78:家族関係
2026/04/25 サブタイトルが2個前と似てしまっていたのでちょっと変更
「面倒なら答えなくてもいいが、あの山賊たちはカルムたちのことを知っていたみたいだよな。なにか心当たりはあるのか?」
「証拠はないですがおそらく本家の正妻派の嫌がらせですね」
捕らえた山賊を引き渡したアマバの村では報告などいろいろあって夕食も遅くなった。その折に山賊たちについてジゼルに訊いてみるとこのような返答が帰ってきた。
「道中の宿でカルムから聞いた感じでは兄弟の仲はそれほど悪くはなかったみたいに聞いていたんだけどな」
それについてはカルムのほうが答えた。
「兄たちはそれほど気にしてなかったし、まあ同年代の知人という程度の交流はあったんだけど。義母様は僕の母に対しても色々と思うところがあったようで、ちょっと当たりはきつかったね。話して楽しいものでもないので黙っていて申し訳ない」
「いや、それは構わないが。なるほど女同士の確執が子供のカルムにも影響していたというわけか」
俺が頷いているとさらにジゼルが続けた。
「奥様だけではなくその取り巻きの使用人たちもちょいちょいと嫌がらせを仕掛けてきていましたね。旦那様は他にも女性を連れ帰って来ていたので同じ境遇のお味方もいないことはなかったのですが、奥様は貴族の出身なのに他の女性はほぼ平民でしたから。もともとの知り合いでも専属使用人として雇ってもらえることは珍しくて本当に肩身は狭かったですね」
「しかし妾が気に入らないからと言ってその子供に山賊をけしかけるなんていうのはちょっとやりすぎなんじゃないか。なぜ正妻派の嫌がらせだと思うんだ」
「そうですね。山賊に襲わせたとなったらさすがにあちらの立場でもまずいでしょう。ですから山賊を雇って襲撃させたのではなく、ただ『身代金を取れる貴族が少ない護衛で通りかかる』という噂だけを流してあとは成り行きに任せただけではないかと」
そう言われた俺はさすがにちょっとうんざりしてきた。
「それって本当なのかよ。貴族様ってのも大変なんだな」
「実は今回が初めてというわけでもないんです。何故か御主人様の外出予定が漏れていて良からぬ輩に絡まれたりするのは。これまではそういうことも想定して護衛を雇ったりもしていたので大事になったのはなかったのですが」
それを聞いて俺の中に疑問が浮かぶ。
「普段頼んでた護衛の人は今回はどうしたんだ?」
「専属で護衛契約していたわけではないですから。普段からよく護衛依頼を受けてくれる人はいたんですが今回は誰も都合がつかなかったんです。なんでもちょっと前に相場よりも高めでの依頼がたくさんあったらしくて」
そういうとジゼルはちょっと遠い目をした。
「もしかしたらこれも正妻派の差し金だったのかもしれませんね。実は今回の呼び出しは即日出発しないと間に合わないぐらいの日程だったんですよ。」
「なるほど、護衛の冒険者が帰るのを待っている時間がなかったということか。それでやむを得ず俺を雇ったということだな」
「そういうことです。前回にチャックさんが腕に覚えがあるとわかっていたのは幸運でした。山賊が言っていた人数が合わないっていうのは私たちが雇える護衛がいないのを知っていたみたいな言い方ですし」
言われて思い返すと俺が伝令人であるということもわかっている口ぶりだった。今回は護衛任務ということで伝令人の目印であるバンダナは荷物にしまい込んでいるのでわからないはずだったが、自分がこっちに来るときに見ていた奴らがいたのかもしれない。
「まあなんというか、やたらと手間がかかっている割には大雑把だな」
それを聞いたジゼルも軽く苦笑して答えてくる。
「絶対に証拠を残さないという用心と、さすがに命まで奪っては後で露見したときに怖いとかそういうことでしょう。そこまでしなくても人質になってしまったなら一族の恥と責任を取らせ、失敗しても証拠がなければ別に悪くはならないと」
俺とジゼルのやり取りを聞いていたカルムはこういう実情をあまり知らなかったようで口を挟むこともできずにしばらく聞いていたが、食事を終えてお茶を飲んでいるタイミングでようやく言葉を絞り出した。
「なんだかねえ……ジゼルには知らないところでずいぶんと苦労をかけていたんだね。僕が頼りなくてごめん」
それを聞いたジゼルはたいへんいい笑顔でカルムに応える。
「いえ、御主人様はなにも気にする必要はないのです。御主人様に悪いところは何もないのですから。もっと堂々となさってくださいませ」
そう言われたカルムはちょっと無理をしたような笑顔を作っている。
「ジゼルがそういうのなら、僕は気にしないように務めるよ。でもやっぱり僕がこんな立場じゃなければ苦労をかけずに済んだだろうっていうのは心苦しいな」
「それこそ御主人様のせいではなくダーネル様の女癖の悪さが原因ですから。お気になさることではありません」
「でもそれならジゼルも……いや、こういうのを気にするなっていうことだよな。もうやめておこう」
その日の宿も男女別で俺とカルムは同室だったがさすがに今日は大した会話もなく早めに床についたのだった。




