48.騎士のプライド
先ずは素振りから始めるように言われ、栗山たちは木剣で素振りを始める。
その光景を見ていた騎士たちは、笑いを堪えていた。それもそのはず、栗山を含めた5人は、まともに剣の稽古をしたことがない。
ゆっくりとした打ち込みを行っている4人はそれなりの動きをしているが、栗山は初めて木剣を振るっているのである。
周りが笑っているのに気が付いているが、栗山は気にしない。気にしているのは4人の方であり、少し悔しそうな顔をしていた。
「もっと集中して剣を振れ!」
アーサルが4人に向かって言うと、カミュが動きを止め、アーサルに笑うのを止めさせるように言う。
「何がそんなに可笑しいと言うのですか! 私たちは初心者だって言ったじゃないですか!」
納得ができないカミュがアーサルに噛み付くように言うと、ほかの3人も振るのを止める。栗山も気が付いて振るのを止め、カミュに注意しようとしたら、アーサルが苦笑する。
「奴隷だった奴が何をほざくのです? 飼い主は屁っ放り腰で剣を振るし、躾もなっていない。所詮は準男爵といったところでしょうか」
笑いながらアーサルが言うと、カミュが飛び掛かりそうになったので、3人がカミュを取り押さえる。
「貴様! 今の言葉を取り消せ! 貴女はそんなに偉いと言うのか!」
「当たり前でしょ、私は子爵の娘です。準男爵程度の男が話し掛けられる身分じゃないの。それは貴女も同じ。身分をわきまえなさい」
「なんだと……ご主人様の強さも分からないくせに!」
「その動きを見ていれば分かります。剣を振るその屁っ放り腰、大して強くもないということ。古代竜を倒したと言うので期待をしてみましたが、所詮は田舎者と言ったところでしょう。どうせ弱っているところに止めを刺しただけでは?」
その言葉にキレたのはカミュでは無く、止めていた3人。
「所詮はお嬢様でしょ、実戦も経験したことがない騎士が、戦いを語るのはやめてくれません?」
「あの古代竜の前では貴女なんて霞むわ」
「喧嘩を売るのなら買ってやるわ。田舎者を舐めるのもいい加減にしてよね」
まさに一触即発状態になっており、栗山は慌ててアーサルと4人の間に入って止めるように言う。だが、一度火がついてしまった5人を止められる者はいない……と言うか、騎士たち全員に喧嘩を売ってしまっているので、5人だけの問題ではないのである。
「そこまで言うのなら、私たちと手合わせしますか? 貴女たち田舎者と実力の違いを見せつけて上げます」
そう言ってアーサルは剣を抜き構える。
「ちょ、止めましょうよ。こちらが――」
栗山が言いかけるのだが、カミュたち4人は袋から拳銃を取り出して構える。
「ば、バカ! そんな物を人に向けるな!」
栗山が前に立ちはだかり止めるように言うと、その言葉は騎士たちに対して馬鹿にしていると判断され、更にヒート・アップしてしまい、栗山は横に押し出される。
「退きなさい、田舎者。実力の違いを見せてあげます」
剣を構えるアーサルは、ジリジリと距離を縮めようとする。すると、一発の銃声が鳴り響き、全員は音がした方に目を向ける。
「俺は止めろと言っている。いくら貴女が強かろうが、これの威力を知らない貴女が勝てるはずがない。お前たちも止めるんだ。それを人に向けるんじゃない。彼女を殺す気か」
天井に向けて銃を撃ちはなったのは栗山で、その目は少し怒りに満ちているようであった
「貴様も馬鹿にするのか?」
「馬鹿になんてしてませんよ。俺は貴女が強いことは理解している。だが、武器の性能に差があると言っているんだ。やるのであればそちらは木剣で、こちらはゴム弾でやる」
栗山の言葉にアーサルは他の者に木剣持ってくるように指示し、栗山はゴム弾が入った銃をカミュに渡す。
「――あいつは許さない!」
「ハァ……。とにかく怪我だけはするんじゃないぞ。ムキになると周囲が見えなくなるからな。それに、ゴム弾といっても殺傷能力はある。当たりどころが悪かったら殺してしまうぞ」
栗山の言葉に頷くカミュ。栗山は肩を叩いて、その場から離れ、騎士長のリーリヤが居るところへ向かった。
「どちらが勝つかな」
リーリヤは鼻で笑いながら言う。栗山は「分かりませんよ、そんなこと」と、結果が見えている戦いに対し、興味が無さそうに答えた。
騎士の一人が審判を買って出て、二人は武器を構える。
「あれは魔導具か?」
リーリヤが栗山に質問すると、栗山は「そんなところです」とだけ答えて二人の戦いを見つめる。
審判をやる騎士が、開始の合図を出すと、アーサルは横に走り出して隙を伺う。カミュは目線を横にずらす。
左右に体を動かしながらアーサルが近寄ろうとすると、カミュはアーサルの足下に一発だけゴム弾を撃ち放ち、アーサルは動きを止める。
カミュからしたら、いつでも当てることが出来るとのアピールだった。だが、アーサルはそうと思っておらず、ジリジリと自分の間合いに入れようと近寄ってくる。
「次は当てますよ。降参するのなら……今のうちです」
今の一発で勝負は決まったと、カミュは言う。しかし、騎士のプライドが傷つけられたアーサルは「ふざけるな!」と、声を上げてカミュに向かって飛び掛ってきた。カミュは一息吐き、太腿や肩に向けて弾丸を撃ち放ち、勝負を決める。
ざわめく室内。地面に這いつくばるアーサルを見て驚くリーリヤ。その結果が見えていた栗山は溜め息を吐いた。
栗山が剣を習わせた理由として二つあり、先ず一つ目は接近戦での戦いに慣れさせること。二つ目は銃が使えなくなった場合を想定した戦いを経験させたかったからである。それも杞憂に終わったような感じに見える。だが、いつ、銃が使えなくなるか分からないので、剣技を覚えるのは必須となる。
担架で運ばれていくアーサル。驚きで言葉を失うリーリヤ。
「経験の差が出たようですね」
「け、経験の差……だと? あれは一体どんな魔導具なんだ! あんな物は見たことがないぞ!」
栗山の胸ぐらを掴んで叫ぶリーリヤ。栗山はなんて言えば良いのか言葉を探すが、答えなんて見つかるはずがない。偶然入った洞窟で見つけたと、嘘を付くしかなかった。
この騒ぎで訓練どころではなくなってしまい、今日はお開きとなって栗山たちは家へと帰っていく。
しかし、この騒ぎを聞きつけた城の大臣は国王に栗山たちの危険性を伝える。国王は直ぐさま城の者に指示を出したのだった。
翌朝、城から使いの者がやって来て、辺境の地で村の開拓をするよう命令をしてきた。まだ、剣術を習ってもいないのに……。
だが、ボヤいても仕方がないので家の解約を行い、辺境の地にある開拓の村へと向かう。
移動は王宮から遣わされた馬車。護衛もなければ御者すらいない。厄介なお荷物は、早く出ていけと言わんばかりの対応である。
取り敢えず馬車で移動すると時間がかかるので、馬は解き放ち自由にしてあげ、袋の中に荷車を仕舞う。
栗山は車を召喚すると、運転しない4人は助手席に座る権利をジャンケンで決めようと指を鳴らす。
「今度こそ負けない!」
「勝つのは私」
「ふん! 炭酸は渡さない」
「相手にならないわ!」
相手の出方を伺う4人。勝負は一瞬……だった。
ご機嫌斜めのカミュが、恨めしそうな目でコレットを見つめており、チヒは納得できないといった顔でカミュとカルミの間に挟まれていた。
本当に勝負は一瞬。カミュ、カルミ、チヒの3人はグーを出し、コレットはパーを出したのだった。
「チアキさん、疲れたら交代してあげますからね!」
満面の笑みで言うコレット。君は運転をしたことが無いだろ……と、栗山は思いながらアクセルをユックリ踏み、走り始めた。
車で2日ほど走った場所に村はあった……が、辺境と言われているだけあって、随分と山間に村はあった。
「これが辺境の村、エスタの村か……」
寂れている……というレベルではなく、村というのは小さすぎる。家が数軒建っているだけで、村とは呼べない。
ここを開拓しろと言うのには無謀過ぎる……と、栗山は思った。
「どうやってこの様な場所を開拓すると言うのよ……」
チヒが呟きながら辺りを見渡す。
「どうやら、あの山には資源が沢山あるらしく、人々が集まり始めている……って話ですけど、嘘だったんですね」
近くにある山を観ながら言う。
そう、山には資源があるため、そこに村を作り上げ、資源確保をしろと言うのが今回の命令であった。
だが、このような場所に人などやって来ると言えるのだろうか……それすら怪しい。
「それに、回収した資源はどうやって運べば良いと言うのよ。街道なんて物は無かったじゃない」
最初は街道を走っていたが、道はどんどんと険しくなっていき、全く整備がされていない、とてもじゃないが道とは呼べる代物ではなかった。
ここに住んでいる人たちに、どうやって村で生活をしているのか聞いてみると、近くに畑を作り、そこで作物を作っているとの話であった。
しかし、村人は痩せ細っており、村での生活は困窮を極めていたのである。
「ここで生活をしろって、誰が言ったのさ」
劣悪な環境にボヤくカミュ。自分たちが育った村よりも逼迫している。
「兎にも角にも、ボヤいても仕方がない。俺たちは今日からここで生活をすることになったんだ。先ずは村の状況を正確に判断し、やることを決めていこうじゃないか」
楽観的な考えをしていると4人は思ったが、この人に着いて行くと決めたのだから、自分たちがしっかりしなければならないと思うのだった。




