた。
「欲しいのは『魔力を扱えて剣術も使える人材』なのよ」
「具体的に言うと無属性の魔法剣を作って、使う人間が属性変化を行えば多属性にできるんじゃないかと思ってね。実はもう試作もできている」
アシュリーはそう言うと置いてあった鞄から大ぶりのナイフを取り出した。それを受け取ると意外に軽いのでバランスを崩して取り落としかけたが、持ち直して鞘を払う。
「……軽いと思ったら刀身は木製なのか」
「まあそれは試作品だからね。魔力が出ているのはわかるかい?」
アシュリーの問いに目を凝らして集中すると確かに木製の刀身が魔力に包まれているのを感じる。
「確かに魔力が通っているな」
「大丈夫みたいね。じゃあその魔力を火属性に変化させてあの標的を斬ってみてよ」
コーリーが指さす方には立てた棒に藁を巻いた剣術用の標的があった。
「じゃあいくぞ」
俺はそう宣言して標的に向かい、属性変化を念じると刀身が炎に包まれた。そのまま標的を斬りつけると木製刀身だけあって真っ二つに切れたりはしなかったが炎によって焼け焦げた線が入る。
「おお、ちゃんと使えてるね。実際に炎を出さず属性だけ追加できると魔力の節約になるけどとりあえず上出来だ。他の属性も試してみてくれたまえ」
アシュリーがそういうのに応じて何種類かの属性変化を試してみる。巻き藁の標的では効果がわかりにくいものもいくつかあったがおおむね問題なく終了した。
「なあ、これだったら別に俺でなくてもできたんじゃないか。魔力属性変化なんてアシュリーやコーリーでもできるだろ」
「もちろん私も先生もこのぐらいならできるし、もう試してるよ。今のはチャックが使えるかの確認なんだ」
「ただの実験じゃなくて実際の使用データが欲しいのよ。わたしたちは剣術には素人だし、普通の剣士では魔力の変化ができないし」
そういわれると俺も納得したが、一つの大きな問題に気付いた。
「確かにそれは俺以外には難しそうだな。しかしこの木製のナイフじゃまともに戦えないぞ」
俺がそう言うとコーリーはちょっと胸をはって言った。
「もちろんそれは試作品よ。それを実際に使ってもらうために、ドワーフの鍛冶屋で新しい短剣を作ってもらうわよ」




