わきみち―その3
どうも、もんたです。
今週末は更新ができないかもしれません。
お待たせしてしまい恐縮ですが、気長にコーヒーでも飲みながらお待ちいただければ幸いです。
それでは、どうぞ。
*****視点
――チュンチュン…
青々と生い茂った木々の葉の間から、ふんわりとした木漏れ日が湖を照らしている。
波ひとつたっていない湖は鏡面のように光を反射し、辺り一帯は深い森の中とは思えないような明るさで幻想的な雰囲気をかもし出している。
湖のふちでは羽休めをしている小鳥たちや小さな生き物たちがのんびりとすごしている。
水中に目をむけると、小魚たちが悠々と泳ぎまわり、水草は湖底から滾々と湧き出てくる地下水に揺られてぽこぽこと気泡を生み出している。
そんな穏やかな空間。
ここは【トバ大森林】の一角にあるとある湖。
魔物がはびこる大森林の中でこれほどまでに静謐な空間は稀である。
『ふぁ・・・』
どこからか眠そうな声が聞こえてくる。
すでに陽は高くのぼり、周囲のいきものたちも活発に動いている時間ではあるのだが。
『ん、ん~~。よく寝ました・・・』
ゆっくりと、水中に水のかたまりができていく。
そのかたまりは人の形をとったかと思うと、湖底にうつぶせにねころがった。
『ん?あ、おはよう、おさかなさんたち。
・・・え?もうお昼だよって?知っていますよ。
でもすることないんですもん。あ、夜のうちに何か変わったこととかありましたか?』
幼い少女をかたちどった水のかたまりは周囲に集まってきた湖のさかなたちとはなし始める。
時に眠そうな顔をしながら、時に真剣に話をし聞いていく様子はまるで魚にたちに愛された女神のようで。
木々の間から差し込んでくる光の柱はさらに雰囲気を高めている。
ただし、その少女が寝転がっていなければ。
『ふむふむ・・・ちょこちょこと気になることはありましたが、おおむね問題なさそうですね。今日も一日、いえ、半日のんびりと過ごしましょうかね。』
寝返りをうって仰向けとなった少女は湖面のほうへと視界を向ける。
少女は湖を管理する水の精霊。
湖を含めた周囲一帯の環境を管理することが彼女の仕事である。
とはいえ、この湖は大森林の中でも比較的に奥地にあり、人間がやってくることはほとんどない。
魔物は大小問わずやってくるものの、この湖の近くで争うことはない。
というのも、ぐーたらな少女が自分の仕事を減らすために少々高難度の魔法を使用しているからだった。
湖を囲うちょっとした範囲に魔物を沈静化させる空間を生み出しており、どんなにあらぶっている魔物でも、その境界面から湖に辿り着くころには冷静になり元に戻っている。
彼女の目論見通り、暇を享受することができているというわけである。
『む・・・なにやら悪口を言われたような気がしますが・・・』
やたらと勘がいい。
『まぁ気のせいでしょう。私のことを知っている存在なんて・・・ほとんどいませんしねぇ。』
先ほどまでの明るい表情にほんの少し影がおちる。
彼女がこの湖の管理をするようになってからもう数百年が経とうとしていた。
それまで彼女はとある人間と契約しており、その人間が暮らしている街で時間を共有していたのだった。
その人間は旅好きで、熱心な研究者でもあった。
生来飽きっぽい性格である彼女からすれば、常に新しい場所、新しい知識を追い求める彼は理想の存在であり、良き契約者であり良き友であった。
その人間はとある事件をきっかけにして、持っていた財産の全てを知人や施設へと譲り渡して国を発ち、この湖の付近へとやってきたのだった。
魔物たちに影響を与えぬようにと離れた場所に小屋を建て、日がな一日湖で少女と話すことが日課になった。
人間である彼は魔物と会話できる特殊な力を備えており、沈静化でおとなしくなった魔物たちとおしゃべりをするのも気に入っていた。
得てして長話は話のネタも尽きるものではあるが、彼らにその悩みはなかった。
旅の途中で契約を交わした彼女は、彼が自分と出会う前のことを聞くことがとても楽しく、また彼もそういった昔話をすることは嫌いではなかった。
彼の人生はすでに何往復もしているが、どちらも飽きずに話を続けていく。
時折やってきた大型の魔物も話にくわわってきては月が湖を照らし始めるまで話し込むのであった。
とある日を境に、彼の話に登場人物がもう一人加わった。
何でも、以前一緒に旅をしていたエルフ族の女がこどもを拾ったとかでその世話をしているらしい。
彼は子育てにはほとんどかかわっておらず、時たま様子を見に行く程度らしかった。
会いに行っている頻度はそこまで高くないものの、会うたびぐんぐん成長している様子を楽しそうに語る彼の表情をみて、彼女はなんとも言い切れない気持ちを感じることがあった。
――なんでしょうね。このもやっとした感じは。
当然、彼と旅をしていたときや街で暮らしていたときに人間や亜人のこどもは数え切れないほど見てきた。
街にいたときは時折近所のこどもの子守をするほどにはこどものことも好きであった。
無論、彼のこどもがほしいと思ったことがないわけではない。
しかし、彼は「俺はこどもを作る気はないんだ。」と彼女の誘いをことごとく断り続けた。
研究者としてもそれなりに名をはせていた彼には求婚を求める女性も少なくはなかったが、どんなに位の高い貴族であっても、見た目麗しい町娘であっても彼は頑なに首を縦に振らなかった。
理由を聞いてもはぐらかされるばかりで、答えを知ることはいまだにできずにいた。
――まだ、こどもを産み育ててみたいという思いが捨てきれないのでしょうか。
――契約も切れてなんの力もないというのに…
いつものように湖底に寝そべっていた彼女は物憂げに腕を伸ばした。
かざした手のひらの先には木々の隙間から光を届ける丸い月がのぞいていた。
―――――――――
―――――――
それからさらに数年が経った。
人間であれば細かい月日を確認するだろうが、年中湖の中か、派生する川付近にしかいない彼女にとっては月日などまったく意味するものはない。
木々の色づきや風の様子、水中の魚の変化から多少なりとも季節を感じることはできるものの、精霊や妖精にたちにとって日の区切りとはあってないようなものである。
この数年も彼はちょくちょく湖へと遊びに来てはおしゃべりをして帰っていく。
最近はもっぱら例のこどもの話で、やれ難しい本を読んでいるだ、やれ魔法が得意みたいだと満足そうである。
話によれば精霊との交信もできているらしい。
そのことをきいた彼女はすぐに下位精霊を召還して、機会があればその子どもに接触し、話をしてくるように命令した。
結果はすぐにあらわれた。
どうやらその子どもは水汲みに下流のほうにある川へ毎日のようにきているらしく、暇なときにはアプサスを召還しおしゃべりをしているらしい。
――ふむ…
――アプサスとおしゃべりできるのかしら?あの子たちって話せなかったはずだけど。
詳しく聞けばどうやら意思を交わせるわけではないらしい。
こどもが一方的に話しているのを聞いていると。
ただ、見た目や性格といった特徴をつかむことはできない。
アプサスを含め下位精霊ではそこまでの見極めができないのである。
――私が憑依してしまえばいいのですが…
――おそらく彼の魔力量だと暴走してしまうでしょうから無理ですね
ある日、彼がまたふらっとやってきた。
出会ったときは力の満ち満ちた成年であった彼ももうすでに老人のそれである。
ただ、身体に宿している力のせいでもっと長い年月を生きていることはそう知られていない。
人前では話し方も老人風に変えてはいるものの、彼女と話すときは出会った頃のような砕けた話し方で話すことが常だった。
「なぁ、****。また人と契約するつもりはないか?」
『なんです?唐突に。』
「いいからいいから。な、どうなんだよ。」
『そうですねぇ。
この湖での生活も飽きてきてますし、念のためといろいろ教えていた子たちも管理者は務まるくらいには育っていますからタイミング的には問題ありませんけど・・・一体誰と?』
「おっ!前からはなしてるマルクって子さ。いい子だし気に入ると思うんだよ。
****もいつまでもこんなとこにいたって暇でしょうがないだろ?どうだ?」
『例の子ですか・・・まぁ、話だけではありますが、良い子なことは間違いなさそうですし、あなたの紹介でもありますから・・・いいですよ。だめな子だったら契約はすぐにきりますからね。』
「よっしゃ!****ならそう言ってくれると思ってた!ありがとうな!」
そういうと彼は勢いよく立ち上がり、来た道をかけ戻っていった。
『ちょ、ちょっと!
・・・もう。もう少し話し相手になってよ・・・』
彼女は彼の消えていった方角を見つめた後、静かに湖の中へと戻っていった。
このあとの少年との出会いが、彼女を大きく変えることになるとはこの時はだれも知らない。
お読みいただきありがとうございます。
さて、今回の登場人物、だれとはいわないZE(^_-)-☆
皆さまの想像力、妄想力にお任せいたします。笑




