第32章『旅立ち』
どうも、もんたです。
「ふぅ…これでよしっと。」
みんな寝静まり、外からはレオさんたちの焚き木のはじける音がたまに聞こえてくる。
ベッドの脇ではいつものようにグリムがぐっすりと寝ている。
明日朝起きれば出発。
ずっと暮らしてきたこの小屋を出て、街で一人で暮らすことになる。
シャンドラさんの言い方だと、お屋敷に泊めてもらえるみたいだから大丈夫なのかな。
改めて荷物の確認をして、準備万端、寝ようと思ったらドアを叩く音が聞こえた。
シャンドラさんなわけないし、かあさんかな?
――コンコン
「はい。」
「マルク、起きてる?」
「かあさん?うん。最後の荷物確認をしてたところ。ちょうど終わったんだ。どうしたの?」
「そう。たいしたことないんだけどね。」
うつむきがちに僕の隣にすわるかあさん。
「ふぅ…」
「ん?どうしたの?」
かあさんは、一度深呼吸して話し始めた。
「……あなたと一緒に暮らしてもう10年も経ったのか、と思ってね。ドラコニア様からどこまで聞いてるかわからないけど、私はこの小屋にずっと長い間住んでた。ずっと、一人で。
…あぁ、もちろん、ドラコニア様や行商人、それからたまに街にも行くから全くの一人というわけではなかったわよ?」
「……それでも、やっぱり一人は独りだった。これまであんまり寂しいと思ったことはなかったけれど…今は寂しいと思ってるみたい。」
「かあさん…」
かあさんは膝にのせた手を握り締めた。
「ふふふ。柄にもないかしら。マルク、あなたと過ごした今日までの日々はとっても素晴らしかった。……私は、里を出たときに女として生きることを諦めていた。恋なんてしないと思ったし、もちろん結婚も、子どもも一生持つことはないと思っていた。家族、なんて私には無縁のものだと思っていたから。だからマルクを見つけたとき、自分でもすごく不思議だった。」
かあさんは手を緩めてふっと笑う。
「あなたを見つけたとき、何故か『私が育てなくてはいけない』とおもったわ。なんでかは今でもわからない。前にドラコニア様に尋ねたことがあったの。でも、『運命なんてそんなもんじゃ。』て笑われただけだった。きっとわたしも一人の女として生きてみたいなんて心のどこかで思っていたのかもしれないわね。」
「……」
「正直、すごく不安だったの。さっきも言った通り、子育てなんてしたことないもの。里にいたときに子どもと触れ合うことはあったし、人間の街にいたこともあるから人間のこどもとも触れ合ったことはあった。でもただお話しするのと教育して、躾をするのでは全く違うし…アドバイスをもらえるような相手もいないしね。毎日毎日ベッドにこれでいいのかなんて考えていた。
…いいえ、今でも思ってるわね。これまでマルクに話してきたことは正しかったのか、本当は街に預けて人間に育ててもらったほうがよかったんじゃないか、なんて。」
「そんなこと…!!」
「ふふふ、落ち着いて、マルク。そんな風に思ってもいるのは事実だけど、一方で自慢でもあるわ。わたしが持っている調合の技術をマルクはしっかりと身に着けてくれた。そして、シャンドラ様のような貴族でも認めてくれるような薬師になってくれた。これは他のだれでもない、私じゃないと出来ないこと。少なくとも人間たちには絶対にできないわ。それに薬の調合だけじゃない。森に入って薬草採取も狩りもできる。調合も野営も家のこともマルクはできるけれど、マルクと同じ年齢の子たちにはきっと無理よ。魔法も戦いの技術もその辺の子どもたちよりも絶対上。貴族で無駄にお金ばっかりかけた子どもたちよりも、ね。学園に行ってもマルクは優等生よ。周りの嫉妬が目に浮かぶわね。ふふふ。」
さっきまでの寂し気な表情から一気に悪い顔になったな。
じいちゃんもかあさんも貴族の話になると雰囲気が変わる。
いろいろ溜まってるんだろうな。
かあさんは僕の頭を優しく撫でながら話を続ける。
「マルク、あなたはすごい子よ。これは私だけじゃなく、きっとドラコニア様も保証してくださるわ。その代わり、きっと嫉妬や妬みの目で見られることがあると思うの。でもいい?決して気にしてはだめよ。」
「うん。」
「あなたの力はあなたの努力の賜物。相手の子も同じだけの時間を過ごしてきたけれど今の差はマルクと相手の子が頑張ってきた時間の差。努力した人を努力していない人が馬鹿にすることのほうが馬鹿げてるもの。」
「うん。」
「マルクなら大丈夫だと思ってるわ。ドラコニア様に言われてるかもしれないけれど、どれだけあなたが優れていて、相手が劣っていても決して、
「「驕ってはいけない。」」
「でしょ?」
「…ええ。わかっているならいいわ。」
かあさんはすっと立ち上がった。
「少し話し込んじゃったわね。明日は朝食の後すぐ出るとおっしゃっていたから早く寝ちゃいなさい。」
「わかった。おやすみ、かあさん。」
「はい、おやすみ。マルク。」
かあさんが扉に手をかけてピタリと止まる。
「…ねぇ、マルク。」
「ん?なに?かあさん。」
ふぅ、と息を吐く音が聞こえる。
「私は……良い母親だったかしら。」
「うん。」
即答だった。
あたりまえじゃん。
「そう……。そっか……。」
そのままかあさんは部屋を出て行った。
なんとなく肩が震えていた気がする。
*******************
*******
「マルク君、準備は良いかな?」
「はい。忘れ物もないです。」
「それならオッケーかな。まぁ、二度とオルガさんの小屋に帰ってこれないわけではないし、大丈夫だよ。レオルド、そっちは準備いいかな?」
「はい。いつでも出発できます。」
「ありがとう。それじゃあ出発と行こうか。オルガさん、大事なお子さんをお預かりするね。」
「はい。厳しく躾ていただければと。よろしくお願いいたします。」
そう言って頭を下げるかあさん。
厳しくって…
「ははは、承ったよ。よし!みんな出発だ!」
みんなが各々の荷物を持って歩き始める。
僕もみんなと一緒に街へ行くんだ。
かあさんと育った小屋を離れて初めての…
「マルク。」
かあさんの声にふり返る。
かあさんの表情はなんて表現したらいいんだろう。
「いってらっしゃい。気を付けてね。」
「…うん。行ってきます!」
僕の生まれて初めての街での暮らしが始まる。
お読みいただきありがとうございます。
これにて第1章を完、とさせていただきます。
評価ポイントを押していただいた方、ありがとうございます。
Twitterにて感想を送っていただいた方や通知をRTしてくださる方、ありがとうございます。
みなさんのおかげでここまで続けることが出来ました。
次はいくつか閑話を挟んで、第2章と行きたいと思います。
話も一息、というところですので少し更新まで間が空くかもしれませんが、ご容赦ください。
それでは、今後もよろしくお願いいたします。
もんた。




