わき道ーその10
どうも、もんたです。
今回は箸休め、わき道のお話となります。
(まぁ読まなくてもいいようには構成組んでいきますが)
それでは、どうぞ。
――これはマルクが小屋から街に戻った後のお話…――
「気を付けて、いってらっしゃい。」
私がみていた10数年に比べればたった半年しか経っていないというのに。
そんな瞬きのような時間で、少しばかり大きくなった我が子の背中を見送っていると、ぽろりとそんな言葉が漏れた。
「ふぅ…」
また一人になった小屋は少々物寂しく感じる。
これまでもずっと一人で気ままに暮らしていたというのに不思議なものだ。
あの子がくるまでの数十年大した感傷も感慨も持たず暮らしていたはず。
勿論、アリアのように行商に同族が来ることは何度もあったし、ドラコニア様だってちょくちょく遊びに来ていた。
ヴァールトも大森林の魔力を元に勝手に実体化してたまに訪れていたのだし。
あとは数年に一度くらいの幅で冒険者が迷い込むことはあったかしら?
小屋に戻り、テーブルに腰かける。
ポットからお気に入りのお茶をカップに注ぐと、いつもの良い香りが鼻をくすぐった。
…マルクと過ごした10数年というのは私の心に大きな影響を与えていたみたい。
マルクに出会う前にも幼子の相手をしたことはある。
ドラコニア様と街で身分を隠して暮らしていた時、近場の子どもの相手をしていたし所用で出かけるからと預かることもあった。
ギルドからの依頼で孤児院や教会に行くこともあったので、その延長のようなものだろうと軽く思いマルクを拾った。
でもやはり、成長の過程を手伝うのと一から育て上げるというのは違うもの。
お腹がすけば当然出るはずもない乳の代わりに牛や山羊の乳を与え、ふいにくる夜泣きをゆっくりとおさめて。
何度もおむつを替えて、片時も目を離せない日々が続き、定常作業の合間合間に多大な手間がかかった。
それでも、それを嫌と思うことはなかった。
ただの一度も。
これが母というものなのだろうかと思った。
果たして自分は自分の母に何をしてもらっただろうかと何度も考えることにもなったけれど。
思い出そうとしても全然出てこないのは時が経ちすぎたからなのか、何もされなかったからなのか。
物心ついたときには私は巫女だった。
周りの見方はワタシ、ではなく巫女として。
まるで繊細なガラス細工を扱うような、一歩間違えれば腫れ物のような存在だった。
確かに優しい言葉をかけてもらったことは覚えているが、それが「愛情」を元にした言葉だったかはわからない。
そんな気がする、という程度だ。
よっぽど、アリアや同世代の仲間たちがかけてきた言葉の方が身に染みた感じがしたような。
もうこれも遙か昔のこと過ぎてはっきりとは覚えていないけれども。
程よい温度になったカップを傾ける。
うん。
今日もいい味ね。
小さなマルクを背中におぶって薬を調合していたのが懐かしい。
調合の目を離せないタイミングでおもらしされたときは大慌てしたっけ。
結局その時は調合を優先してしまったので、少しマルクがそのあと不機嫌だったような気がする。
といっても言葉も話せない赤子の時なのでわからないし、本人は当然覚えてすらいないだろう。
それでも、私は全て覚えている。
そう、全て。
惜しむらくは私が自身の腹を痛めて産んだ子ではないということだけ…
でも、だから何だというのか。
確かに親は違う。
それでも育てたのは他でもない私。
確かに種族は違う。
それでも人として恥ずかしくないように物事を教えた。
その甲斐あってか、あの子の生来の性格かは分からないけれど人の街でも上手くやっているようだ。
ギルドでもしっかりと活躍しているようだし、知り合いからあの子の調合した薬の評判がいいことも聞いている。
彼に隠れて情報を仕入れているのは秘密だ。
…なんか、恥ずかしいし。
わたしの住むサドニア王国内の街に限らず、各地の村街にはエルフがぽつぽつと暮らしていて、それなりの情報網が存在している。
それは自分たちの安全を確保するためのものでもあり(人族以外を排除する、なんて動きもあるのよね)、単純にエルフ族の動向をしるためのもの。
エルフ族は基本的に大森林や砂漠、海上のポツンとした島といった余計な手の入りにくい土地を好む。
そのせいで他の種族との交流が少なかったり文化的に落ち込んでいたりして古臭いのだけれど。
逆に、余計なものが入ってこないおかげで独自の文化や技術が発達する。
魔法はもちろん、陶器や鍛冶のような細工物など長命種特有の暇な時間を大量に注ぎこむことで、他の種族ではたどり着けない境地に達する者も多い。
長く生きるせいで蓄えは十分にあるので、みんなお金に対する頓着はほぼない。
わたしもそうだし。
周りに興味がなくとも、自分の生まれ里のことや知り合いが元気にやっているかどうかは気になる。
そんな時に行商を頼ったり、色々と知る手段が必要となる。
ずっと昔から、私が生まれるよりも前から確立されたこの情報網なら大抵のことを知ることができる。
それこそ街の噂レベルから国同士の秘密まで。
私は王国内のことが知れればいい位なので、王族のなんやかんやとか戦争がどうのこうのとかなんて話は全く興味ないのだけれど。
アリアが勝手に話すので、勝手に耳に入ってくる分に関しては話のネタ程度に頭に入れている。
あの子、あの口の軽さでよく仕事できてるわよね。
湯気の出なくなったカップのお茶を飲み干して、注ぎなおす。
まぁ、そんなこんなでエルフの情報網を通じてマルクのことはなんとなく聞いている。
そもそも薬師ギルドを創設したのは私たちだし。
人族の彼女を矢面に立たせたのには申し訳なさもあったけれど、圧倒的に多い人族が首長の方が上手くいくことはわかっていた。
わたしたち自身、彼女も含めてだけど役職とか名誉とかどうでもよかったもの。
ただ、少しでも困った人たちを救いたくて。
病に倒れ逝く人を少しでも助けたくて。
そんな思いだけで始めたギルドだった。
上手く回っているようで何より。
そろそろ久しぶりに顔でも出そうかしら…?
「ガウガウッ!!」
「「キャンキャンキャンッ!!!」」
随分と狼たちが鳴いている。
頭の良い子たちなので特別なことがない限り鳴いたりしないのに…
一体どうしたのかしら?
――コンコン
「はい。どちらさま?」
「わしじゃ。…今、良いかの?」
「あら、ドラコニア様。どうされたのですか?」
「助かるのぉ。」
「…えっ!?」
ドアを開けてふらりと現れたドラコニア様はひどい様相だった。
昔から身に着けているいつもの魔法のローブはあちこち焼け焦げて破れている。
穴あきになった個所からは痛々しく血が流れ、杖を支えに立つのも辛そうだ。
「ど、どうなさったのですか!?一体…何が?」
「すまんのぉ…。ちとやすませて…もらおうと…」
「ドラコニア様!!」
険しそうな表情から普段通りの優しい表情に戻ったと思うと、そのまま崩れ落ちてしまった。
かろうじて滑り込んだグランとアドラーたちがクッションになってくれ良かった。
そのままグランにドラコニア様を背負ってもらい奥の部屋に寝かした。
ローブを剥いでみると思ったより傷が深そうだ。
鋭い刃物で切られたような傷と鈍器のようで叩かれたような青あざが体中に広がっている。
ドラコニア様自身は指折りの魔法使い。
一体どこのだれがこれほどの傷を負わせることが出来るのか…
恐らく自身で回復魔法を使用しているおかげで致命傷にはなっていないが、少々血を流しすぎているよう。
肌の色味が落ちて胸の動きも心許ない。
「これは…マズい。何が起きたかは後…!文句は後から聞くわ。早く出てきて!」
≪精霊強制召喚・ヴァールト≫
詠唱に合わせて目の前の空間がゆがむ。
裂け目から呼び出したのは私の相棒。
『ふむ。強制召喚とは何事か…などと言ってはおられんようだな。』
「えぇ。理解が早くて助かるわ。一刻も早く処置をしないといけない。今から言う薬草や植物をかき集めてきて頂戴。」
『相分かった。』
お読みいただきありがとうございます。
2月に入りましたね。
バレンタイン、みなさんご予定は?(白目)
僕は特に予定ないので、翌日お食事の予定を組んでいる方にチョコプレゼントしようかな…と。
リア充はかえれ!笑
とはいってますが、みなさんどうぞ円満にお過ごしください。
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