88:強化魔法
「強化魔法を習得したら次は攻撃魔法だったよな」
前回他人への強化魔法に成功してから、俺はしばらく伝令人としての仕事に戻っていた。そして次の魔法学校への登校日、教室でアシュリーに向かって確認した。
「たしかにそうだが、まだ強化魔法の授業は残っているぞ」
アシュリーから帰ってきたのは俺には意外な言葉だった。
「ちょっと待ってくれ。俺は自分自身に対しての強化と他人に対しての強化も成功してるよな。次は誰を強化するっていうんだ」
訊いた俺にアシュリーは少しキョトンとした後、ああという感じの表情になって続けた。
「なるほど、チャックは魔法での強化というのを人の能力を強化するものだけだと思っていたんだな。次にやってもらうのは物品の強化だよ」
「物品の強化っていうのは武器に魔力を付与したりというアレか? 魔法使い的にはアレも強化なのか」
俺は探索メインでパーティー活動をしていた頃のことを思い出していた。通常攻撃の効かない幽霊系の相手にはマユやリリによって武器に魔力付与してもらう必要があったので付与魔法になら馴染みはある。
「うん、まずは自分自身の魔力を変質させて自身を強化、次に他人が持っている魔力を変質させて他人を強化、そして魔力を持っていない物品に魔力を集めて変質させて強化という順番で覚えていくんだよ。そして最後、物品もない空間に魔力を集めて変質させ操ることで攻撃魔法となるってことさ」
まあたしかにそう言われると理にかなっているような気もする。
「ちょっとスッキリしないが納得はした。それでどういう練習から始めるんだ?」
「まずは練習用の魔力を通しやすいモノを手に持って、それに魔力をまとわせるところからだね。こいつを使ってもらうよ」
アシュリーはそう言いながら簡素な黒塗りの短杖を取り出す。だいたい肘から手の先ぐらいまでの長さだ。
「おっ、いわゆる『魔法使いの杖』ってやつか。それらしくなってきたな」
俺はそれを受け取ってちょっと手の中で回したり上に投げたりしてみる。
「仕上げはしっかりしてるけど素材的には普通の木だよな」
俺のその言葉にアシュリーは面白そうに笑う。
「確かに本体は建物の柱にもよく使われてるありふれた木材だけど、それは練習用の中ではちょっといいやつだよ。なにしろミスリルを使ってるからね」
アシュリーが自慢気にいうので俺ももう一度まじまじと観察し、机を叩いて音を聞いたり回してバランスを確認したりする。
「ミスリルが軽いとはいえ、とても金属が仕込んであるようには思えないんだが」
俺がそう言うとアシュリーは笑顔のまま続けた。
「そうだろうね。蜘蛛の糸のように細いミスリルを一本だけ端から端まで貼って、表面の塗装で塗り込めてるんだ。それでも魔力の通りは格段によくなっているんだよ」
「へえ、重さもほとんど木のままなのになあ」
もう一度軽く回してみるが本当に重量バランスも均一でただの木の棒としか思えない。
「まあ実際に使ってみればわかるんじゃないかな。自分に無属性の魔力強化をかける感覚で、それを手に持った棒にも伝えるような感じで魔力を通してみてくれ」
アシュリーに促された俺は短杖を構え、自身に強化魔法をかける。そしてそれが短杖の方にも行き渡るようにとイメージした途端、ずいっと魔力が引っ張られる感覚があった。
「ほう、初めてでそこまでできるとはたいしたもんだ」
アシュリーが感心したように言うが、俺にはちょっと思い浮かぶものがあった。
「これって、携帯投石紐で弾に魔力を乗せるときの感覚に似てないか?」
「……おお、そういえばそんなのも作っていたな。言われてみればアレも物品に魔力を乗せる仕組みだった。なるほど、それで慣れていたのか」
アシュリーは携帯投石紐に魔力を乗せるような改良をした本人であるのにまるで他人事のように感心している。
「まあ魔力を乗せられるんなら話は早い。次はその魔力を変質させていくよ。ここからは呪文を使うことになるが、覚えてきたかい?」
「ああ、一応覚えてきたはずだ。古代魔法語はまだよくわからんから発音丸暗記だがな」
「うん、今はそれでいいさ。ではさっそくやってみよう」
そうして俺はアシュリーによる呪文の発音指導や覚え間違いの修正に魔力の流し方などなどの指導を受けて、まずミスリル入り短杖に属性魔法を乗せられるようになるまで三日、普通の木の杖でできるまで更に三日、最後に金属の武器に属性付与ができるようになるまでも四日とまるまる十日を使ってしまったのだった。




