55.お抱え冒険者
貧民街の大浴場は大好評で、貧民街以外のとこからも入りにやって来る。番台に立つのは計算ができる子供で、計算ができない子供たちは孤児院で勉強と掃除を手伝う事になっている。
貴族のあり方を示した栗山は、貧民街で知らない者は居ないほど有名となっていた。そして、貧民街の下水問題を解決したことで、ほかの地域でも下水問題をどうにかしてもらえないかと、お願いされていた。
王宮では、その功績を称えて勲章を与えてはどうだろうかと言う話も出ていたが、今まで王都にいた貴族たちからは、厄介な存在としてみられる事となったのは言うまでもないだろう。
しかし、その逆の貴族もいて、栗山を取り込もうとしている貴族もいるのであった。
貴族や王宮が、そのような事を思っているとは全く知る由もない栗山は惰眠を貪っていると、4人がどこかへ連れて行けと言ってきて、栗山の睡眠を邪魔してきた。
「久し振りの休みなんだから、ゆっくりさせてくれよ」
「何を言ってるのさ! 仕事なんて私たちがほとんどやって、チアキさんは指示を出しているだけじゃん」
カミュが馬乗りになって言う。
「そりゃ仕方がないだろ、俺がミニバックホーに乗っていると、子供が近寄って来ちゃうんだから」
そんな押し問答をしていると、チャイムが鳴り響く。
「おい、誰か来たようだぞ」
音を聞けば誰だって分かるとカミュは言って、栗山の上から降りて玄関の方へと向かう。他の3人は栗山の布団を引き剥がそうと、布団を引っ張っていた。
布団から出たくない栗山は、必死に抵抗するのだが、3人の力に勝てるはずもなく抵抗虚しく引き剥がされてしまう。
仕方なく起きることにした栗山だったが、玄関に向かったカミュが戻ってこないことに気が付き、慌てて玄関へ向かうと、カミュが不機嫌そうな顔して玄関外に立っている者に睨みを効かせていた。
誰にメンチを切っているのだろうと覗いてみると、そこにはミールが立っていた。
「おや、ミールさん。今日はどうしたんですか?」
睨みを効かせているカミュの後ろから声を掛けると、カミュは急いで栗山の後ろへ隠れ、ミールを睨み付ける。
「なんだ、やっぱり居るじゃんかよ」
そう言ってミールは、栗山の後ろに隠れているカミュに言う。どうやらカミュは居留守を使っていたようであった。
「それで、騎士団のミールさんが、どうしてこのような場所へ?」
面倒なので、居留守に関して触れる事なく話を続ける栗山。
「今日は騎士団員としてきた訳じゃない。お前さん宛に『コレ』を持ってきてやったんだよ」
「――招待状?」
「ミルフィル伯爵からお前さんに渡してほしいと頼まれたんだ。伯爵じゃなきゃ、断ってたんだがな」
「でも、俺は面識ありませんよ?」
「お前さんの活躍を祝うためだと思うぜ。とにかく渡したからな、あとはお前さん次第だ」
そう言ってミールはカミュにウインクをして身を翻すと、カミュは急いで玄関ドアを閉めた。
「キザったらしい奴!」
そう言い残してカミュはリビングのある方へ向かい、栗山は招待状を光で照らして、何か不審な物が入ってないかを確認していた。
どうやらミールが持ってきた招待状は本物らしく、どこで調べたのか分からないが、4人も連れてきて良いと記載されていた。
「パーティーねぇ……」
どうして自分を呼んだのか、不思議がる栗山。
「きっと、貧民街を改善したからですよ」
自分たちも招待された事に、顔を綻ばせながらコレットは言う。
「だったら良いけどね。伯爵って、良いイメージが無いんだよなぁ。サレストの件もあるし」
正直に言って、情報が全く無い中で、この招待を受けて良いのか迷う栗山であったが、自分たちも呼ばれている事に喜んでいる4人は、栗山の悩みなど気にも止めていなかったのであった。
パーティー当日。
栗山たちは伯爵邸の前で佇んでいた。
伯爵邸は貴族街の中心部にあり、栗山の家よりも、何倍も大きくて広い。その大きさに圧倒される栗山たち。
入り口には何人もの門番が立っており、警備は厳重そうに感じられた。
門番の一人に咳払いされ、現実に戻った栗山は、門番の人に招待状を見せると、邸の方へと案内される。
邸の扉を開けて直ぐに目に入ったのは、プテラノドンのような大きい剥製で、栗山たちは言葉を失いながら会場へ案内された。あとで聞いたところ、剥製はワイバーンと言う生き物だったらしい。
「な、なんか……凄いな」
「チアキさんは王宮のパーティーに参加してたじゃないですか」
栗山の後ろに隠れるようにして立っているコレットが言う。4人とも誰かを盾にするかのようにして立っていた。
「そ、そうなんだけどさぁ、あの時は色々あったから、あんまり記憶がないんだよね」
会場の隅で渡されたコップを手にしながら栗山が言う。
そんな会話をしながらコップを見ると、ガラス製のコップではなく、木で作られた物で、ガラスがいかに高いかを知らしめている。
会場では音楽が奏でられており、他の貴族と思われる人たちが交流を深め合っていて、楽しげに会話をしている。女性たちも華やかなドレスを身にまとい、色々な人に挨拶をしている。
こういった社交の場は、自分の結婚相手を探す絶好の場所となっているのだろう。
場違いなところへやって来た気がして、帰りたくなる栗山を他所に、4人は食べ物に夢中となっていた。
そんな栗山の元に、ミールがやって来る。普段は騎士団ということもあり、鎧を着込んでいるミールだったが、この場所ではタキシードのような服を着込んで、いかにも「貴族です!」といった感じに見える。
「よう、こんな所に居たのか」
数人の女性を侍らせながらやって来て、栗山に声を掛けた。周りの女性たちは誰だといった目で、栗山たちを見る。
「どうも、ミールさん」
栗山が挨拶をすると、ミールが女性たちに栗山を紹介するのだが、女性たちは栗山を見向きもしない。
その理由として、ミールが子爵の息子で、騎士団に所属しているからである。しかも、ミールは騎士団の中でも序列が高い。
「で、ミルフィル伯爵には挨拶したのか? 招待主に挨拶をするのは当たり前のことだぞ」
そう言ってミールは何処かへ行ってしまった。
ミールの言うことは正しく、一番人が群がっている場所にミルフィルがおり、栗山もその群がっている中心へと向かう。
ミルフィル伯爵の見た目は、だいたい30歳後半といったところで、爽やかな笑みを見せていた。
人混みを掻き分けてミルフィル伯爵のところまで行く。
「ミルフィル伯爵、この度はお招き預かり感謝致します」
「――君は……」
「はじめまして、栗山千秋と申します。こちらは私の仲間で……」
栗山が4人を紹介すると、4人は一人ひとり頭を下げる。
「ほぉ、君があの噂の……。よく来てくれたな、今日は楽しんでくれ。私の娘が16になった記念の日なのでな」
そう言うと、後ろの階段からドレスを着た美少女が降りてくると、皆がその少女に注目する。その少女こそ、ミルフィルの娘のアルフィーであった。
ミルフィルはアルフィーのもとへ行くと、高らかに声を上げてアルフィーを紹介すると、皆は拍手をしたのであった。
「どうして誕生会に俺なんかを呼んだんだ?」
離れた場所で栗山が呟くと、侍女が栗山の側にやって来た。
『……クリヤマ様、このあとお時間を頂けないでしょうか。主様がお話したいと仰有っております』
主と言うと、ミルフィル伯爵だろう。断ったら面倒なことになりそうなため、栗山は承諾した。
アルフィーのお披露目会は盛大に行われており、栗山は別室へと案内される。席に座って待つよう言われ、栗山たちは各々が椅子に腰掛け、ミルフィルが来るのを待っていると、知らない男が室内に入ってきた。
「あんたがクリヤマって言う名の、男爵かい?」
入ってきた早々に声を掛けて来た男。
「そうですけど……貴方は?」
「おっと、失礼。……名乗るのを忘れていた。俺の名はオイットナーだ。ミルフィル伯爵のお抱え魔導士と言ったところかな」
「お抱え……魔導士?」
「なんだ、そんな事も知らんのか。お前さんは誰も雇って無いみたいだが……」
どうやら貴族には、護衛のために冒険者を雇うことがあるらしく、ミルフィルは魔導士のオイットナーを護衛に付けているようだ。サレストは剣士を雇っていたが、栗山が射殺した。
「護衛というのなら、この4人が護衛といったところなりますね。このところ剣の腕も上がってきているようだし、それにレベルが30にもなっていますし」
「30だと? それは本当なのかよ……。王宮騎士並みのレベルじゃないか」
王宮騎士は魔物討伐なども行なっているから、レベルはかなり高い。
オイットナーは椅子に腰掛けると、脚を組みながら品定めをするかのように栗山を見る。
「噂の竜殺しと言っても、まだ若造じゃないか。本当にお前さんは竜を殺したのか?」
疑いの目で見てくるオイットナー。この手の質問はよくされるので、栗山はギルドカードを見せる。
「こりゃ……お驚いた、本当に古代竜を仕留めたのかよ。それなら相当金を貰ったんじゃないのか?」
「――は?」
オイットナーの話によると、竜族を仕留めるとギルドから相当な報奨金が貰えるだけではなく、その素材は高く買い取られる。しかも骨も武具などになるとのことで、相当な金額となるらしい。
そんな事とは知らない栗山。町のゴタゴタ騒ぎやエミルの事などもあったので、知らないうちに無かった事にされていたのである。その話を聞いて、頭を抱える栗山たちであった。
しばらくオイットナー話を聞き、自分たちの知らないことを教えてもらう。
「……お前さん、本当に世間知らずだな。まさか無かった事にされているとはな、バカも良いところだ。もう少しマシな奴を雇ったらどうだ?」
オイットナーの見た目は40歳前半といった所だろう。悪気があって言っているようには感じられないので悪い気はしないが、経験者を仲間に入れるというのは考えた方が良いかもしれないと思った。
しばらく話をしているとミルフィルがやって来た。




