第25節『名前受け』
どうも、もんたです。
お待たせしました。
それではどうぞ。
「もう!からかわないでくださいお父様にセバス!!」
二人からの冷やかしを聞かないふりして流しつつ、片づけを終える。
箱に詰めた薬を手に調合室を出て階段を下ると、いつもよりギルド内に人が多いみたいに見える。
何かあったのかな。
「イダさん、お待たせしました。薬納品しますね。」
「あ、あぁ。ありがとう。あ、君。この薬を鑑定しておいてくれるかな。うん、最優先ね。…ところでマルク君。」
イダさんは近くにいたスタッフに薬を預けると、カウンターから身を乗り出して、手ぶりで近づくように言う。
「なんですか?」
「君…領主様の身内なの?」
「え?いえ、身内ではないですよ。」
「で、でも、ソラリアお嬢様は婚約者なんだろう?」
「あぁ、そうですね。となると身内ってことになるんですかね…」
「相変わらずその辺には疎いんだな君は…。それに薬神様が育ての親とはね。そりゃ調合の腕前もすごいわけだよ。…今更なんだけどやっぱり敬語使った方がいい?」
「いえいえ、僕が偉いわけじゃないですし。かあさんだって普段は小屋から出てきませんしね。」
「薬神様が簡単に街中に出てきたら大騒ぎになるよ…。まぁこれまで通りでやらせてもらおう。かたっくるしいのは僕も面倒だし。」
「はい、お願いします。それで、なんでこんなに人が?見た感じ商人のようですけど。」
イダさんは面倒くさいと言わんばかりに深いため息をついた。
「正解だよ。皆君が来て薬を作ってると聞いて駆け込んできた商人やその使いさ。これまでは多少腕の良い薬師の作った薬、として卸していたんだけど…この前のパーティーで君のアレコレが発表されただろう?商人たちはその話を懇意な貴族からでも聞いて君お手製の薬を仕入れるように頼まれたんじゃないかな。」
「わざわざですか…?」
「薬神様の弟子の作った薬だもの。効果が良いとわかってるわけだし。家に置いておけば財力と耳の速さとと自慢できるわけだ。…おっとこれは周りの人らには内緒だよ。」
「そんなものなんですかね。材料さえあればいくらでも作れるしそのうち行き渡ると思うんですけど。」
「いかに早く仕入れるか、手に入れるか、というのが大切なんですよ。」
「アイナ?」
「ん?その通りだけど…この子は?」
「えっと、アイナと言います。僕の…その、婚約者です。」
「え?」
「初めまして、イダ様。薬師ギルドトーカ支部をまとめる敏腕副支部長としてのお噂はかねがね伺っております。私、デーザン商会会長モロゾの娘、リュカ・アイナと申します。未熟者ですがこちらのマルク様の第二夫人として、今は婚約者としてお側に置いていただいています。」
「は、はぁ…どうも。…マルク君、ずいぶん出世だね?」
「い、いやぁ…僕も予想外というか…なんか怒ってます?」
「ま、まさか。」
「それで、先ほどのお話の続きですが、貴族様たちにとって話題のもの、流行りの品を他の家よりも早く手に入れることが出来るというのは権力や財力を表す一つの象徴になるのです。こぞって欲しがるので値段も上がります。他の貴族――主に自分よりも爵位の高い貴族ですけど――からの圧も相当です。」
「うわぁ…話を聞くだけで面倒くさそうだね。」
「とっても面倒だとは思いますが…。まだまだ貴族になったばかりの新参者ですからそういったゴタゴタに巻き込まれるのはもっと後だと思います。…多分。」
「その多分っていうの怖いな。」
結局、僕の納品した回復薬と強壮薬それぞれ20本ずつは早速オークション形式で商人たちに売られることになったらしい。
念のためあんまりお金が上がるようなら売らないでほしいって話してはきた。
これはかあさんが街から帰るときにボソッと言ってきたから。
「薬は人に使われてこそ。困っている人に差し伸べるものであるべきよ。分かっているとは思うけどお金稼ぎは二の次にすること。あ、マルク自身が困っているときは別でいいわ。」
小屋にいるときも言われていたし、今だってきちんと覚えている。
イダさんは高く売れて嬉しいだろうにと呟いてたけど、僕は商人でもないしお金に困っているわけでもない。
…いや貴族になるからいまの貯金じゃ足りなくなるか?
「マルク君、これからどうするか決めているかな?」
「い、いえ、特に何も。これから森に行くにしても帰ってくるのが遅くなるかもしれませんし…」
「僕とセバスは屋敷で仕事しないといけないんだ。ソラリアは暇だろうから一緒に街歩きでも食事でも好きにしてくれ。アイナ嬢はどうだろう?」
「暇ってひどいです!!」
「私も特に何かしないといけないことはありません。課題もほとんど終わっていますしお父様からは好きにしなさいと言われています。お二人がどうされるかに合わせます。」
「あー…それなら鍛冶屋に行こうかな。」
「鍛冶屋?武器でも依頼するのかい?」
「いえ、同級生のバックスがいる【クァンテの金槌】に行こうかと思います。このダガーの手入れをお願いしようかなって。」
ダガーを抜いて見せるとセバスさんとシャンドラさんが一瞬目を見開いた。
「マルク、これはどこで手に入れたのですか?」
「え?かあさんから貰いました。初めて森に出たときなので…7歳か8歳くらいの時に受け取ってずっと使っています。」
「そうですか…。一度きちんと職人に手入れをしてもらった方がよいでしょうね。ところどころ疲れているようですから。」
「はい。」
「にしても…」
四人からなんとも言えない目線が突き刺さる。
「な、なんでしょう…」
「デートコースとして鍛冶屋を選ぶのは何とも言えないな。」
「旦那様、ここははっきりと失格というべきです。」
「せめてお買い物とかにしてほしかったわ。…マルクらしくて良いけれど。」
「そうですね。これからに期待しましょう!」
どうやらダメダメだったらしい。
お読みいただきありがとうございます。
コロナ、また増えてきたなぁという印象です。
実際の数値もそこそこですし、今年いっぱい油断できませんね…
にしてもあっという間に八月。
時間が経つのも年々早くなっているなぁと…(アラサーが近くなってきた)




