58.テコでも動かない
ポーションを召喚して、倒れている男性に振り掛ける。傷が少し塞がっただけで、まだ危険な状態のままであった。今度はハイポーションを召喚し、振りかけると、傷口はかなり塞がり、一命を取り留めることができたのだが、完全に治った訳ではない。
もう一本、ハイポーションを召喚して振りかけ、傷口が完全に塞がり、息も安定するが意識は戻らない。
この男性が誰なのか分からないが、このまま放置する訳にはいかない。そして、何が起きたのか分からないが、この場所に留まらない方が良いと判断し、栗山は男性を荷車から連れ出して車へと連れて行く。
キャンピングカーのベッドに寝かして意識が回復するのを待つことにした。
翌朝になると降り続いていた雨は上がったが、男性の意識が戻らないため栗山は気付薬を召喚して飲ませると、暫くしてから男性は目を覚ます。
「こ、ここは……」
「気が付いたんですね! 大丈夫ですか」
体を起き上がらせると、傷口を探すような仕草をした。自分は瀕死の重傷だったはずなのに、傷が塞がっているだけではなく、痕すら残っていない。
驚きの表情をみせる男性に栗山は声をかける。
「傷はポーションという薬で治しました、それよりも何があったんですか」
「あ、あぁ……」
ようやく落ち着きを取り戻したのか、男性は話はじめた。
男性の名はセイドルという名前で、この先にある町の商人らしく荷物の運搬中に、盗賊に襲われたらしい。
盗賊は荷物を奪っただけではなく、自分の娘も拐われたとのことで、頭を抱えていた。
「盗賊のいる場所は分かっているんですか?」
首を横に振るセイドル。栗山は袋の中から取り出すように、探し物探査機を召喚し、セイドルに大切な物をイメージしてもらい、スイッチを押してもらうと、探査機の矢印が動き出す。
「この方角に盗賊がいるはずです」
「な、何なんです? この変な道具は……」
驚くセイドルだが、栗山は答えることはなく問いかける。
「そんな事はどうでも良いでしょ、それよりもどうしますか? 助けに行くことは可能ですよ」
「し……しかし、私は戦うことができない」
項垂れるセイドルの肩に、栗山は手を置く。
「安心してください、俺たちは冒険者です。依頼をしてくれるのなら、助けに行きますよ」
「ほ、本当か!」
救いを求めるような目で栗山を見るセイドル。4人は仕方がないといった表情をしながら、武器のチェックを始める。
探索機が示した方角に車を走らせるのだが、初めて見る乗り物に興奮を隠せないセイドル。運転する栗山に、乗り物について質問をしてくるが、栗山はシカトしながら車走らせるのだった。
小一時間ほどで探索機が示した場所に辿り着き、車から降りて双眼鏡で敵の数を調べる。
盗賊は洞窟の中に巣食っているようで、中にどれだけ居るのか分からないが、入り口付近には4人の見張り役が居た。
4人はサプレッサーを取り付けたスナイパーライフルを構えて狙いを定める。セイドルからしてみたら、何をしているのか分からない。
「一撃で仕留めるよ」
カミュが3人に言う。
「分かってる」
「当たり前でしょ」
「命令しないで」
などと、各々返事をして狙撃をしたのだった。
入口は無力化したので、次は洞窟のなかである。どれだけ盗賊が居るのか分からないため、慎重に進んでいく必要がある。音を立てないようにしながら洞窟へ近付き、洞窟の入り口までやってくる。
セイドルには危険だから離れた場所で待っててもらい、栗山は銃を構えながらゆっくりと歩を進め洞窟の中に入っていく。
洞窟はかなり広く、どこまで奥に続いているのか分からないが、幾度となく現れる盗賊を射殺しながら、ゆっくりと先へ進んで行き、一つの扉の前に到着する。
扉は鉄でできた頑丈そうな物で、この様な物を何処から仕入れてきたのか聞きたくなる。栗山は扉を開けようとして、ノブを回してみる。
「あれ? 鍵が閉まってやがる……」
「だけど、この先に何人か居るのは間違いないよ」
銃を構えながらカミュが言う。
「鍵を持っていた奴が居たかも知れないが、戻っている暇も無いか……」
そう呟き、栗山は袋の中から取り出すかのように鍵を召喚し、鍵穴に差し込んで回す。すると、扉が開いた。
「なんでチアキさんが、その扉の鍵を持ってんの?」
驚きながらカミュが言うが、栗山は「内緒」と言って、扉を開ける。
扉の奥には道が続いており、カミュとコレットは奥に人がいる事を教えてくれた。
松明が消されているため、奥は真っ暗闇で先が全く見えない。
栗山は袋から暗視スコープ取り出して4人に渡す。
4人は理由も分からないまま、それを装着してスコープを覗いてみると、暗闇の中でも人の動きが分かることに驚くのだが、今は質問をしている場合ではないため、栗山の後に続いて先へと向かった。
どうくつの奥には盗賊団と、人質になっている女性等が息を潜めているのだが、栗山たちには丸見えのため、人質に近い盗賊から始末していく。
戦いは一方的に行わる。盗賊が持っている武器と、栗山が持っている武器に、差があり過ぎるのである。
一方的な殺戮が終わり、人質になっていた人たち解放するのだが、すでに乱暴されている人もおり、服が破られている人が複数いたため、栗山は大きいバスタオルを袋から出すように召喚し、4人に渡すと、4人は盗賊に乱暴されて、服を着ていない人に掛けてあげた。
栗山たちが洞窟から出てくると、セイドルが慌ててやって来て、自分の娘と思われる女性に抱きつき、喜びの声を上げていた。
セイドルは魔法の袋を所持していないため、盗品を回収することができない。代わりに栗山の魔法の袋に盗品を全て仕舞いこんだ。
そして、袋から出すようにトラックを召喚し、セイドルに道案内をしてもらいながら町へよ向かったのである。
町に到着すると、町の衛兵たちが何事かと現れると、セイドルが車から降りて衛兵たちに説明し、囚われていた女性たちを衛兵たちが介抱し、栗山たちはギルドへと連れて行かれる。
そこで盗品を全て出しすのだが、セイドル以外の荷物は全て栗山の物と言われてしまう。盗品なんて持ち歩きたくない栗山は、囚われていた人たちの今後に使ってほしいと言って、盗品で金目の物は全て寄付をすると言うと、勿体ないとカルミは言うのだが、カミュたち3人が黙らせる。
その晩はセイドルの屋敷で休ませてもらい、翌日の昼には、旅立つことにした。ここでは随分と騒ぎになっているからである。
「もう少しくらい、町に留まっても良かったんじゃない?」
チヒが栗山に言う。
「私たちは目立ち過ぎたから、余計なことに巻き込まれる前に退散したほうが良いでしょ」
コレットが横からチヒに言うと、チヒはコレットの言うことを納得して外を見つめる。
「目立つと面倒なことに巻き込まれる……か」
そう呟きながら栗山は車を運転し、次の町へと向かうのだった。
いくつもの町を過ぎ、4人はいい加減何処かの町に滞在しないかと栗山に言う。
「できれば、セデルアース王国から出たいんだよね」
セデルアースから出たい理由、それは面倒事に巻き込まれたくないからである。
「こっちの方角ですと、マーデル王国になりますよ」
略式地図を観ながらコレットが言う。
「セデルアースは、カーディナルと戦争しているんだろ? そのような国に行ったら、俺たちは捕まっちゃうかもしれないだろ」
栗山の言葉に4人は理解を示す。
「国境さえ越えちゃえば、セデルアース王国も手出しがでくないだろ。そうしたら何処かの町でゆっくりしようぜ」
舗装されていない道を走っているため、時速は速くても30キロ前後で進んでおり、一日で走れる距離は町を2つ超えた程度になる。
宿屋には泊まらず、大抵は野営をする生活を送っており、4人がどこかの町で休みたいというのは当たり前であった。
ようやく『この先国境』の看板を発見し、喜ぶ栗山たちだったが、国境には関所が設けられており、行く人々をチェックしていた。
その関所を遠くから双眼鏡で見つめる栗山。悪いことはしていないのだから捕まるはずがない……と、4人は口を揃えて言う。
「たしかに悪いことはしていないが、俺たちは王都から出るなと言われていたのに、出てしまっているんだぞ」
「だからって、捕まるとは限らないじゃん」
早く町でノンビリとしたいカルミは言う。
「捕まらないとも限らないだろ。やはり、別のルートから国境越えをした方が良いかな」
「別の? どこから行くって言うの?」
今度はチヒが聞く。関所のような場所以外に道らしきものは見当たらない。
栗山は関所から目の届かない場所を指差すと、4人は嫌そうな声を上げた。それは山越えだったからである。
「あの山には道なんて無いと思いますけど……」
そんな事は理解しているだろうと思いながらコレットは言う。
「そんな事は理解している。けど、あの山に検問する場所なんて無さそうだろ?」
険しい山にまで、国境検問所を作るようなはずがないだろ。4人は喉まで出かかった言葉を飲み込む。こう言い出したらテコでも動かないのが栗山であるのを、4人は知っているからであった。




