89:攻撃魔法
「今度こそ攻撃魔法の習得だよな」
俺は前回の登校期間でなんとか物品に対する強化を覚えていた。最初に「強化魔法の次は攻撃魔法」と聞いていたのだが、いわゆる付与魔法が『物品を強化する魔法』であると知らなかったので、俺としては一回お預けを食った感じなのである。
「ああ。初等課程の男の子たちが一番喜ぶあたりだね。やっぱりチャックも楽しみだったかい?」
まるで俺の心を読んだかのように担当教師のアシュリーが笑顔で言ってくる。子供扱いされているような感じだが、実際にも親子ほどの年齢差があるはずだ。優秀な魔法使いはほぼ老化抑制の魔法を習得していて外見よりも実年齢が上なのだという。
「そうだな。やっぱり魔法といえば火球や電撃だろ。正直かなり期待している」
「いや、正直でいいね。じゃあさっそく始めようか。いわゆる攻撃魔法は大きく分けて魔力の放出・収束・属性変化・射出の4つの要素からなっている。これまでの応用になる要素もあるが改めて説明していこうか」
◆――◆――◆
「手順は覚えたね。ではとにかく通して最後までやってみよう。まずは基本の火球から」
教室で理論の方を一通り叩き込まれた後に俺たちは演習場へ移動して実地訓練に移っていた。
「始めるぞ……『魔力放出』」
口に出す必要はないが何か言わないと何をしているかもわからない。いや、魔法使いで教師のアシュリーなら魔力ぐらい見えているかもしれないが。
「『収束』」
次に放出した魔力をギュッと集めることを意識する。俺には見えないがなんとなく魔力が集まった感じがする。ちらりとアシュリーの方を見るが特に表情の変化はない。ここまでは魔力操作の範疇であり、ここからは呪文を使う操作だ。意味はあるらしいが俺にはよくわからない音の羅列を暗記したとおりに唱えると、先ほど魔力を集めると意識したあたりが淡くオレンジ色に光りはじめる。
「『火球』」
呪文の最後の単語まで唱え終わると、本来なら火球が飛んで行くはずのところがぼうっとしたオレンジ色のモヤがふよふよといった感じで進んでいき、やがて霧散した。
「なるほど。どうやら魔力の収束が上手くいってないみたいだねえ。さて、どうしたものかな」
一通りの手順を終えたところでアシュリーが口を開く。アシュリーにとっても意外であったのかやや困惑した表情に見える。
「魔力を収束させるための訓練を行うんじゃないのか?」
「いや、それなんだけどね。最初から学校で魔法を学んでいる生徒はほとんど勝手に覚えてるんだよ。やっぱり攻撃魔法を使いたいってのが多いからそのつもりで魔力操作を自主練するし。だから効率的な訓練方法って確立されてないんだよね」
そう言われると俺もけっこう不安になってくる。
「じゃあどうやって訓練すればいいんだ?」
「まあ例が少ないってだけで一応記録には残ってるからね。いろいろと試してみようか」
◆――◆――◆
そこから数日、ピンとくるモノがないかといろいろと試してみた。通常課程のまだ入りたての少年少女に交じって練習させられたりしたのはちょいと恥ずかしかったがダンジョン攻略やら討伐任務やらの話をしてやるとけっこう盛り上がったのでまあそれはいい。
「うん、だいぶマシになってきたねえ。チャックは気配感知で魔力を広げるのに慣れすぎていたんじゃないかなあ」
アシュリーが俺の訓練を見ながらそんなことをいう。訓練の成果が出たのか単に慣れただけなのか、淡くぼうっと光るだけだったものは両手で掴めるほどのそこそこ熱い塊にはなっていた。
「結局は普段使っている魔力の放出……俺の場合は『気配感知』に使う魔力の範囲を集中していくというイメージが効果的だったな」
俺はこの数日の成果を振り替えってそう言う。やはり慣れている方法から迫っていくのはわかりやすく、放出範囲をかなり集中できるようになった。だがまだまだ火球というのにはほど遠く、的に向かっていく速度も普通に人が歩く程度しかない。
「進歩は見えるんだからもっと訓練すればいけると思うよ」
「まあそうだな。ところでちょっと気分転換したいんだがいいか?」
「ああ、もうけっこう練習してたからね。少し休憩しようか」
アシュリーからも許可が出たので、普段の荷物から携帯投石紐を取り出す。
「ちょっと試してみたい事があるんだ」
言いながら最近の訓練の成果を使う。自分自身と携帯投石紐に『耐火強化』の魔法をかけ、弾受けに粘土球を挟んで的に向かって引き絞る。元々描かれている魔法円によって粘土球に魔力が集中していくのに、更に魔力操作で自身の魔力を乗せる。そして、
「『属性変化』」
呪文を唱えてその魔力を火属性に変化させる。途端に粘土球は火に包まれた。それをそのまま携帯投石紐で撃ち出す。
『バァンッ!』
的に着弾した火球は大きな音を立てて破裂し、あとには焼け焦げた的の板が残る。アシュリーの方を振り返ってみるとさすがにちょっと驚いた顔をしていたが、すぐに普段の落ち着いた笑顔に戻って言った。
「うーん、確かに火球は飛んでいったけどそれはちょっとズルいねえ。さあ、もう少し練習しよっかね」




