90:試作検証
「チャックがまた何か面白いことやらかしたと聞いて来たんだけど」
また伝令人の仕事を数十日こなして久々の登校日、教室に入るなり話しかけてきたのは俺の担当教員のアシュリーではなくその師匠のコーリーだった。
「やらかしたとは失礼だな。それにしてもコーリーが一人で隠れ家を出てくるなんて珍しいな。道中で面倒ごとに巻き込まれたりしなかったのか」
優秀な魔法使いの例に漏れずコーリーも早い段階で老化抑制の魔法を習得していて、アシュリーを教えたほどの年齢だというのに外見は幼い少女であるから一人旅ではトラブルに巻き込まれやすいと聞いていた。
「地元に帰ってた学生が学校に戻るってテイで定期便の人たちに付いてきたの。お金それほど払ってないのに親切にしてもらえたわよ」
「正式な護衛依頼をするぐらいの余裕はあるだろうに、同行だけの話でついてきたのか」
護衛依頼でないというのはいざとなったら見捨てても問題ないということではあるが、依頼するだけの余裕がない旅人が他のグループに心付け程度を渡して同行するというのはよくある話だ。なお心付けもなくただ着いていくというのも割とあるが、この場合最悪は囮にされても文句は言えない。
「だって学生がたくさんお金持ってるなんて不自然じゃない。面倒ごとを避けたかったんだからこれでいいのよ」
「まあそれはそうか。それはそうと、わざわざ出てきたってことは何かあるのか?」
俺が話を元の方向へ修正しようとすると、それまで黙って聞いていたアシュリーが話し始めた。
「チャックが携帯投石紐で集めた魔力を火球に変えて飛ばしたっていうのを報告したらそれが面白かったみたいでね。いろいろ試してみたいことがあるっていうんでこの数日は先生に付き合わされていたんだよ」
そういうアシュリーをよく見ると服の細かいところがけっこういいかげんで疲れが溜まっている様子がうかがえた。
「アシュリーちゃんは細かい魔法円を描くのが得意だからね。魔道具の作成も上手だし」
「別件で発見されてた魔法円の解析も手伝ってもらったから協力するのはいいんだけどね。チャックの登校日に間に合わせるのにちょっと急がされたんだよねえ」
コーリーに向かっては言えないからといって俺に向かって愚痴を言うのはやめて欲しい。
「まあ俺の方はもともと『大人になってから魔術を教えたらどうなるか』の被検体だから実験に付き合うのも問題ないが。で、何をやるんだ」
「うん、新しい魔道具をいろいろ試したいからね。とりあえず演習場へ移動しよっか。アシュリーちゃんも道具持ってついてきてね」
◆――◆――◆
「とりあえずこれを見てほしいんだけど」
演習場へ移動するとコーリーは小さな球体をいくつか取り出した。指先ほどの大きさのそれは何色かに塗り分けられ、目を凝らすと精密な魔法円が描かれている。コーリーはそこから赤く塗られたものを手に取り、短く呪文を唱えて宙に浮かせた。続いて魔力を込めると一瞬の間を置いて球体は炎に包まれる。
「攻撃魔法に苦労したあげく携帯投石紐使って火球を飛ばしたって聞いてね。いくつかの工程を魔道具に任せたらどうかって作ってみたの。これは魔力を炎に変換する魔法円が組み込んであるわ」
コーリーはそう言いながら球体を操ってあたりを飛び回らせる。複雑な軌道を描いて飛び回った火球は最後に上方から急降下して的の板に命中し炎上させた。
「いやー、これ面白いわね。普通の火球でもある程度の軌道制御はできるけど維持しながらこんなに自由には動かせないのよ」
「いやいや、普通の魔法使いは火球の軌道変更とかできないし物体の制御もここまでできないからね」
コーリーが軽く言うところにアシュリーが反論して青い球体を手に取り、宙に浮かせて魔力を込める。水球と化したそれをアシュリーが操るが軌道はかなり単純だ。それでもそこそこの速度が出ていた水球は的に当たってはじけ飛ぶ。
「ちょっと速度は遅いみたいだが攻撃呪文の代わりにはなるんじゃないか?」
俺がそう印象を述べるとアシュリーは首を横に振る。
「これ一個作るのに二日かかったし、素材にも高純度のミスリル使ってるからね。攻撃呪文がわりに使い捨てるにはコストがかかりすぎるよ」
「ついでにいうとこの大きさに細工できるのもアシュリーちゃんぐらいだからね。一抱えぐらいに大きくすれば作れる人もいると思うけど、持ち運ぶのは難しいわね」
魔法使いが二人そろって実用性を否定してきた。自分達で作ったんだろうというもんだがこれ学者気質というものだろうか。
「それじゃあ仕方ないな。それで、俺を待っていたのはやっぱりこれを使うのか」
言いながら携帯投石紐を取り出す。
「そうそう、それにまたちょっと手を加えたいんだけど貸してもらえる?」
手を伸ばしてくるコーリーに手渡すとそれをそのままアシュリーに回される。
「じゃあちょっと手を加えるよ。今度のは魔力を集める割合の上昇と保持している間の保護の追加だよ」
説明されている間にアシュリーの作業も終わって俺に返される。
「うん、じゃあ弾はこれを使ってみてくれる」
コーリーから手渡されたのは白色の球体だった。
「それは属性無しで魔力をそのまま出すやつだよ。変質は自分でやってもらえるかな」
「了解した。火属性でいいかな」
白い弾を弾受けで挟み、魔力が集まるのを感じ取りながら引き絞って魔力を火に変質させ、撃つ。
「うんうん、この間よりも火球の威力が上がったね」
焦げるというレベルではなく炭化した的を確認しながらアシュリーが言う。
「じゃあ次ね。属性水に変えてやってもらえるかしら」
コーリーの要望に応えて属性を変えながら何発か発射する。コーリーとアシュリーは何やらぼそぼそと話し合いながら結果を確認していた。
「これならいけそうじゃない?」
「そうですね、たぶん大丈夫かと」
アシュリーと相談していたコーリーは様子をうかがっていた俺に向き直るとこう言った。
「ちょっと変わった武器の構想があるんだけど、一口乗ってみる気はないかしら?」




