わき道―その⑧
どうも、もんたです。
お時間いただきました。
第一章と同じように、数話分閑話を投稿します。
それではどうぞ。
雲一つない空の下。
冒険者ギルドの3階のギルド長室に筋骨隆々の男が一人。
スキンヘッドに汗を浮かべながら羽ペンを動かしていた。
「あ~めんどくせぇなぁ…。これは無視していい…か。こんなレア素材を依頼でだすならもっと報酬だせっつんだ。それからこっちは…張り出せるな。フォレストウルフの牙に爪の納品ならCランクパーティーでいけるだろ。んで…。」
机に積まれた書類を片目で睨みつけ、ぼそぼそと文句を言いながら黙々とチェックしていく。
―――コンコン
「おう。入れ。」
「失礼します、マスター、ライムです。」
羽ペンよりも大剣を握った方が似合う男の部屋に入ってきたのは一人のエルフ女性だった。
桃色髪のおさげが特徴的でエルフ特有のスラリと整ったスタイルが目を引く。
マスターと呼ばれた男はチラリと目を向けると、羽ペンを放り投げ縮こまっていた身体をぐんと伸ばした。
それに合わせてなった鈍い音にライムは苦笑を浮かべる。
「書類認可ありがとうございます。できたものをお預かりますね。というか、せめて誰かくらい確認してください。」
「うるせぇ。誰であろうと構うかよ。」
「我々下の者が構うんです。それと、差し入れのコーヒーです。」
「おー、ちょうど飲みたいと思ってたとこだ。ありがてぇ。んで、なんかあったか?」
本来なら酒が入っているべきであろう木製のジョッキになみなみとコーヒーをちびちびと飲みながらリラックスした様子でソファに腰かけ、向かいの席を顎で示す。
ライムも自分の分をカップに注ぎ、反対側に座った。
「いつもの業務は問題ありません。相変わらず、といえばなんとも言えませんが。」
「まぁ面倒な奴がいるのはいつものことだからなぁ。レオルドとか引っ張ってこい。」
「人がいいからっていいように使いすぎですよ。」
「そうか?どうせ言わなくてもやるだろ。」
「そうなんですけどね…。これ厄介者払いとかって依頼にして受けてもらいません?」
「おっ。それいいな!」
「冗談ですよ!?真に受けないでください。それに次が本題です。」
ライムは表情を真剣なものに戻し、机の上に置いていた封された手紙をマスターに手渡した。
嫌なものを見たと言わんばかりの顔で手紙を受け取ると乱雑に封を開ける。
「もう少し丁寧に…。」
「いんだよ、シャンドラ様からの手紙だ。蜜蝋に押された印も本物みたいだしな。ほれ、「冒険者ギルドマスター、ゴウン様宛」って書いた字もあの人の筆跡だ。」
「間違ってはいませんが…。中身の手紙が傷ついたらどうするんですか。」
「そん時は俺が屋敷まで行って謝りついでに直接要件を聞いてくるからいいのさ。」
「また適当な…。」
「いいっていいって。んで、わざわざ手紙まで書いて一体なんの用かね?」
「先日の件じゃないでしょうか。」
「先日?…あぁ、あれか。」
大きなため息をついた後、ゴウンは真剣な表情で目を走らせる。
手持無沙汰になったライムはゴウンの机上から処理済みの書類を抜き取り、部屋を通りがかったギルド職員に手渡した。
席に戻ってきた時にはゴウンはすでに手紙を読み終わり、ソファの背もたれに全体重を預けていた。
「マスター?」
「あー…。ほれ、読め。」
「よろしいので?」
「サブマスのお前なら構わねぇだろ。どうせ話し合わないといけない内容だ。」
「そうですか…。失礼します。」
ライムは机の上に放置された手紙を遠慮がちに拾い上げ、目を通し始めた。
――前略
ゴウン殿。
面倒な前置きは嫌いだろうから、内容のみ書かせてもらうことにする。
少々粗雑な始まりとなり申し訳ない。
先日、我が屋敷で預かっているマルク君が起こした問題についてだが、冒険者ギルドと合わせて調査し、決定した処罰通りで問題ないと判断した。
今後の対応は冒険者ギルドに基本的に一任するが、マルク君に関する問題が発生した場合には逐一領主館へ報告してもらえないだろうか。
特別扱いするようで申し訳ないが、どうかよろしくお願いする。
いかに改めて処罰の内容を記すので、もし間違いがあれば修正してほしい。
問題を起こした冒険者パーティーのリーダーであり、本件における最重要人であるグローは戦闘奴隷落ち。
上記一名は自力での解放は不可とし、何らかの理由で戦闘奴隷として役割をもてなくなった時は、鉱山へ送ることとする。
その他のパーティーメンバーは借金奴隷とし、自力での解放を可能とする。
金額は一律500,000オリンとし、現在の財産を売りに出した分を差し引いた額を実際の金額とする。
奴隷商人との手続きは慣例通り冒険者ギルドにて行うものとし、以降の書類の管理も慣例に基づくこととする。
本件では被害者として三名の名前が挙がっており、その三名に対する補償は以下とする。
其の一、≪ボルヘミの双牙≫所属、Bランク冒険者ダリアおよび、≪スライスロッド≫所属、Dランク冒険者トントの二名。
ダリアは後続に記すマルクを守りグローに胸部を強打され軽傷、トントは頭部を殴られ、床で頭を強打、一時的に意識を失った。
事態収束後、両名とも診療所にて回復魔法および薬の処方により回復したが、数日間活動を休止せざるを得ず、その分の補償が必須である。
其の二、無所属、Eランク冒険者マルク。
彼の者は冒険者ギルドに入った直後、後ろからやってきたグローに蹴飛ばされ、床に頭部をうち、口内に裂傷をうけた。
その後、上記二名の冒険者が負傷したことに怒り、魔法のようなものを使用しようとするも駆け付けた領主館に勤めるセバスにより止められた。※すでに怪我は回復済み
本来であれば上記二名と同様に補償が必要となるが、冒険者ギルド内で無許可での魔法使用があったため、その罪と相殺とする。
なお、未然に防がれたとはいえ、発動しようとしていた魔法は非常に高度かつ危険度の高い魔法と判断されたため、今後の冒険者活動を含め3年は軽度の監視を行うこととし、ランクアップも慎重に判断することとする。
――以上
「ふぅ…。」
ライムは手紙を読み終わると、疲れた目を労わるようにもみこんだ。
「どうだ?」
「騒動の後、話し合ったままの内容ですね。ただ、このマルク君の観察期間が伸びたのはどうしてでしょうか…。」
「あぁ、それは坊やが学園に通うかららしい。学園に通うなら冒険者の活動も並行してやるだろうから、せっかくなら目いっぱい見ておこうって腹だろう。まぁ、ガキンチョ冒険者なんて言われなくとも観察対象だし、これから学生諸君が登録に来て活動も活発になる。特に負担はないだろう。それより、もう一枚のほうだ。」
「え?あ、また薄い紙ですね…。」
ライムが読み終わったと思っていた紙をこすると、後ろから非常に薄い紙がもう一枚出てきた。
そこにはこれまた薄いインクで書かれており、ライムは目を見開く。
追伸。
※本紙は読み終わったら燃やしてほしい。なお、特殊な魔法とインクで書かれているので燃さなくとも一定時間すれば消えるようになっているが。
現在、当家で預かってるマルク君だが、早くに両親を亡くしている。
本当の両親は数年前起きたスタンピード事件の被害者でもあるオットマー準男爵。
ゴウン殿もよく知っているだろうから説明は不要だろう。
その後、あのオルガ殿に拾われて育てられ、製薬術と狩人としての教育を受け、さらにはドラコニア様から魔法を学んでいる麒麟児だ。
本人は大したことないとは言っているが、弓矢の腕前に関してはサルコウ爺も認めるほど。
保護者のこともあるので、少しだけ注意してみておいてほしい。
*******
「これは…また…。」
「だろ?ヘビーな名前出すぎで頭いてぇ。どんなガキだっての…。」
「しかもあのオルガ様の教え子ということですか…。」
「【薬神】、生きる伝説だものな。薬師ギルドに登録してねぇのか?」
「しているようですよ。あの後記録を調べたのですが、冒険者ギルドでは街中のお願い事やゴブリンやスライムといった討伐依頼を受領していて、薬草関係は薬師ギルドで処理しているようです。」
「か~っ!もったいねぇ!そんな目利きのできる冒険者ならこっちで卸してほしかったとこだな。領主様はもっと早くいってほしかったぜ…。」
「本当に。冒険者登録にセバス様が付き添いできた時点で事情を聴いておくべきでしたね。」
ゴウンは背もたれにダレていた身体を起こし、ジョッキに入っていたコーヒーを飲み干すと、無言でライムにジョッキを手渡した。
慣れたように受け取るとお代わりを注ぎにポットを取りに向かう。
ゴウンはその様子を見つつ、ぼそっとつぶやいた。
「あ~めんどくせぇ…。しかも【5大古代龍】かよ…。」
「なにか言いました?」
「んにゃ。なんでもねぇ。コーヒーありがとな。」
「いえいえ。これお返事書かれますか?」
「そうだな。問題ないってことだけ返事しておかないといけないだろう。任せていいか?」
「この程度であれば。本日中に返事を送っておきます。」
「助かる。っしゃあ、休んだ気がしねぇが仕事はしないとな。あとちょい片付けるか。」
「よろしくお願いいたします。それでは。」
ライムは空になったポットとカップをお盆にのせると、書類を小脇にかかえて静かに部屋をでていった。
ゴウンはライムの後ろ姿を見送ると、机上に置き去られた手紙を一瞥する。
追伸の手紙をぐしゃりと握りつぶし、窓際へ向かった。
普通サイズの窓にも関わらず、鍛え上げられたゴウンの肉体には少々手狭に見えるようだ。
傍らのチェストにおいてある葉巻に火をつけ、大きく吸い込み、窓から見えるにぎやかな街並みに煙を吐き出した。
手紙を握る右手にじんわりと魔力が集まっていく。
≪炎よ、灯れ。バーン≫
元々薄く作られていた紙はあっという間に燃え上がり、灰すら残さず風に運ばれていった。
「これもなんかの縁なのか?良縁か悪縁か…。おい、どっちだよ、リオニル。相変わらず、面倒くせぇなぁ…」
右手を閉じた片目にあてると燃えた熱が未だに残っている。
青々とした空はじんわりと滲んでいた。
お読みいただきありがとうございます。
お父ちゃんの関係者をだしたく…
ムキムキのおっちゃんは重要ですよね。
今後もよろしくお願いします。




