53.人口湖
呼び出された翌日には王都に居るのが栗山たちである。早速王宮へと足を運び、門番に呼ばれたことを告げると、確認するからしばらく待つようにと言われ、門の側で小一時間待っていると、ようやく中へと通されると、すぐに謁見の間へと案内された。
「戻りが早いな。クリヤマよ……」
「――は、国王さまに呼ばれたとなれば、直ぐにでも参上しなければと思い、やって参りました」
「そうか……。それは良い心がけだ。これからもその忠義、忘れる出ないぞ」
国王の言葉に栗山は返事をした。
「今回、お主を呼び戻したのは、お主が鉱山を発見したことと、開拓するよう命じた村を発展させたことの功績をたたえ、男爵の位を与えることとする」
栗山は「ありがたく頂戴致します」と、頭を深々と下げた。あれだけの功績を挙げたのに男爵止まりかよ……と、こころの中で毒づきながら勲章をもらい受ける。
男爵となったことで、栗山は月額10枚の金貨をもらえることとなり、再び王都で暮らすことになったため、貧民街に土地を購入し、家を建てることにした。
貧民街であれば、自分を売り込みにやってくる者はいないだろうと思ったからだ。
案の定、貧民街に売り込みはやって来ず、栗山たちは平穏な朝を迎えられる。
ミールは栗山の見張り役を終え、王宮へ戻った。
貧民街と呼ばれるだけの暮らしをしている人々たちは、貴族街とは異なる生活をしていた。
衛生面でも最悪で、周囲は異臭でカミュとコレットは険しい表情をしながら家に戻ると、せめて平民街に家を建てても良かったのではないかとカルミとチヒの2人が栗山に言い寄る。
「平民街に家を建てたら、再び売り込みに人がやってくるだろ」
「それは私たちが追い払うって、何度も言ってるじゃん!」
チヒが語気を強め、テーブルを叩く。
「チヒにカルミ、それ以上言ってもチアキさんは引っ越しなんてしないよ。別のことを考えているもの……」
眉間に皺を寄せながらコレットは言い、買ってきた食材をテーブルに置いた。
「――別のことって……まさか!」
そう言ってカルミは立ち上がり、嫌そうな顔をしながら栗山を見た。
栗山は苦笑いをしており、チヒとカルミの2人は項垂れたのであった。
街をどうにかするには、先ずは衛生面の改善である。しかも、貧民街は広いのに井戸はたった一つだけ、水も不足している。
人が良い栗山。家を建てた直後に貧民街の長から水の問題をどうにかしてくれないかと、すでにお願いされており、それを引き受けていたのである。
貧民街は四区画に分かれており、その中央に井戸が一つだけあるのだ。しかし、栗山の家には普通に水道が引き込まれており、水には困ることはない。
しかもソーラー発電をしているため、電気にも困らず、夜には明かりが灯るのであった。
「まぁ、そう言う事だから、明日から井戸を作るのを手伝ってくれない?」
嫌だと言っても、あの手この手を使って手伝わせてくるので、断るだけ無駄。そのことを知っている4人は、項垂れることしかできなかったのだった。
翌日になり、栗山たちは街の外へと向かい人が寄りつかない場所までやって来る。
「それで、私らは何をすれば良いの?」
色々なことに諦めたカルミが聞いてくる。
「取り敢えず、天幕を張ろうか」
「テンマク? なにそれ?」
初めて聞いた言葉に、不思議そうな顔をしながらチヒが聞く。
「テントみたいな物だよ。この辺りを囲んでほしい」
言われたことを忠実にこなす4人。作業する周辺を幕で囲うと、栗山は袋からドリルが付いた乗り物を取り出し、運転席に乗り込む。そして、エンジンを掛けて水脈に到達したら戻るよう、オートモードに設定し、発進のボタンを押すと、ドリルの先端が地面に差し込み、勢いよく掘り進んでいく。
そのバカげた光景に4人は口を空けて見ており、何かを手伝うことなどなく、ただ、その光景を見守っているだけであった。
水脈まで到達すると、穴から水が勢いよく噴き上げる。そして、ドリルの付いた乗り物が戻ってくると、栗山は次の設定をした。
ドリルが付いた乗り物は、再び地面の中へと潜って行くと、しばらくの間戻ってこない。その間、4人は湖を作るためにパワーシャベルに乗り込んで、人工の湖を作り始める。
栗山が何をしたいのか分からないが、4人は言われたとおりに作業をするだけであり、その間に栗山は他の作業をしていた。ドリルの付いた乗り物が戻ってくると、栗山は穴の中へと入っていき、何か別の作業を始める。
4人が作っている湖と言っても、そんなに大きな物ではないし、シャベルで広げた穴のため水が澄んでいるわけではない。かなり泥だらけで汚い水だ。これを飲み水にしろと言われたら、お腹を壊すだろうな……と、4人は思いながら見つめていると、栗山が穴の中から戻ってきて今日の作業は終了となる。
考えてみれば、ここ最近冒険らしいことをしていないとコレットが呟くと、3人は何かを言いたげにしていたが、黙って家路につく……と思いきや、栗山が家には戻らずに北の貧民街にある広場へと向かい、再び天幕を張るよう指示し、4人は何か言いたげな顔をしながら天幕を張る。
天幕の中央で再びドリルの付いた乗り物を取り出し、栗山は穴を掘り始めた。
「長の依頼は井戸を作ってほしいという話じゃなかった?」
ドリルの付いた乗り物が入っていった穴を眺めながらカミュが呟く。
「チアキさんが何を考えているかなんて、今まで理解することが出来た人がいると思ってるの?」
同じく穴を見つめるチヒが言うと、コレットとカルミは頷いた。
それからしばらくして、栗山を乗せたドリルが付いた乗り物が戻ってくる。今度は穴の周りをレンガで囲むように指示すると、そのレンガはどこにあるのだとカルミは言う。
レンガが入った袋を4人に渡すと、いつの間にレンガを作ったのかとチヒが質問をしたが、栗山は答えることなく作業をする。
なにか納得できないが、これも依頼のためだと思いながらカミュを除く3人は、作業をするのであった。
小一時間、モルタルを使って穴の周りをレンガで囲む。天幕を外すと、沢山の人が天幕を囲んでいた。
長に頼まれて井戸を作っていると説明するのだが、人集りが消えるわけではない。
人集りを掻き分け、栗山たちはその場から離れると、4人はようやく天幕を張った意味を理解した。
家に戻り、栗山が作る夕食を食べ、風呂に入って、明日に備えて早く寝ることにした……と、いうよりも、栗山に明日も大変な一日なるから、早く寝るように言われたので、寝ることにしただけである。
翌朝になり、二手に分かれて作業をすることを提案した栗山。すると、誰とコンビを組むのかで、朝から熱い戦いが繰り広げられた。と言っても、ただのジャンケンである。
湖の作る作業をするのはカミュとコレットの2人で、栗山と一緒に井戸作りをするのはチヒとカルミの2人。カミュは自分が出した選択を呪いながら湖の拡張を行う。
井戸作りをする2人は、今日は東の区域に設置するとのことで、先ずは人が邪魔にならないよう天幕を張り、栗山がドリルの付いた乗り物に乗って、穴を掘り始める。だが、昨日とは異なり栗山は直ぐに戻ってきて、別の場所へと行ってしまう。残された2人は、レンガを積み上げて井戸を作っていく。
昼頃になり、ある程度水が落ち着いてきた湖。これで魚などいたら良いのにと思いながら見つめていると、栗山がやって来る。
「大分出来上がってるな。これで魚などいたら最高なんだろうな」
同じことを栗山が言うと、湖を川に繋げたらどうだろうかとコレットが提案する。
「別に構わないけど、大変じゃない?」
「あの召喚獣があれば、繋げる事は容易いかと……」
「召喚獣? なにそれ?」
「ほら、先端が尖ってクルクル回る、チアキさんが乗ってるやつですよ! あれなら簡単に穴が掘れると思うんですよ!」
目を輝かせながらコレットは言う。ただ単に、コレットが乗りたいだけではないだろうかと、カミュは思うのだが、口にはしなかった。
「あぁ、ドリル車ね。うーん……まぁ、良いかな」
そう言って栗山はドリルが付いた乗り物を取り出し、コレットは運転の説明を受けるが、カミュは遠慮したのは言うまでもない。
しかし、カミュ一人にさせる訳にはいかないと栗山は言い、無理やり助手席に乗らされてしまうのだった。
二人が行くところを見送って、栗山は昨日の続きで水門を作り。翌日には今度は西と南に穴を空け、レンガで囲む作業を行なった。
そうしてそれから数日が過ぎた頃、ようやく井戸となる穴が完成し、あとは水だけの状態となる。
作った水門を開放させると、水は勢いよく流れていくのだが、川と繋がっているためか、湖の水は減っているように見えない。あとは手押しポンプを設置し、井戸の完成となる。
ポンプを作り上げると、今まで苦労していた子供たちは、喜びの声を上げたのだった。
手押しポンプの噂をを聞きつけた貴族たち。栗山の家にやって来て、金を払うから自分の家にも手押しポンプを作ってくれないかと言って来た。
あの時のような事があってはならないと思い、栗山は手押しポンプの設計図を公開し、鍛治士たちは貴族たちから依頼を受けるのであった。




