57.金輪際関わるな
「伯爵の誘いはありがたいですが、お断りさせていただきます。ですが、何かあった場合は協力させていただきます」
これが栗山の出した答えだった。これを聞いて、帰るオイットナーではない。「そうか」と、ひと言いってウイスキーを口にする。
断ったのだから早く帰れば良いのに……と、心の中で呟きながらコレットは黙ってゲームをしていた。
オイットナーが帰ったのは夕方になってからだった。これで明日からはいつもの日常が戻ってくると思っていた4人だったが、翌日になってもオイットナーはやって来た。
「チアキさんは断ったはずですよ」
カルミの言葉は無視して、まるで自分の家だと言わんばかりに冷蔵庫を開け、ウイスキーを取り出してグラスに注ぐ。
「良いですか? チアキさん」
本を読んでいる栗山にチヒが聞く。
「好きにさせれば? 悪い人じゃないんだからさ」
納得できない顔をする4人だが、栗山は気にしていなさそうな顔をして、漫画の本読み耽る。
いつものように、夕方頃にオイットナーは帰っていくと、栗山は読んでいた本を閉じる。
「さて、そろそろ引っ越しでもするか」
「「「「え?」」」」
「だって、みんなはオイットナーさんの相手をするのも疲れるでしょ」
4人は顔を見合わせながら言葉を探す。
「べ、別に引っ越す必要は無いと思うよ」
再び家を作る作業を考えたら、オイットナーの相手をしている方が楽だと、カルミは思いながら言う。
「ふーん、なら別に構わないけどね」
そう言って栗山は、再び本を手に取って読み始める。
翌朝、朝食を食べたあと栗山は出かけると言い、カミュは付いていくと駄々をこねるが、栗山は拒否して一人で何処かへと行ってしまった。
その後、オイットナーがアルフィーを連れてやって来たのだが、栗山が居ないことを知ると、二人は帰ってしまう。何しに来たのか全く理解できず、4人は首を傾げるしかできなかった。
栗山が帰ってきたのは夜遅く、その間、4人は全く食事をしておらず、栗山に文句を言う。
「私たちの食事はどうするんですか!」
「晩御飯はどうするつもり!」
一番腹を立てていたのはコレットで、次にカルミであった。
そんなに文句を言うのなら、自分たちで作れば良いのにと、心のなかで思いながらも口にはしない。あとで殴られる可能性があるから。
仕方なく簡単な食事を作ってあげると、オイットナーの他にアルフィーが来たことを告げられ、栗山は何か考える。
翌朝になり、再び栗山は出かけようとしたところ、4人に止められる。
「何処へ行くつもり!」
「一人で何をしているんです」
「昨日みたいに昼も無しは嫌」
「オイットナーさんの相手をするのは嫌」
一人だけ本音が出ている気もするが、そこは敢えてツッコまない事にし、仕方なしに4人を連れて出かける。着いた場所は廃墟とかした屋敷で、いかにもお化けなどが出そうな屋敷であった。
「こんな場所で、いったい何をしてるの?」
カミュが聞くが、栗山は答える事なく廃墟に入っていく。残された4人は、慌てて栗山の後を追いかけていくと、外見とは異なり、中はしっかりとして綺麗であった。
「な、なんなの……これ……」
外見と異なっていることに驚きを隠せないチヒが呟く。
「新居」
「「「「は?」」」」
「新居と言った。新しい家だよ」
別に意味を教えろとは言っていないと4人はツッコんだが、どうして新居なんて構える必要があるというのだろうか。
「みんなが嫌そうな顔をするから、一人で引っ越しの準備をしていたんだ。俺は正直に言って、オイットナーさんの相手をするのが面倒だと感じてる。だから引っ越すことを決めた」
「なら、そう言ってくれれば良いじゃん」
カミュが呆れたような声で言うと、「嫌そうな顔をしたのはお前らだろ」と栗山は言い、新居の準備を始める。
4人は顔を見合わせてから、栗山の手伝いを行い、夜には荷物の移動などを済ませ、引っ越しを済ませるのであった。
外見を弄らない理由を栗山に確認すると「人が寄ってこなさそうだから」と、たいした理由ではなかったが、これはこれで効果があるようで、誰も近寄ることがなく、のんびりと暮らすことができたのであった。
もちろん、オイットナーが栗山の家に行ったところで誰もいるはずもなく、建物の中はもぬけの殻状態となっており、その行動力にオイットナーは憤慨したが、ミルフィルは大笑いしたのであった。
「エントランスのところに何か剥製を飾ったら良いと思うんですが、如何ですか?」
コレットの言葉に、みんなはミルフィルの所で観たような、迫力のある物が良いと言い、どの様な物にするのかと4人は話し合う。
「話し合うのは良いが、その魔物は誰が狩ってくれるんだ?」
栗山が問い掛けると、4人は一斉に栗山をみつめる……が、お願いすることはしなかった。
気ままな生活は唐突に破られる。
オイットナーが、最大限の人脈を通じて調べ上げ、栗山たちが住んでいる屋敷に乗り込んできたのだ。
ようやく発見した栗山たちに、罵詈雑言を吐きたてるオイットナー。何故か栗山たちは正座をさせられ、怒られていた。
「し、しかしですよオイットナーさん、俺は後ろ盾を断った訳ですし、怒られる筋合いは無いと思うんですが……」
「何かあったら協力するって言ったろ!」
「たしかに言いましたけど……何かあったんですか?」
結局のところ、何もなかった。ただ、オイットナーは、自分が除け者にされた事が悔しくて言っているに過ぎなかったのである。
「勝手に何処かへ行くんじゃない! 分かったか」
「分かりましたが、うちは酒場じゃない事だけは理解してください」
遠回しに言うのが面倒になってきた栗山。4人は大事になってきたと思いながら見ている。
「分かってるよ! ミルフィル旦那がアルファー嬢をお前の嫁にと言ってきた。この意味は理解できるだろ」
「――お断りします! この間も言いましたが、後ろ盾は必要ありません! そこまでしつこくして来るのなら、俺たちは王都から出ていきますよ!」
「出ていってどうすると言うんだ!」
「どっかの国に行って、のんびりと暮らしますよ」
「それが許されると思っているのか!」
「何をしようが俺の勝手でしょ! 誰かに、とやかく言われる筋合いはない! 俺は別に貴族になりたいとお願いしたわけじゃない。勝手に国王が貴族にしたんだ!」
「お前、言って良いことと悪いことがあるのを理解しているのか!」
「理解してますとも、俺は自由に暮らしたいだけ、それ以外はどうでも良い!」
「貴族を敵に回すと、どうなるのか分かっているのか? お前の大切な物が奪われるんだぞ!」
「話になりませんね、そんな脅しをするとは思ってもいませんでしたよ、もう二度と顔を見せないでください!」
そう言って栗山はオイットナーを屋敷から追い出し、椅子に腰掛け貧乏揺すりをして舌打ちを何度もする。
ここまで感情をむき出しにしている栗山をみるのは初めてで、4人はなんと声をかけたら良いのか戸惑う。
「ちっ! 気分が晴れない。ミルフィル伯爵に直接文句を言いに行ってくる」
いくらなんでも、それは冗談かと思った4人。だが、栗山は本気だったらしく、不思議な扉を取り出して何処かへ行ってしまった。
突如、目の前に扉が出てきた事に驚くミルフィル。開いた扉から栗山が出てきて、物凄い剣幕で怒鳴り散らし、「金輪際、俺に関わらないでくれ!」と捨て台詞を吐いてから再び扉の向こうへと行ってしまい、扉は消える。
何が起きているのか分からないミルフィルは、オイットナーを呼び戻し事情を聴くと、ミルフィルはオイットナーに大激怒した。
翌日、ミルフィルはオイットナーを連れて栗山の屋敷に謝罪しに行ったのだが、すでに栗山の屋敷は、もぬけの殻となっていたのだった。
ミルフィルに文句を言った後、栗山は直ぐに逃げる準備を開始した。
不思議な扉を使い、初めて目を開けたとき町、サーランドの町へとやって来ていた。
「もう、こんな国なんかに居てやるものか!」
そう言って、空き部屋のある宿屋を探していた。
「お前たちは関係ないんだから、王都に残っていても良かったのに」
付いてきた4人に言うと、4人は「残っていたらどうなるか分からない」と、口を揃えて言うのだった。
相変わらず宿屋は埋まっており、泊まる場所が見つからない栗山たち。空いていても一部屋だけで、5人が泊まれるような宿屋はなかった。
仕方がなくサーランドの町を出て、キャンピングカーの中で休むことになった。
翌朝になり、栗山たちは朝食を簡単に済ませ、王都がある方とは別の方角に車を走らせ、となり町のエーランスの町へやってくる。
「今日こそは、ゆっくりと宿で休みたいな」
栗山がボソッと呟く。
基本的に大きなキャンピングカーを召喚しているのだが、贅沢を覚えただけではなく、恥じらいも覚えた4人。同じ空間で寝るのに抵抗感があるらしく、栗山は一人運転席で寝ていたのである。
しかし、エーランスの町は規模が小さく、宿屋の数も限られており、泊まる事は出来ずに再びキャンピングカーで車中泊する事となり、栗山は一人、テントの中で寝る事になった。
翌朝、昨日と異なり、いつでも雨が降りそうな天気で、早めに次の町へ移動する事にしたが、途中で雨が降り始める。
道は舗装されている訳ではなく、凸凹しており視界も悪いときてそこまでスピードを出すことなどできずに車を走らせていると、前方に馬車ような物を発見したが、様子がおかしい。
「あそこに停車している馬車、何か様子がおかしくないか?」
助手席に座っているチヒに語り掛けると、チヒは雨をやり過ごそうとしているのではないかと言う。
それなら構わないと思っていたが、横を通り過ぎようとして際に、様子を伺ってみると荷車を引く馬が居ない。
それに気が付いた栗山は、急ブレーキを踏んで降りると、降りしきる雨の中、荷車の方へ向かう。側には御者だったと思われる人が倒れており、栗山が生死を確認するが、すでに事切れていた。
荷車の方を確認すると、人が刺されて倒れており、生死を確認するとまだ息があったのだった。




