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パーティーを追い出されたのでしばらく冒険はお休み  作者: 散散満
伝令人、田舎へ

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76:相続問題

「ではチャック、道中は偽装のため僕とジゼルは君と冒険者の仲間……パーティーっていうのだったかな。そういうふうに装ってくれたまえ。言葉遣いも気にしなくて構わない」


 伝令人(メッセンジャー)仕事に行ったオクシで護衛を頼まれてしまったカールトン家の別邸を任されているカルム・カールトンがそう言う。口調こそ大人ぶっているが表情は少年らしく目が輝いている。


「ではお言葉に甘えて……言葉遣いというならカルムもその言い回しは冒険者らしくないぞ。もう少しくだけた調子でないと貴族様なのが透けて見える」


「あ、ああ。そうだな。よろしく頼むよ」


 カルムはそう言いながら先に立って歩きだした。それを見ている俺にジゼルがこそっと耳打ちする。


御主人様(マスター)は冒険物語にあこがれていましたので。申し訳ありませんがお付き合い願います」


「いや、正直いえば俺もあまりかしこまるのは得意ではないからこういうのは助かる。侍女さんも名前で呼んでいいかな」


「ええ、かまいません」


 そういうとジゼルの表情がふっと緩んだ。


「私はオクシの普通の庶民の生まれなんです。村の人にはほとんど子供の頃から知られてますし。普段はかなり意識して『貴族の侍女にふさわしい所作』を作ってるんですよ」


「へえ、それじゃあジゼルはカルムとも長い付き合いだったりするのか」


 そういうとジゼルが前を行くカルムに視線を移して言った。


「ええ、それこそ生まれたときから。あの頃は貴族の坊っちゃんだなんて意識はしてませんでしたけど」


 その横顔はとても大事なものを見るような表情だった。


◆ーー◆ーー◆


 オクシの隣、アミサの村では部屋が2つしか取れなかった。部屋割りではジゼルが「カルム(御主人)を差し置いて一人部屋などは」とひどく渋ったりもしたが「今は冒険者のフリしてるんだから」と彼女を一人部屋にして俺とカルムが同室となっている。


「冒険の話を聞かせてください」


 カルムにせがまれたので冒険者として活動していた頃のことをいろいろとちょいと脚色もしつつ話す。植物の魔物に絡まれた上にいろいろなものを浴びてヒドいことになってしまった話は大いにウケた。だいぶん打ち解けたかなと思ったところでちょっと真面目になったカルムが話しだした。


「実は今回受け取った手紙は父のダーネルがなくなったから葬式に来るようにとあったんです。前からもう危ないと聞いていたので準備はしていたんですけど」


「それはご愁傷さま。こんな冗談言っている場合じゃなかったかな」


「いえ、父とはいえほとんど会ったこともないですし。最後に会ったのも数年前だったかな」


 そういう表情には確かに父をなくしたばかりという悲壮感はない。


「ずいぶんと疎遠なようだが、実の父親なのだろう」


 俺の問いにカルムはちょっと考えてから口を開く。


「ええ、実の父親なのは間違いありませんが……僕は妾腹なので。もともと大っぴらには会えなかったし、母が病気で亡くなったらあからさまに厄介者扱いされてオクシへ押し込められましたし」


「それはなんというか、貴族にもいろいろとあるんだな」


 苦笑いしながら話すカルムに俺もちょっと困惑する。


「母はもともと結婚もしていたんですが、夫に先立たれてオクシの屋敷で働き出したところを父が見初めて王都に連れ帰って僕が生まれたそうで。父にはもう正妻もいて子供も二人いたんですけどね。まあ兄たちとは仲が悪いほどじゃなかったけど居心地は悪かったですよ」


「庶民の俺にはよくわからん世界だが、カルムも大変だったんだな」


「まあそういうことなんで、あの女好きの父には正直それほどいい思い出とかないんですよね。実は僕の下にも何人か弟妹がいるらしいですし。今回王都に行ったら初めて会うのもいるんじゃないかな」


「たしかに親父さんもなんというかもう少し節操があってもいいって気はするな」

 

「詳しくは知らないですけど、あの人はなんというか『未亡人』が好きだったとかで。いろんな女の人に声かけてたらしいですよ」


「いったいどんなところからそんな情報を」


「母がオクシの生まれだったから知り合いもたくさんいたそうで。いろいろあったのも知ってたから母と同年代のおば……お姉さんたちがいろいろと優しくしてくれまして。お菓子やお茶を差し入れてくれたり、食事に招かれたりとかもしてましたね。そこでいろいろとお話を」


 どうやらこの坊っちゃんは年上女性にウケがいいらしい。


「カルムってもしかしたら年上の女性が好みだったりするのか」


 ふと気になったので聞いてみるとカルムはあからさまに動揺した。


「え、ええ。そうですね。頼りがいのある方がいいですけど、そんなにすごい年上が好きってわけじゃないですよ。ちょっと上ぐらいがちょうどいいかなーと」


 そういいながら一瞬だけ視線が壁の方に向く。そっちにあるのはジゼルの部屋だ。


「なるほどねえ。まあいろいろ大変だろうが頑張れよ」


 実はカルムの抱えているものが俺の想像以上に重いと知るのはもう少し後のことになる。

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