わき道ーその4②
どうも、もんたです。
オルガ視点第二弾です。
それでは、どうぞ。
******************
***********
******
マルクが街へ出て幾日か経った頃。
お散歩に出ていたグランから念話が届いた。
『オルガ。同胞が来た。』
(同胞?狼が来たの?)
『違う。オルガの同胞だ。北側からまっすぐに向かってくるぞ。倒すか。』
(あぁ、エルフね。様子見でいいわ。たぶんお客様よ。子どもたちにも攻撃しないよう伝えて。)
『分かった。それでは小屋に誘導しよう。』
(よろしくね。)
しばらくするとまたグランから連絡が来た。
『きたぞ。』
「オルガお姉様、いらっしゃいますか~?居たら助けてほしいな~なんて。」
グランの念話のあと、玄関口のほうから聞きなれた声が聞こえてきた。
調合室に行こうとしていた足を向けなおして出迎える。
相変わらずの間延びした声に思わず頬が緩む。
「お姉様~結構わたしピンチな気がしてるんです~。狼たちに囲まれて今にも食べられちゃいそうで~。」
ピンチだとかいう割りに声はかわらずのんびりしたまま。
ため息が出そうになるのをおさえて玄関の扉を開ける。
「大丈夫よ、アリア。その子たちはうちで飼ってる子だから。」
「純粋な私の身体が狼たちに弄ばれ――って、え?」
肩を両手で抱きくねくねと腰を動かす知り合いに呆れた目を向けながら話を進める。
「なに馬鹿なこと言ってんだか。ほら、さっさと中に入りなさい。」
「うちで飼ってるって・・・え?じゃあ私がずっと警戒しながら来た意味は・・・?」
「なかったわね。更にいえばそこの一番大きな狼、グランっていうんだけど、彼からエルフが近づいてるって聞いていたから。」
「ガウッ。」
同意とともにグランが吼える。
子狼たちが撫でてと近づいてくるのをなだめながら顔を上げると、とっくの昔にバレていたという事実にアリアはまた身体を震わせた。
「そ、そんな~。疲れ損じゃないですか・・・。」
「えぇ。そうよ。だから小屋で休みなさいって言ってるの。グラン、ありがとうね。みんなももうお散歩に戻っていいわ。」
「「「ガウッ!!!」」」
一斉にあちこちへ散らばっていく。
小さな子のところにはグランとグリムがついていっているし大丈夫だとは思うけど。
子狼とはいえ、そもそもは魔物だし結構大きい。
狼たちが離れたことで落ち着いたのか、アリアはほうっと息を吐いた。
「や、やっと落ち着けそうです・・・。にしても本当に狼を飼ってるんですね~。」
「はじめは息子が連れてきたんだけど、そのままなついちゃってね。別に困るわけでもないし一緒に住んでるのよ。横の掘っ立て小屋が狼たちの寝床だから不用意に近づかないようにね。」
「は~い。」
アリアを促して小屋の中に入る。
私があらかじめ用意しておいたお茶のセットを持って部屋に戻ると、アリアは背負っていた大きな背負子と肩掛けの革鞄を横においてアドラーとイズマをぷにぷにといじっていた。
そういえば、いつもは革鞄だけだった気がするんだけど・・・
「ねぇアリア。今日はいつにもまして大荷物ね。鞄、壊れちゃったの?」
目の前においたお茶で一息いれる。
「ふぅ・・・。やっぱりお姉様のお茶はおいしいですね。荷物はたまたまです。今回は西から大回りでこちらに来たんですけど。ご存知かは知りませんが、今西国は内紛状態でして。色々と入用なのです。」
そういえば、グランたちは西国の方から逃げてきたんだっけ。
「それで、ここの王都から北西方面に仕入れながら動いて、西国でかっさばいて、西国で現在不要となっている美術品とか~骨董品とか~っていう嗜好品を格安で仕入れてきたんです。ああいったものってどうしても重いし場所取るじゃないですか~。おかげで鞄が容量いっぱいになっちゃって・・・。たはは。消耗品を背負子に入れなおしてごまかしております。ええ。」
「相変わらず、その辺の計算は苦手なのね。良く商人をやってられるわ。」
「あははは。耳が痛いです。まぁ途中でお仲間に会えたおかげで荷物を交換できて今は身軽なんですけどね。入れなおすのも面倒だしそのまま背負子で歩いてます。その方が行商人っぽいし、都合いいですから~。」
「まぁ、それは否定しないわね。というか西国ってまだ争ってるの?」
「そうですね~。今現在は終息に向かってますが・・・。元々、小火があちこちで起きて、それがつながって火事になり、もろもろ巻き込んで大火事って流れを踏んで紛争に入ったんですよ。今は大火事が鎮火して残り火を消そうとしてるとこですかね~。私もそこそ生きてるし、仕事柄人間の国にいくことも多いですが、未だに謎です。なんであんなに同族で殺しあうんでしょうか~。」
一通りしゃべり終えたと判断したのか、クッキーにぱくつくアリア。
頬に詰め込んで目じりを下げる様子は昔から変わらないなと思う。
零れ落ちる欠片は足元で大人しくしているアドラーとイズマのおやつ代わりね。
「さぁ。私たちには一生かかっても分からないと思うわ。」
「仰る通りで~。ところで、息子さんは~?」
「少し前にトーカの街へ言ったわ。学園に入学するのよ。」
「あら~。そうだったんですね。今回からはマルク君?でしたっけ。彼のお薬も買い取れるかなってお仲間と話してたんですが・・・残念です。」
そういえば、前回来たあの子にそんな話をしていたっけ。
マルクも薬を作るのはお手の物だし、実際売り物に十分見合う品質だから、と言っていたのを思い出した。
「そんな話もしていたかしらね。本人はいないけど、マルクが作った薬は置いてあるわ。売ってしまっていいといっていたし欲しいなら買っていって。マルクも喜ぶから。」
「やったぁ!!」
私の言葉をきいて、細い目を見開いてアリアが立ち上がる。
こういう商売の話になるとたん、雰囲気を変えられるというのも才能なのかしら。
そういえば、マルクも新しい薬や製法の話になるとこんな目をしてたっけ。
懐かしさに思わず口元を緩ませていると肩をたたかれた。
「お姉様?大丈夫ですか?」
「えっ、あ、ああ。ごめんなさい。ちょっとボーっとしてたわ。」
「・・・・・・」
「な、なに?」
少し顔が熱くなってるのがわかる。
「いいえ~?」
アリアはにやっと歯を見せて笑う。
「な、なによ!言いなさい!」
「いえいえ~。《薬巫女》とまで崇められたお姉様もついに女の顔をするようになったんだなぁと思いまして~。」
「なっ・・・なっ・・・」
「今のお顔~、幼馴染のメレイアが想い人のことを考えてるときの顔にそーっくりでしたよ?その顔で物憂げにため息でもついていただければ、とーっても眼福だったんですけれど~。」
「ば、バカなこと言ってないで!!ほら!薬を買い取ってくれるんでしょ!?いくわよ!」
これ以上顔を見られると間違いなく逃げられなくなる。
アリアに顔を見られないよう素早く振り返って調合室へ向かう。
「あ~ん。お姉様、置いていかないで~。」
後ろでなんか言ってるけど無視よ、無視。
********
*****
**
その後は特に何事もなく。
作り溜めしておいた薬や暇なときに作っておいた革細工なんかを売り、食品や道具類を融通してもらう。
紛争中の西国を通ってきたと言う割に充実していたのでどうしたのかと思っていたんだけど、
「さっきも言ったようにお仲間に会って荷物を整理させてもらったので~。お姉様に会うのに貧相な品揃えというわけには行きませんから~。」
と妙に気合の入った顔で言われた。
まぁ、嬉しいことではあるわよね。
「というか、お姉様のところで仕入れが出来れば確実に利益が取れるので、こちらとしても落胆させるわけには行かないのです。」
「落胆って・・・。まぁ、薬類はそれなりの値段で売れるでしょうけど・・・。」
「それだけじゃないですよ~?お姉様は狩りもお上手ですから、魔物の毛皮も肉も痛みは少ないし、品質がいいんです。それに調合で磨かれた緻密な魔力操作がありますので~、革のなめしも十分。良質な防具道具が作れるんです。商人としては垂涎の一品ですね。以前お姉様がなめしたジャンブディアーの毛皮が、さる高貴なお方に100万エリクで購入されたなんて話もありますし。」
「!?ゴホッ!!」
「お、お姉様!?」
今この子なんて言ったの?
あのちょっと硬くて脚が速いだけの鹿の皮が100万エリク・・・?
確か一般的な回復薬が100エリク前後だったはず。
・・・わたしのはもう少し高いけれど。
それにバサラベアの毛皮で作られた革鎧が1万エリクとかだったはずだから・・・
「ゴホッ・・・。だ、大丈夫。少し驚いただけだから。・・・どうしてそんなにすごい値段になったの?」
「これもまたまた人間の欲ですね~。あの時の革は雄の大きな固体で傷無し、なめし完璧、と毛皮としてはそれ以上ないほど良品でした。私もちらっとだけ現物見ましたけど、すごかったですもん。当時それを扱ってたのがリストさんで~ってどうしました?」
久しぶりにきいた名前に無意識に顔を歪めていたみたい。
「いえ。あいつだったか・・・と思ってね。」
「ん?ああ、お姉様、リストさんのこと苦手でしたっけ。えっと、それでリストさんが王都で馴染みの商会に卸したところせっかくだからオークションで、となってバカスカと値段が上がったんですよ~。オークションは私も見てましたけど気持ちよかったですね~。ガンガン値段上がっていくんですもん。」
当時のことを思い出しているんだろう。
アリアの顔はニコニコだった。
そういえば昔、一気に私の口座にお金が入ってきて戸惑ってたことがあったようななかったような。
「で?今回もそうなるかもって事?」
「ん~。オークションとかは無いでしょうけど、バサラベアの毛皮とかも頂きましたしそれなりの額にはなると思います~。いつも通り振り込んでおきますね~。」
「えぇ、よろしく。あ、面倒をかけて悪いんだけど、マルクの薬の売り上げ分はマルクの口座に入れてもらえるかしら。」
「はいはい~。でもマルクさんは口座お持ちなんです?」
「街でギルドに入るって言っていたからどこかしらで口座は作ってるはずよ。お願いできる?」
「もちろんです~。少しばかり話し込んじゃいましたね。わたしはそろそろお暇します~。」
「あら、そう?泊まっていけばいいのに。」
「むふふ。とーっても魅力的なお誘いですが、今回はお断りします。今仕入れたお薬類を西国にとんぼ返りしてばっちりと高値で売ってこなくてはいけないので~。」
またも見開いたアリアの目にはやる気の炎が見えた。
「もう。商売根性もいいけど、不当な値段はやめてよ?お金稼ぎのために薬を作ってないし、利益のためにあなたたちに売ってないんだから。」
「わかっていますとも~。あくまで常識の範囲内、ですよ。それではお姉様、またお会いしましょうね。」
「えぇ、今日は来てくれて嬉しかったわ。次はお仕事抜きだとなお嬉しいのだけど。」
「わかりました。その時はまたクッキー食べさせてくださいね~。」
かさばる食料品が減ったおかげで、多少中身の減った背負子を担いでアリアは颯爽と森の中へ消えていった。
女一人の旅なんて普通は危なっかしくて出来ないけれど、こと森の中においてエルフに勝てる種族なんてそうは居ない。
それにエルフ族で行商をしているものは基本的に何かしら戦闘技術が特化してる。
並みのコソドロが襲ってきても返り討ちにできる。
しっかりと見送ったときにはもう数時間で日も落ちるかといったところ。
特にすることもないし、どうしましょう。
小屋の周りを眺めながらぼーっとしていると狼たちが集まってきた。
『オルガ、子どもたちが遊んで欲しいといっている。大丈夫か。』
「そうね、せっかくだから森を散策といきましょうか。薬草も欲しいし。」
『わかった。感謝する。』
グランが遊べると伝えると子狼たちは大はしゃぎ。
待たせるわけにもいかないので、ぱぱっと装備を整えてまた外に出ると、子狼たちは一列に並んでお座りしていた。
きっと怒られたんでしょうね。
ふふ。可愛い。
「さて、みんな、いきましょう?」
お読みいただきありがとうございます。




