79:隊商護衛
2026/04/30 誤字修正・表現微調整
「チャックさんはそれを意識的にやっているのですか?」
アマバを出て街道沿いの広場近くでまた狩りをして鳥を仕留め、再び歩き出したところでジゼルから声をかけられた。
「ああ、これのことかな?」
俺はそう言って『気配感知』で飛ばしている魔力を変化させてみる。
「それです。えっと、何をしているのかはわかっていらっしゃるのですか?」
さすがに魔法の心得があるジゼルは気付いたようだ。一方でカルムの方は困惑顔だ。
「ねえ……ジゼルとチャックは何の話をしてるのかな」
「ああ、俺の使ってる気配感知は魔力を飛ばして周囲を探るって方法なんだ。俺はその魔力をある程度の強弱をつけて使い分けてるんだよ」
俺が答えたことにジゼルが補足する。
「魔法の心得がない人でも魔力を飛ばしたり感じたりを無意識にやって気配を感じる人はそこそこいるんですけど、魔法使いでもないのに意識して調節できる人ってめったにいないんですよ」
「ああ、そういうのって『冒険者のカン』ってやつかと思ってました」
「俺の『気配感知』がそうだっていうだけだからな。同じ魔力を使ってるにしても感覚強化に回して僅かな音や空気の流れの変化を読み取って位置を把握しているやつもいるかも知れない。これが魔法の索敵になるとかなり細かいところまでわかってるらしいけどな」
そう言ってジゼルの方をちらりと見る。
「私は御主人様をお護りするのを想定して攻撃と防御に力を入れましたので索敵方面はちょっと苦手ですね。先程の感じでもチャックさんのほうが先に伏兵に気づいてたようですし」
どうやら魔法使いのほうでもいろいろ流儀はあるようだ。
「まあとにかく俺の気配感知は魔力を使ってるってことだ。それでだな、ちょっと面白いことに魔力を強めに飛ばすと弱い野生動物や魔物がそれを感知して逃げ出すって効果が出てしまってね。それだと狩りをするのに不便だから知り合いの魔法使いに頼んで魔力を押さえるようなやり方を教えてもらったんだ」
そこまで言うとジゼルは俺の魔力が変化した理由に気がついたようだ。
「なるほど、それで狩りのときは放出する魔力が弱めで、終わったあとは魔力を強めて魔物避けにしていたということなんですね。索敵魔法では相手がよほど敏感でないと気取られることもありませんからそういう使い方は思いつきませんでした」
「さすが魔法使いさんだ。単独行で移動するには便利なもんだから魔力で散らすのが癖になっててね。無用な遭遇戦もないし快適だよ」
それを聞いていたカルムがちょっと残念そうな表情をしていたのには気がついたが黙っておいた。
◆ーー◆ーー◆
「やあ、ちょうど冒険者さんがいてくれてよかったよ。俺達だけでも大抵は大丈夫なんだが最近ちょっと怪しい奴らがうろついてたんでな」
そう言うのはジョウニの村でたまたま同じ方面へ向かうのがわかって途中のオーキスまでと同行している行商人たちのリーダーだ。
「いや、俺達も人数少ないとナメられやすいし同行させてもらって助かるよ。まあ冒険者としてはついでに護衛に雇ってもらえたらもっと良かったんだけどな」
「俺たちゃ商売人だからな。そっちにもともと王都まで行く予定があるって言うなら出費は抑えるのが当然よぉ」
そう言って行商人のリーダーはガハガハと笑う。
「そりゃそうだ。まあ機会があったら護衛を雇うのも考えてやってくれ」
軽く会話を交わして行商人グループとちょっと離れて歩いているカルムとジゼルの方へ戻る。
「私たちはあまり目立ちたくないのでほどほどにお願いします」
「同道する人たちとは仲良くしておくのが冒険者の基本だからな」
ジゼルが苦言を呈するのには軽めに応じて、ちょっと不満気な視線を受けながら街道を進む。しばらく歩くとまたジゼルの方からこっそりと声をかけてきた。
「狼が何匹か近づいているようですね。もうすぐ見えてくると思いますけどどうします?」
「うん、できればもっと引きつけてからなんとかしたいな。普通の狼ならジゼルにカルムも問題ないだろ」
昨日の山賊との遭遇戦で見せた腕前から戦力的に問題はないと思ったが、ジゼルはちょっと呆れたような目をこちらに向けてきた。
「しかたないですね。横や後ろに回り込んでいる狼はいないようですし遠距離で対応すればいいでしょう」
「ああ、接近戦までにはならないようにするよ」
こそこそと話していると行商人の一人が声を上げる。
「狼が出たぞ。何匹もいる!」
「俺達が前に出る。ジゼル、後ろにはいるか?」
さっき聞いてはいたがあえてそう質問する。
「回り込んでいる狼はいません。前方に見えているだけです」
ジゼルも律儀に答えてくれる。
「近づける前になんとかするぞ」
これも事前に打ち合わせてはいたがあえて声に出して短弓を構える。
「ジゼルは一番手前を狙ってくれ。たぶんあれが一番強い」
射程ギリギリでは魔法のほうが威力も命中率も高い。
「わかりました。『爆裂火球』っ」
ジゼルが放った魔法は先頭の狼を打ち倒す。続いて前に出てきた狼は短弓の連射で数本を当てて倒し、さらにジゼルがタメの少ない火球を連射して後続に対応する。
「そろそろいいかな」
ぼそっとつぶやきつつ魔力放出を最大にした。すると残った狼たちはビクッと一度体を震わせ、諦めたように去っていった。
「いやあ、さすがだね。こっちが出る幕がなかったよ」
「じゃあ護衛料も出してくれるかい?」
「オーキスについたら一杯奢るぐらいで勘弁してくれよ」
行商人のリーダーと話してから戻るとカルムがちょっと怒ったような顔で俺を迎えた。
「遠くから追い払えるのに接触するのを待ってから撃退するのはズルいと思う」
ジゼルからわざと魔力を抑えて接敵を待ったことを聞いたようだ。
「これも営業活動だよ。冒険者が有用だと見せれば護衛に雇ってくれる可能性が高まるだろ」
「それはそうかも知れませんけど」
理屈は納得してもらったようだが好感度はちょいと下がったようだった。




