82:学習履歴
「ねえチャック、あなた、魔法使いに興味はない?」
緊急の案件は一段落ついたらしいが月一ぐらいでなんだかんだと配達の仕事を入れられて、ついでにお話ししたり買い物したりに付き合わされたりしている魔法使いのコーリーがそんなことを聞いてきた。今日も一緒に村まで買い物に出て、ついでに新鮮な肉を手に入れるべく狩りなどをしていたところだ。
「いや、『気配感知』での魔力の制御やら携帯投石紐の加工やらでいろいろお世話になってるし人よりは興味がある方だと思うが、それがどうかしたのか」
俺がそう答えるとコーリーはちょっと虚を突かれたふうで言い直してきた。
「聞き方が悪かったわね。あなた自身が魔法使いになるってことに興味はないかってことよ」
「俺が、魔法使いに?」
今度虚を突かれたのは俺のほうだった。
「魔法使いっていうのは幼い子供のころから学んで大人になるころにやっと一人前になれるんじゃなかったか?」
以前のパーティーで一緒にいた魔法使いのマユも子供のころに才能を見いだされて学校に通うようになって16で成人するころに魔法使いになったと聞いている。
「魔法使いの才能は貴重だから定期的に巡回して魔力の強そうな子をスカウトしてるのよ。だからほとんどの魔法使いは子供のころから魔法を学んでるわね。だけどたまにスカウトの目をすり抜けて自力で魔法を身につけたりする子も出てくるのよ。才能がある子を全部見つけられるわけじゃないのよね」
「つまり俺がそのスカウトの目をすり抜けて魔法の才能があるうちの一人じゃないかっていうのか」
そういうとコーリーはずいっと身を乗り出してくる。
「そうなのよ。単純に見逃してるというのも結構いるとは思うんだけど、ギルドに登録するときの面接でも魔力を確認してるから冒険者ではめったにいないはずなのよ」
「俺に魔法の才能があるんじゃないかっていうのはわかった。だが魔法を身につけるには子供のころからの修行が必要なんじゃないのか?」
「それは子供のころから教育するっていう仕組みが一番使われているっていうだけじゃないかって。実際に大人になってから才能が見つかった人間に教育した例っていうのがほとんど知られてないのよ」
そこまで言われるとさすがに俺でもコーリーの狙いに気がついた。
「なるほど、大人に対して魔法を教えるという稀少事例の標本になって欲しいということか」
そういうとコーリーがにっこりと笑う。
「ほんと、チャックは察しがよくて助かるわ。実際にチャックは大人になってから魔力の使い方が上手くなってるから今の段階でもすごく興味深いのよ」
「そうなのか? マユは特にそんなこと言わずに俺に教えてくれてたが」
「最初に来たときチャックと一緒にいた魔法使いの子ね。まだ若かったし正式に教えた経験がなかったから大人に魔法を教える事例が希だって知らなかったんじゃないかしら。それで一体どんな風に教わったの?」
「どんな風といっても……俺はもともと気配を探るのに魔力を無意識に使ってたみたいなんで、まずそれを意識的にできるようにというところからかな。マユが自分で魔力を変化させるのを感じ取るのを訓練したり、自分の魔力を感じるように心がけたり。で、まずはそれで意識的に魔力を出せるようになったんだがそれが強すぎて獲物を探ると逃げられるようになったんでまた相談したら魔道具使って魔力を抑えてその弱い魔力を感じる訓練したり」
そう説明しつつ鞄から魔道具のランプを取り出してみせる。普通に魔力で光るランプでもあるので持ち歩いていたのだ。それを手に取って確認しながらコーリーが言う。
「なるほど、基本通りの魔術入門方法と初心者向け自主練ね。うん、変な教え方されてないのは標本としても好都合だわ」
「いや、納得はしたがそう露骨にサンプル扱いされるとちょっと気になるな。それにまだやるって返事をしたわけでもないんだが」
「でも、チャックはやってくれるんでしょ。ここまで話してくれてるんだし」
当たり前のようにそういわれてしまうが、悔しいことにその通りだ。
「まあな。まあ俺だって他にもいろいろと用事はあるんだから全面的に協力するというわけにはいかないが、基本的には了解だ」
「チャックならそういってくれると思ってたわ。それじゃあ細かい内容を詰めるのはわたしのお家に帰ってご飯を食べたあとにしましょうか」
「ああ。こんなところでは詳しいことを話しにくいからな。落ち着いたところでいろいろと言いたいこともある」
「そうよね。だから晩ご飯に鳥をもう二羽ぐらいお願いできるかしら」
「はいはい先生、承りましたとも」
そうして中断していた狩りを再開して獲物を数羽追加した後にコーリーの隠れ家へと帰った。そして二人で晩飯を作って食べた後の打合せは夜の遅い時刻までかかっても終わらず、結論は翌日の午前中一杯まで持ち越すことになってしまったのだった。




