56.オイットナー
「こんばんわ、クリヤマ君」
「あ、どうも……えっと、よろしくお願いします」
貴族との会話の仕方が分からない栗山、ミルフィルに軽い会釈をする。
「緊張しなくても良いよ。ここは公式の場では無いのだからね」
優しい笑みをみせてくるミルフィル。栗山はどの様な顔をして良いのか分からず、顔を引き攣らせながらミルフィルを見つめていた。
「それで……本題だけど、君は誰かを慕っている人などは居るのかな?」
「え? 慕っている人……ですか?」
言われている意味が分からないといった顔をすると、ミルフィルは大笑いする。
「――お前さん、本当に何を知らないんだな。お前の後ろ盾をしてくれる人は居るのかって聞いているんだよ。旦那、こいつは世間知らずだ。慕っている輩なんて居ちゃいませんよ」
横からオイットナーが言うと、ミルフィルは嬉しそうに頷いた。
「良かったらの話だが、私が君の後ろ盾になってあげてもよい」
優しい笑みでミルフィルが言う。
「クリヤマ、お前のことだから断ろうと考えているんじゃないか? 後ろ盾があれば、お前さんの悪い噂などは直ぐに消えるどころか、お前さんを慕う奴も増えるだろう。受けといて悪い話じゃない」
「――悪い噂……ですか?」
「そうだ、お前さんは悪い意味でも目立ち過ぎている。竜殺しに鉱山や村の開拓、そしてこの短期間で貧民街を改善した。汚い手を使っているんじゃないかって噂になっているぞ」
そんな事になっているとは思ってもいなかった栗山。オイットナーの話に言葉を失う。まさか、自分に悪い噂が立っているとは思っていなかったからである。
「その点、ミルフィル様のような方が後ろにいれば、悪い噂は直ぐに消えるだろうし、お前が何をしても、ある程度のことはミルフィル様が庇ってくれるだろうよ。どうだ、悪い話じゃあるまい?」
「お話は理解できました。それで、見返りに何を求めているんです? むろん、見返りなしでこのような話はしませんよね?」
話が早くて助かるといった表情をするミルフィルとオイットナー。
「無論、見返りはある。君が活躍すれば私も評価上がる。私も君の恩恵を受けることができる」
後ろ盾と言うよりも、パトロンに近い。
「良い話だっというのは理解できました。ですが、即決する事は難しいです」
「その理由を聞いても?」
栗山は少し考える顔してから、サレスト伯爵がした事を話したが、自分が手に掛けたのではなく、ドラゴンにやられた事にした。
「――なるほど、その様な事があったのですね。サレスト伯爵は亡くなったのですか……」
なにか考える素振りをみせるミルフィルとオイットナー。同じ伯爵どおし何かしら縁があったのかもしれない。
「わかりました、答えは急いでおりませんから、ゆっくりと考えて下さい」
「あ、ありがとう――」
「ですが、貴殿には良くない噂があるという事を忘れないで頂きたい。貴族間での問題になりかねません」
ミルフィルが釘を刺すかのように言い、栗山は返事をして部屋を出ようとすると、オイットナーに呼び止められた。
「クリヤマ、そう言えばお前さん、さっきから話を聞いている限りだと、神殿へ行ってないのではないか?」
「神殿?」
「そうだ、神殿でお祈りをすることで神の加護を与えられることもある。そして、貴族は神殿に寄付をするのが習わしだ。それさえすれば、多少は悪い噂も消え失せると思うぞ」
それは良い事を聞いたと思い、栗山はお礼を言って部屋を出ていく。残されたミルフィルとオイットナー。
「ありゃ、サレスト伯爵を消したな」
「彼が……ですか?」
「えぇ、どうやって始末したか分かりませんが、おそらくは。それに、サレスト伯爵の行方は分かっていないのに、彼奴は知っていることがおかしい」
「たしかに、行方不明で捜索しているというのに、死亡していることを知っているのはおかしいですね……。名乗り出ても良いはずなのに」
「話した感じは悪い奴ではなさそうだったので、こちらも暫くは様子を伺っておいた方が良いかと……」
オイットナーの言葉に、ミルフィルは何かを考える様な仕草をするのだった。
服を着替えて椅子に腰掛ける。4人も同じように着替えてからリビングの椅子に腰掛ける。
「明日は神殿へ行ってみるか。もしかしたら、誰か神様の加護を貰えるかもしれないからな」
4人は黙って栗山を見つめていると、栗山は一息吐いてから思いを伝える。
「悪い話じゃない。けど、ミルフィル伯爵がどういう人なのか分からない。直ぐに答えるのはって、思ったんだ」
「分かりますが、早めに答えを出す必要がありますよ」
コレットが言うと、他の3人も頷いた。
翌日、栗山たちは神殿へと来ていたのだが、そこには何故か、オイットナーの姿があった。
「お前たちの誰かが加護を受けるかも知れんからな、それを報告するのも俺の仕事なんだよ」
そう言って栗山たちに付いてきたと言うわけである。
神殿のなかに入り、神官に話しかけようとしたら、オイットナーが先に神官へ話し掛け、事情を説明してくれると、神官は数度頷いて栗山たちに話し掛けた。
「神は如何なる者たちにも平等です。こちらへ来て祈りを捧げましょう」
神官はそう言って、栗山たちを奥へと連れて行く。
女神像の前まで連れていき、神官は祈りを捧げるように言う。言われた通りに祈りを捧げる。
すると、目の前にはあの時に会った少女が立っており、栗山は絶句するのだった。
『神に祈りを捧げるのは良い心がけだ。しかし、自分の能力を最大限に活かせてないのには、感心せんな』
「――能力を活かせてない?」
『君には創造することで、命やお金以外はあらゆる物が創り出せる。しかし、まどろっこしいやり方は嫌いじゃない。もっと、色々な本を読むことだ。君の能力は無限の力を秘めている』
そう言って、少女は目の前から姿を消したのであった。
気が付くと、栗山は祈りのポーズをしており、目の前には女神像だけがあった。
その後、鑑定板に手を触れるよう言われ、栗山たちは言われた通りに鑑定板に手を触れるのだが、誰も神の加護とやらは、貰っていなかった。
しかも、栗山の能力である物質召喚も記載がされていない。
「5人もいて、誰一人として加護を授かることが無かったのかよ」
オイットナーの言葉に項垂れる4人に対し、栗山は気にしてなさそうな顔をしている。
「どうした、何か良いことがあったのか?」
「もう少し勉強が必要だと思っただけですよ。そう言うオイットナーさんは、神様から何かの加護を貰っているんですか?」
「いんや、俺も加護なしだ。加護がありゃ、このような仕事なんてしちゃいないさ」
そりゃそうだと思う4人。
「神様の加護が得られなくとも、神様は常にあなた方を見守るでしょう」
神官がいつものような言葉を言う。
栗山は少ないがと言って、神殿に寄付金として金貨二枚を渡す。
「今はこれだけしか渡すことが出来ませんが、もう少し功績をれるように努力します」
「――神はいつでも門を開いております、貴方の行いに幸があらんことを……」
そう言って神官は金貨を懐にしまい、奥へ引っ込んで行く。
神殿での用事を済ませた栗山たちは、家路につことしたのだが、オイットナーも付いてくる。
「あれ? オイットナーさんは伯爵邸に戻るんじゃないの?」
栗山たち後を付いてくるオイットナーに気が付いたチヒが言う。
「お前らの住んでいるところへ行くんだよ」
「へ? 何故?」
「どんな屋敷に住んでいるのか、確認しとけって言われてんだ。怪しい事をしてなきゃ、問題なかろう」
問題無いと思うが、一般人が理解できるのかどうなのかと、4人は話しながら家路につく。
屋敷というには小さく、一般的にはただの民家と言ってもおかしくない。このような所に男爵が住んでいるとは、誰も思いはしないだろう。
呼んでもいないのに付いてきたオイットナーは、家の中へ入って立ち尽くす。外見とは異なり、家の中は別世界の作りになっているからである。
明かりは一般的のLED照明だが、この世界にそのような物はない。そして、蛇口を捻れば出てくるお水。どのような作りでこうなっているのか全く分からない。
トイレに至っては、見たことのない形状のトイレが設置されているだけではなく、温水洗浄便座が取り付けられており、便座は温かくお尻の水が当たって洗浄してくれるだけではなく、上質な紙でお尻が拭けることに驚きを隠せない。
極めつけはガラスである。最近流行り出したガラスが、ふんだんに使われており、そのお金はどこから捻出されたのか、また、その職人は一体どこにいるのかと疑問に思うのだった。
「うちは屋敷じゃないんですよ。ただの『家』ですよ」
これだけ立派な設備が整っているのに『ただの家』と言うのはおかしいことである。
「こ、こりゃ……」
言葉を失っているオイットナー。その姿は数ヶ月前の5人と同じである。
5人も、初めは受け入れがたい設備だと思っていたが、使ってみると案外快適であるったことで、気が付いたら受け入れていたのであった。
蹌踉めきながらオイットナーは帰っていき、栗山は大したおもてなしが出来なかったことに不満でもあったのではないかと、勘違いをしたのであった。
それからオイットナーは、栗山の家に入り浸る様になったのは、言うまでもなかった。
神殿へ行ってから数日が過ぎ、栗山は家でのんびりしながら、部屋で漫画の本を読んでいると、家のチャイムが鳴り響く。
またオイットナーがやって来たのかと思いながらリビングへ行くと、リビングにはコレットが車のゲームをやっていた。
「邪魔するぜ」
そう言って家に上がりこむオイットナー。
「今日はどうしたんですか? 伯爵邸の改築は断ったはずですよ」
車のゲームをやっているコレットは、顔を見ずにオイットナーに言う。
「いや、今日は坊主に返事を聞きにやって来たんだ。あれから随分と考える時間があったはずだ」
そう言ってオイットナーは、当たり前のように冷蔵庫を開け、ウイスキーを取り出した。
本当に返事を聞きに来たのだろうかと思うコレットであった。




