わき道ーその4①
どうも、もんたです。
第1章が終わりましたので、わき道のお話になります。
もう2、3回続きます。
オルガ視点
立派に成長した息子の姿が見えなくなるまで見送った。
正直、心配は尽きないが…あの子のことだきっとうまくやっていけるだろう。
無事に見送れたという安堵と、行ってしまった、という寂しい気持ちが私の胸のなかをかけめぐる。
「ふぅ…。」
おもわずため息が出てしまった。
こんな気持ちになったのはいったいいつぶりだろうか。
このわたしが寂しいと思うようになるなんて。
【トバ大森林】に点在する生まれ故郷の里からでてもう何年たったか。
里を出たのが確か80歳くらいの時だった。
それから一人で大森林を転々としていた時にたまたまドラコニア様に出会い、行動を共にして、そしてある事件がきっかけとなってドラコニア様と二人この辺りに腰を据えた。
学園に入学すれば歴史を学ぶ際にマルクも詳しく知ることになるだろう。
その事件に私やドラコニア様が関わっていると知ったら驚くかしら。
そうそう、年は100歳ちょっとまでは数えていたけど、そこから数えるのを止めたのだった。
理由は割と単純で、誰も気にしないから。
一人で暮らすのに年齢なんて関係ないし。
今はきっと120歳くらいかしら?
そういえば、人間の時間間隔なら結構長い間この小屋に住んでいると思う。
前フリオニール領主、つまりシャンドラのお父上が治めていた時代も知っている。
親子そろって優れた統治者だと感心する。
私が以前住んでいた街の領主はクズだったからなぁ。
とりとめもないことを考えながらずっと森を見ていたからだろう。
気づけばグランが足元で行儀良く座っていた。
グランの頭の上にはアドラーとイズマが乗っかっている。
「あら、グラン。それにアドラーにイズマまで。慰めてくれるのかしら。ふふ、嬉しいわ。」
『オルガ、寂しいのか?』
「そうねぇ。思っていたより寂しくて自分でもびっくりしてるわ。いつかこんな日がくるとは思っていたんだけれど、いざ来るとなると決意なんてままならないものね。」
『ふむ。同胞がいなくなるというのは寂しいものだ。わたしたちはそれを知っている。』
「・・・そうね。あなたたち家族はそうやって生き延びてきたんですもんね。」
しゃがみこんでグランを撫でながら話を続ける。
彼は気持ちよさそうに目を細めながら私の手に顔を擦り付けてくる。
その仕草はかわいいけれど、成人女性の太もも辺りまであるあなたのサイズは正直森の中で見かけたくないレベルよ。
こんなに大きい狼は奥地に行かないと普通は見れないもの。
わたしはマルクと違い、グランと従魔契約を交わしているおかげで狼たちと話すことが出来る。
詳細な会話が出来るのはグラン、シロ夫妻とグリムだけ。
新しく産まれた子どもたちとフェーレとは、会話は出来るものの断片的なやりとりになってしまう。
単語のやり取りばかりと言った感じかしら。
『グリムもとても寂しがっている。あいつはマルクととても仲がよかったから。』
「そうよね。ずっと一緒にいたもの。マルクが≪従魔術≫を使えれば何の問題もなかったんだけど。」
『何故マルクは使えなかった?』
「はっきりとした理由は分からないけれど、きっとあの指輪も原因のひとつじゃないかしら。魔物と対を為すと呼ばれる精霊。マルクはおそらく生まれつき精霊に好かれやすい体質だったんじゃないかしら。更にあの指輪のおかげで精霊と強く結びついた。従魔術も訓練すれば使えるようになるんでしょうけど、きっと精霊が邪魔するでしょうね。精霊たちは嫉妬深いから。」
『嫉妬深いとは失礼な。我はそんなことないぞ。』
背後から聞きなれた声が聞こえた。
「あら、あなたのほうから出てくるなんて珍しいわね?」
『気まぐれというものはいつでも珍しいものだ。だからこそ、気まぐれなのだから。』
「はぁ。相変わらず小難しい言い方をするのね。まぁいいわ。一人になって寂しいの。話し相手くらいにはなってちょうだい。」
『そのつもりで来たからな。我は構わん。森に一人残った乙女の涙を拭くくらいはしよう。』
ヴァルはにやっと笑いながら小屋へと歩き出す。
まぁ、間違ってはいないのだけれどすごくイラッとするわね。
「そうね。日ごろ森の管理でお疲れのあなたにはその辺の薬草から煮出した効能たっぷりのお茶をだしてあげるわ。」
『む!?ま、待て、オルガよ。まさかとは思うがお主、あの薬草から茶を作ろうとしてはおるまいな!』
「さぁて何のことかしら。森の管理を任された紳士であるあなたが、まさか森に一人取り残された可愛い乙女の淹れたお茶を断るなんてしないわよね~?」
反撃とばかりに言い返せば、ヴァルはさっきまでの余裕の表情からいっぺん、青い顔を向けてきた。
「さて、グラン。みんなを小屋の前に集めて。あまりもので悪いけれどクッキーを食べてちょうだい。」
『わかった。』
グランが一吼えしたのち森の中に消えていくのを見送って、わたしも小屋に戻る。
後ろからぎゃあぎゃあと紳士が騒いでいるが気にしない。
騒ぎ声がうるさかったのか小屋の屋根にいた小鳥たちがいっせいに飛び立った。
ふと、その姿を目で追う。
見上げた空はすっきりと青く、やさしい陽の光がわたしたちを照らしていた。
『――む?どうしたのだ、オルガよ。』
「・・・いいえ。いい天気だな、と思って。」
『で、あるな。森の木々も喜んでおる。そして。』
「そして?」
『良き旅立ちの日でもあるな。』
まるで陽の光のようなやさしい微笑み。
「ふふ。そうね。その通りだわ。」
私の返事に満足したのか、ヴァルはさっさと小屋に入ってしまった。
もう一度、マルクたちが向かっていたほうへ目を向ける。
今声を出せば、なんとなくだけれど伝わる気がした。
私が腹を痛めて産んだ子ではない。
勿論血がつながってるわけではない。
そもそも種族すら違う。
それでも。
10年間一緒に暮らしてきて、1から10まで世話をして。
怒ったり、泣いたり、笑ったり。
きっと私の親もこんな気持ちだったのかと思うことが出来た。
そんないろんな気持ちを教えてくれたあの子に。
もう一度しっかりと伝えなくては。
「・・・いってらっしゃい。愛しい私の子。」
私の声を運んでいくように、ひゅうと風が吹いた。
お読みいただきありがとうございます。
少々短いですが、次回もオルガ視点の話になります。
明日投稿予定となっていますので、お楽しみに。




