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お前は、その意味を考えたことがないだろう―奇跡論者の現実改変記  作者: Hyman Godley
ニュージーランドで高校生編

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14/27

初登校!女子会?

高校編を読む前に

第十四話以降の舞台となるニュージーランドの学校制度は、日本の高校制度とは完全には対応していません。

ニュージーランドの学校年度は、一月末から二月初め頃に始まり、十二月に終わる四学期制です。中等教育はYear 9からYear 13まであり、日本でいう高校生に近い上級学年では、主にNCEAという全国資格のLevel 1からLevel 3を、科目ごとの単位を積み上げながら取得します。

かるた君のいるワカティプ高校はYear9からYear13が行く、クイーンズタウン唯一の中等教育施設です。

一般にはYear 11からYear 13が高校1年から3年に対応しますが、学年と資格は必ずしも一対一ではなく、取得の時期やその後の進路も生徒によって異なります。Year 13まで在籍するほか、職業教育や高等教育へ早く移る生徒もいます。

本作の学校制度は主として二〇一八年前後のニュージーランドを参照していますが、現実の特定年度や出来事を完全に再現するものではありません。制度や土地固有の文化については、英語を母語としないかるた君が現地で経験し、少しずつ理解していく範囲に沿って描写します。


Term 2、二学期の初日。

制服を着るのに、いつもより時間がかかった。

ネクタイがうまく締まらない。

学校の写真では、全員、同じ形をしていた。

本当に自分で結んでいるのだろうか。

そう疑いながら、四回ほどやりなおして諦めた。


外へ出ると、家の前に生徒が集まっていた。

Year 9、日本でいう中学二年ほどの、小柄な生徒。

自分と同じくらいの者。

明らかに年上の者。

同じバス停に、違う学年の生徒が立っている。

ホストマザーが玄関から声をかけた。


「Have a good day!」


かるたは手を上げた。

バスが来る気配はなかった。

生徒たちは、それぞれスマートフォンを見たり、話したりしている。

誰へ話しかければよいのか分からなかった。

急に怖くなった。

学校へ着いても、英語が分からないかもしれない。

教室を間違える。

名前を呼ばれても気づかない。

誰とも話せない。

帰りのバスを間違える。

少し待って。

やっぱり、怖いな。

そう思った。

玄関の前には、まだホストマザーがいた。

かるたの顔を見て、何かに気づいたらしい。

こちらへ近づき、そのまま抱きしめた。


「Karuta, you’ll be fine」


マザーは、かるたの肩をつかみ、屈託のない笑顔を見せた。


「Everyone feels strange on the first day」


あなたなら大丈夫。

初日は、誰でも変な感じがする。

母も、似たようなことを言っただろう。

あんたならできるやろ。

けれど、違った。

母の言葉は、背中へ手を当て、立ち止まっている身体を前へ押す。

できるのだから行け。

ここまで準備したのだからやれ。

ホストマザーの言葉には、その続きがなかった。

失敗しないと思われているのではない。

失敗しても、初日とはそういうものだと思われている。

前へ押されなかった。

だから、自分で一歩進めた。


「Thanks」


かるたは答えた。

しばらくすると、スクールバスが来た。

黄色くなかった。

普通の路線バスを少し改造したような形だった。

車体は白。

緑と橙色の単純な塗装。

運転席と生徒の座席の間には仕切りがあり、その一部には厚いクッションが付いている。

人がぶつかることを前提にしたような構造だった。

見たことがない。

ただただ、不思議だった。

前の生徒が、運転手へ言った。


「Morning」


かるたも真似した。


「Morning」


運転手も返した。

それだけで、最初の課題を一つ終えた気がした。

バスはしばらくLake Hayes Estateを回り、住宅地の各所から生徒を拾った。

次にShotover Countryへ入り、さらに人数が増えた。

通路まで埋まった。

立っている生徒もいた。


香水。

洗剤。

甘い菓子。

汗。


それらを無理やり塗り潰すような、強い制汗剤。

日本では嗅いだことのない匂いが、暖房の効いた車内へ充満していた。

近くに立ったラグビーでもしてそうな男子の胸元から、柑橘とも薬品ともつかない匂いがした。

身体が、場違いな方向へ反応しかけた。

やめてくれ。

初日の朝から、何をしている。

かるたは鞄を膝へ置き、姿勢を変えた。

バスが橋を渡り、Frankton地区へ入った。

道路脇に、何かが落ちていた。

潰れた毛玉へ、ケチャップを一緒に撒いたようなものだった。

一つではない。

少し先にもあった。


――あれは何だ。


誰かに訊いてみたかったが、勇気が出なかった。

学校へ着くと、さらに分からないものが増えた。


化粧の濃い生徒。

腕へタトゥーが入った生徒。

髪を青く染めた、Year 10ほどの生徒。

制服は地味なのに、耳へいくつもピアスを付けた生徒。


日本なら、それぞれが目立つ理由になる。

ここでは、一人の外見の一部でしかなかった。

地味そうな男子が、普通に鼻へピアスを付けている。


かるたは思った。


この世界の陰キャとは、何なのだろう。

見た目で判別できないなら、何を基準にすればよいのか。

そもそも、判別する必要がないのかもしれない。


なるほど。

もう、楽しい。


校舎へ入る。

教室という概念も、日本とは違った。

壁で完全に閉じられた部屋だけではない。

広い空間を家具や仕切りで分け、複数の授業が同じ場所の別の範囲で行われる。


ガラス。

低い棚。

移動できる机。


向こう側で、別の教師が話しているのが見える。

開けた中庭には、バスケットコート。

卓球台。

座れるのか、作品なのか分からない形のオブジェ。

大きな屋根の下に置かれたベンチ。


学校というより、大学とショッピングモールと公共施設を混ぜたようだった。


――何だ、この世界。すげえ。


学期初日のため、全校生徒が中庭へ集められた。

日本のように、学年ごとに線へ合わせて並ばない。


座る者。

立つ者。

壁へ寄りかかる者。


三割ほどはスマートフォンを見ていた。

前方では男子が喋り続け、別の場所では女子が髪を結び直している。

Year 9とYear 13らしい生徒が、普通に同じ輪の中で話していた。

先輩だから敬語を使う。

後輩だから場所を譲る。

そうした見えない線が、薄かった。

友達だから喋る。

それだけで成立しているように見えた。

校長らしい人物が前へ出た。

生徒たちは完全には静かにならなかった。

校長も、完全に静かになるまで待たなかった。

マイクを持った。


「Kia ora koutou katoa」


マオリ語の挨拶。

続いて英語で、簡単な歓迎と今学期の予定が話された。

話は短かった。

格式張った訓示もない。

全員で礼をすることもない。

校歌もなかった。

終わると、生徒たちはすぐに動き始めた。

かるたは、どこへ行けばよいのか分からなかった。

事前に、Mackenzie Houseだと説明されていた。

橙色の場所へ行け。

それだけは覚えていた。

建物のところどころに、違う色が使われている。


青。

黒。

赤。

緑。

橙。


少しの間、棒立ちした。


――ハリー・ポッターみたいなやつか。


ようやく理解した。


けれど、Mackenzieがどこなのかは分からない。

近くにいた大人らしい人物へ声をかけた。


「Excuse me」


相手が振り返った。


「Where is……Mackenzie?」


発音が合っているか分からなかった。


「Oh yeah, Mackenzie? This way」


普通に案内してくれた。

玄関から見て左側。

階段を上がった二階。

壁や柱の一部へ、橙色が使われている。

本当に色で分けられていた。

かるたは、遅れて少し笑いそうになった。

選別帽子はなかった。

代わりに、名簿と学生番号があった。


説明を聞くうち、さらに勘違いへ気づいた。

Deanという名前の先生がいるのだと思っていた。

そうではなかった。

Deanは役職だった。

Mackenzie Houseを担当するHouse Deanがいる。

さらに、Year 9からYear 13までが混ざった小さなAkoグループがあり、それぞれを担当する教師がいる。

学年だけで分けない。

年齢の違う生徒を、一つの縦長の集団へ入れる。


かるたの頭は、既に限界に近かった。

日本では、一年何組かで人間の所属が決まる。

ここでは、学年。

科目。

House。

Akoグループ。

所属が何枚も重なっている。

一つの教室で失敗しても、学校の全部で失敗したことにはならないのかもしれない。

その考えだけは、すぐに理解できた。

最初の授業では、教師が名簿を読み上げた。

聞き慣れない名前が続いた。


中国系。

韓国系。

インド系。

英語圏の名前。

マオリ系らしい名前。


教師が、かるたの名前を呼んだ。

間違えたというより、自分が想像していたよりも格好いい発音だった。

最初の音が強く、最後が短い。

自分が呼ばれたと思えなかった。

もう一度呼ばれる。


「Karuta?」


かるたは顔を上げた。


「Here」


教師は名簿へ印を付けた。

訂正も、説明も求めなかった。

名簿には、最初からかるたの名前があった。


交換留学生。

Mackenzie House。

選択科目。

ホストファミリー。


誰の次席とも書かれていなかった。

誰の代わりに来たとも書かれていなかった。

世界は、最初からかるたがここへ来ることになっていたような顔をしている。

かるたは、もう一度、自分の席を見た。


空いていた椅子。

開かれた机。

学校から貸与された時間割。

そこへ座った。


小田のことは、しばらく考えないことにした。

考えなければ、今日だけは、自分の席だった。


▼▼▼


二つ目の授業が終わった。

周囲の生徒が一斉に立った。

教師は次の教室を指示しなかった。

誰も同じ方向へ向かわない。

かるたは時間割を開いた。

次の授業までは、四十分以上ある。

Lunchと書かれている。


昼休み。


分かった。

分かったが、どこで食べればよいのかは分からなかった。

中庭へ出ると、生徒が至るところへ散らばっていた。


ベンチ。

階段。

芝生。

バスケットコートの端。


Remarkables Parkの方へ歩いていく者もいる。

かるたは鞄を持ったまま、屋根の下で立ち止まった。


――マジかよ。こんなん、どうすればいいんだ。


日本語が通じない環境では、いつも以上に、心の中で突っ込む必要があった。

そうしなければ、自分の思考まで英語になり、分からなくなりそうだった。


どこへ座る。

一人で食べる。

誰かの近くに座る。

近くとは、どれくらい近くなのか。

空いている椅子へ座ってよいのか。

荷物が置いてあれば、誰かの席なのか。


かるたは、困った顔で周囲を見渡した。

背後から声をかけられた。


「Hey, you must be the new one that just came, right?」


かるたより頭一つ以上小さい、アジア系の少女が立っていた。

ゆー、ますと。

ニュー。

けいむ。

らいと。

単語が、正しい順番へ並ばなかった。

テストの穴埋めではない。

今すぐ返事をしなければならない。

かるたは、必死で助けを求める犬のような顔を作った。

少女は笑った。


「It’s okay. Come over here. Let’s eat with us」


身振りから、一緒に食べようという意味らしいことが分かった。

こういうときは、礼を言うべきなのか。

一秒ほど考え、知っている表現が先に出た。


「Oh my God, thank you! I was sooo lost!」


少女は少し驚いた顔をした。

後ろにいた別の女子も、こちらを見た。

何かを間違えたらしい。

文法か。

発音か。

それとも、感謝が大きすぎたのか。

かるたには分からなかった。

一応、にこにこしながらついていった。

屋根の下のテーブルに、女子生徒が五人座っていた。

声をかけてきた少女が指を向けながら紹介した。


「I’m Bea. That’s Ploy, Nicha, Jisoo, Lin and Hana」


六人いた。

既に覚えられない。

かるたは、とりあえず全員へ手を上げた。


「Hi」

「Hi」

「Hey」

「こんにちは」


最後の一人だけが、日本語で言った。

かるたは顔を向けた。

黒い髪を肩の辺りで切った女子だった。

化粧は薄く、制服の袖を肘までまくっている。


「日本人?」

「親がね。私はこっち生まれ」


日本語は自然だった。

発音も、日本にいる人間とほとんど変わらない。

しかし、言い方に遠慮がなかった。

かるたを安心させようとして日本語を使ったのではない。

使えるから使った。

それだけのようだった。

すると、唐突にハナはかるたを指さし、英語で言った。


「さっきの言い方、別に間違ってないけど」

“What you said wasn’t wrong or anything.”


「うん?」

“Yeah?”


「リアリティー番組に出てくる女子みたいだった」

“You sounded like a girl on a reality show.”


「え?」

“What?”


ビーが笑った。


「それな!」

"Exactly!"


ほかの女子も笑った。

かるたには、何がそこまで面白いのか分からなかった。

英語の勉強に使っていた映像を思い出す。


Love Island。

カーダシアン一家の切り抜き。

海外セレブが驚いている短い動画。


男性が普通に会話している場面より、感情を大きく表す女性の方が、言葉を聞き取りやすかった。


Oh my God。

Literally。

I’m obsessed。

So cute。


知っている英語から出しただけだった。

英語にも、男の言い方と女の言い方があるらしい。

そんな説明は、学校で習っていない。


「それ、変だった?」


かるたが日本語で訊くと、ハナは肩をすくめた。


「面白かっただけ。通じてたし、いいんじゃない」


いいらしい。

話しかけてきたビー(Bea)は、フィリピン系の家庭で育った現地生だった。

プローイ(Ploy)とニチャー(Nicha)はタイから来ていた。

ジソ(Jisoo)は韓国。

リン(Lin)は中国。

ハナは日本人の両親を持つニュージーランド人。

六人の輪へ入ってみると、全員が女子だった。

かるたは、少し嬉しかった。

同時に、虚しくもなった。

小学校でも、中学校でも、仲良くなる相手はなぜか女子が多かった。

自分が女のように振る舞っていた記憶はない。

大人しいというほどでもなかった。

ただ、男子同士の競争や、誰かを笑うことで輪へ入る方法が、あまり得意ではなかった。

それだけで、何度か別の名前を付けられた。


オカマ。

おとこおんな。

ホモ。


当時は、自分が男を好きになる可能性すら、言葉にできていなかった。

呼び名だけが、本人より先に何かを知っているようだった。

男子校へ入ったとき、ようやくその偶然から逃れたと思った。

海外の共学校へ来た初日。

最初に入った輪は、全員女子だった。

運命には、人へ説明する気がないらしい。


「Ploy said you were cute」


ビーが言った。

プローイがすぐに声を上げた。


「I said maybe! Maybe!」


テーブルが笑った。

プローイは、両手で顔を隠すふりをした。

爪には薄い水色のマニキュアが塗られていた。

からかわれているのは、かるたではなくプローイの方らしい。

少し安心した。

同時に、まったく嫌ではなかった。


「Thank you」


かるたが言うと、プローイはさらに顔を覆った。


「No! Don’t say thank you!」


ニチャーが笑いながらプローイの肩を叩いた。

ビーは、人が何を言えば会話が続くのかを、最初から知っているようだった。


「Where are you from in Japan?」


「えっと……」


県名を言っても分からないだろう。


「Near Osaka」


完全な嘘ではない。


「Oh, Osaka! Takoyaki!」


ニチャーが言った。


「本当は大阪じゃないけどな」とボソっというと、ハナが日本語で言った。


「大阪って言っとけばいいよ」


「そんなもんなの?」

かるたは日本語で言った。


「だって、細かいことなんてどうせわかんないよ、この人たち」


彼女は普通の調子で言い、リンから差し出された菓子を一つ取った。

かるたも鞄から昼食を出した。


小さな紙袋。

リンゴ。

ミューズリーバー。

クラッカー。

袋に入ったポテトチップス。

チョコレートビスケット。


冷蔵庫の物は好きに使ってよいと言われていた。

ホストマザーからは、サンドイッチを作ればよいとも言われた。

しかし、朝からパンへ何を挟み、どれくらい持っていけばよいのか考える余裕はなかった。

戸棚で目に入った物を、順番に袋へ入れた。

並べると、遠足へ行く小学生の荷物だった。


「待って」

“Wait.”


かるたは言った。


「こっちの昼飯って、これで普通なの?」

“Is this a normal lunch here?”


全員が紙袋を見た。

ビーがうなずいた。


「うん」

“Yeah.”


「本当に?」

“Really?”


「お菓子はちょっと多すぎるかも」

“Maybe too many snacks.”


ハナが言った。


「どうせ、サンドイッチかなんかでも作れって言われなかった?」

“Didn’t she tell you to make a sandwich or something?”


「言われた。でも、朝から自分で作ると思わなかった」

“She did. But I didn’t think I’d have to make it myself in the morning.”


「じゃあ、誰が作ると思ったの?」

“Then who did you think was going to make it?”


「家の人」

“My host family.”


「うん、それはないね」

“yea, that ain't happening here.”


ハナはクラッカーの袋を指で弾いた。

ジソが、初めて少し大きく笑った。

彼女はそれまで、誰かが話すたびに丁寧に相槌を打っていた。

静かに聞かれると、かるたは、自分が何か失礼なことを言ったのではないかと不安になる。

しかし、昼食の話になると急に表情が明るくなった。


「私のホストファザー、初日にミューズリーバーを一本だけくれた」

“My host father gave me one muesli bar on my first day.”


「一本だけ?」

“Just one bar?”


「一本」

“One.”


ジソは人差し指を立てた。


「それで、『足りる?』って訊かれた」

“He asked me, ‘Enough?’”


「うそだろ」

“No way.”


「だから、『はい』って答えた」

“I said yes.”


「何で!」

“Why!”


「失礼になりたくなかったから!」

“I was being polite!”


ジソは笑った。

東アジア人の謙遜と、留学初日の失敗が、同じ場所で衝突していた。

かるたは、初めて彼女へ緊張しなくなった。

ニチャーは、自分の容器を開けた。

中には米と炒め物が入っている。


「私のホストマザー、タイ人なんだ」

“My host mum is Thai.”


「じゃあ勝ちじゃん」

“Then you are all good .”


かるたは言った。内心少しうらやましかった。


「うん。私の勝ち」

“Yap, I'm so lucky.”


プローイはパンを見せた。


「私のはニュージーランドの昼ご飯。パン。パン。それから、もっとパン」

“Mine is New Zealand lunch. Bread. Bread. More bread.”


「ニュージーランドの昼飯、災害用バッグみたいじゃない?」

“Doesn’t a New Zealand lunch look like an emergency survival bag?”


かるたがそういうと全員が笑った。

話しているうちに、英語は少しずつ文章ではなくなった。


分かる単語。

表情。

誰が笑ったか。

指を差した物。


その組み合わせで、会話の意味が作られる。

文法を考えれば、口が止まる。

止まれば、話題が過ぎる。

だから、分かる言葉だけ出した。


「みんな留学生なの?」

“Are you all international students?”


ビーが自分を指した。


「違うよ。私はニュージーランド人」

“No. I’m Kiwi.”


「でも、両親はフィリピン人なんだよね?」

“But your parents are Filipino, right?”


「うん」

“Yeah.”


「じゃあ……留学生じゃないの?」

“So… you’re not international?”


「違うよ」

“No.”


かるたはハナを見た。


「ハナも?」

“You too, Hana?”


「私はニュージーランド人。親は日本人」

“I’m a Kiwi too. My parents are Japanese tho.”


「日本のパスポートは?」

“Do you have a Japanese passport?”


「あるけど。それで学校の科目は変わらないでしょ」

“I do. But that doesn’t change which classes I take, does it?”


確かにそうだった。

国籍。

生まれた場所。

親の出身。

家で使う言葉。

学校で使う言葉。


どれか一つだけで、人間の所属が決まるわけではないらしい。

日本では、日本人という欄へ一度丸を付ければ、ほとんどの説明が終わった。

ここでは、丸を付ける欄が何枚も重なっている。


「ESOLは取ってる?」

“Do you take ESOL?”


かるたが訊くと、ジソとリンが手を上げた。

リンは小さく笑った。


「私、英語……上手ない」

“My English… not good.”


発音は慎重だった。


「俺も」

“Mine too.”


かるたが言うと、リンは首を振った。


「喋るの速い」

“You talk fast.”


「意味分かって喋ってないから」

“I talk before I understand what I’m saying.”


ハナがリンのために訳すと、リンは声を出して笑った。

ビーはBiologyとStatisticsを取っていた。

ハナはScienceとMedia Studies。

ニチャーはChemistryを選び、既に後悔しているらしい。

プローイはTourismとOutdoor Educationを取っていた。


ESOLを取る者。

普通の授業だけを取る者。

留学生でも、現地生と同じ科目へ入る者。

同じ国の出身でも、学校の中でいる場所は違う。


中庭の反対側では、中国系らしい男子が一人でノートパソコンを開いていた。

その近くでは、別の中国系の女子が白人の生徒たちと話している。

リンのように、会話の意味を確認してから静かに笑う者もいる。

同じ中国人留学生という言葉の中に、まったく違う人間が何人も入っていた。

ジソが中庭の向こうを指した。

短い髪の女子が、男子二人とバスケットボールを投げ合っていた。


「彼女も韓国人だよ」

“She’s Korean too.”


「交換留学生?」

“An exchange student?”


「違う。こっちで生まれたの。ソフィーっていうの」

“No. She was born here. Her name’s Sophie.”


ソフィーはボールを奪い、男子の背中を押し、何かを叫んだ。


「私の英語は丁寧すぎるって、いつも言われる」

“She says my English is too polite.”

ジソが言った。

「ソフィーは、先生にも友達みたいに話すの」

“She talks to teachers like they’re her friends.”

「怒られないの?」

“Doesn’t she get in trouble?”

「ううん。先生も友達みたいに話すから」

“No. The teachers talk like friends too.”

かるたは、教師と生徒が廊下で笑いながら話していた場面を思い出した。


先生だから敬う。

年上だから控える。

移民だから英語が苦手。

留学生だから静か。

見た目が派手だから陽気。


どれも、完全には当てにならない。

今朝、この学校の陰キャをどう判別するのかと考えた。

たぶん、判別できないのではない。

判別したところで役に立たないのだ。


「あ、そうだ」

“Oh, right.”


かるたは、朝に見た物を思い出した。


「バスから、道路に変なのが見えた。毛玉とケチャップを混ぜたみたいなやつ」

“I saw something weird on the road from the bus. It looked like a ball of fur mixed with ketchup.”


一瞬、全員が考えこんだ。思いついたようにビーが訊いた。


「ポッサム?」

“A possum?”


「何それ?」

“What is that?”


するとハナが日本語で言った。


「ポッサム。車に轢かれたやつ」

“A possum. One that got hit by a car.”


「いっぱい落ちてたけど」

“There were loads of them.”


「いっぱいいるから、あとたぶんハリネズミも」

“Because there are loads of them. and probably hedgehogs too.”


「誰も片づけないの?」

“Doesn’t anyone clean them up?”


「そのうち鳥が食べる」

“The birds will eat them eventually.”


ハナは当然のことのように言った。

プローイが両手を広げた。


「ニュージーランドへようこそ」

“Welcome to New Zealand.”


*英語で「かるた」と発音すると、どんな感じに聞こえるか知りたい人は「Karutaclan」というストリーマーをYouTubeで検索してみましょう。結構かっこいいですよ。あと彼、普通にイケメンですよね。大好き♡

*あと英語でたまにセリフを先に考えていて、日本語と併記すべきか迷いますね。もしかしたら表現が変わってしまうかも、見やすいほうをおしえてください。


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