47.剣の訓練
契約の解除を行うために奴隷商館へ向かい、国王陛下から貰った書類を奴隷商に見せる。今回はすんなりと4人が受け入れてくれて、奴隷解除の手続きは完了すると、栗山たちはブルネリアの町へ一度戻ることにしたのだった。
「結局、ブルネリアの町も滞在期間が短かったね」
助手席を勝ち取ったチヒが、外を見ながら栗山に言う。
「王都滞在も短くなると思うがね」
栗山は呆れた顔で言うと、チヒは「開拓する村を任されるんだっけ?」と聞いてきた。
「そうらしい。結局は戦力として手元に置きたいが、何を仕出かすのか分からん奴を、自分の周りに置いておくのは怖いんだろうな。開拓する村を任せるというのは名目で、監視下に置きたいというのが、本音じゃないかなぁ……」
そこまで分かっているのなら、どうして受け入れたのか知りたかったが、答えてくれないと思い、チヒは黙って外を見つめながら炭酸水が入ったペットボトルを口にする。
後部座席に座っているカミュは、栗山の隣を独占するチヒに呪いに近い言葉を吐き続けたのは言うまでもない。
夕方になってからブルネリアの町へ向かった栗山たち。いくら車が速いからといっても、町に着くのには深夜の時間帯になってしまう。
そうなると不動産屋が開いていないため、ブルネリアの町で一泊することした。
翌朝になり、4人には必要な物だけを袋へ仕舞わせて、栗山は不動産屋へ解約の手続きを行いに行く。そして長と副ギルド長に挨拶をして、町に別れを告げた。
しかし、不動産屋としては今回の出来事に感謝しており、栗山たちが作った家は豪華な作りとなっているため、高値で取り引きしてやろうと企んでいたが、ほぼ全てが栗山の召喚物であり、召喚解除されてしまうと、建物がなくなってしまう。
そんな事とは知らない不動産屋。満面の笑みで家を観に行ってみると、現代科学で作られた物だけ解除されており、建物はまるで廃墟のようになっていたのであった。
王都に戻ってきたのは再び深夜で、今度こそまともな宿屋に泊まって一夜を過ごし、翌朝に不動産屋へと足を運ばせた。
いつまで住むか分からない家のため、今回は普通に借家を借りる事とし、水道だけはポンプで汲み上げできるように改造したのであった。
しかし、ゲーマーであるコレットは納得がいかない。せめて電気を通すことだけでもやってほしいと懇願し、珍しくコレットが我が儘を言うので、電気設備だけ設置してあげると、コレットだけ狡いと言う3人。トイレやお風呂もどうにかして欲しいと言ってきた。
いつまでも居る建物出はないと説明をするのだが、「チアキさんだって、お風呂好きじゃないですか!」の一言に負け、トイレとお風呂を増改築したのであった。
奴隷では無くなった4人。新しい人生を始めるため、姓をクリヤマに変更した。これに関してはカミュが興奮して鼻血を出すほど喜んだのは言うまでもない。
新しく栗山が貴族となった事を王宮が発表したことで、問題が発生した。
新しい家に住み始めて数日が過ぎた頃、栗山たちが住む家を人が囲むようにして立っていた。
「おいおい、家の外は人だらけだぞ。どういう事なんだよ……」
カミュと共にカーテンの隙間から覗いていると、カルミが起きてきたらしく、栗山のところへやって来た。
「外が五月蝿いですけど、朝から何事なんですか?」
そう言ってカルミがカーテンを開けようとして、栗山が止めようとしたが、間に合わずカルミはカーテンを開けてしまう。すると、どよめき立つ群衆。その光景を目にしたカルミは、慌ててカーテンを閉め、カミュと栗山の顔を見る。
「な、なんですか! あの人集りは!」
栗山に問いかけるカルミ。
「そりゃ俺が聞きたいよ! 今朝、起きたら既にあの状態だったんだよ!」
いくら待っても引く気配はなく、逆に増える一方。5人で何が起きているのか話し合うのだが、答えなんか出るはずもない。
取り敢えずカミュとチヒの二人が、もしもの為に拳銃を装備して確認しに行くこととなった。
栗山が借りた家は最低限の屋敷と言っても良いくらいの大きさであるが、5人で住むには広すぎる大きさである。
門扉のところに群がる人たちに、何をしにやってきたのかカミュが確認する。その後ろでは、チヒがもしものために拳銃を構えている。
カミュが門扉の前にいる人に確認すると、自分を屋敷で雇って欲しいと言ってきた。
「へ? 雇う? どう言う事ですか?」
『クリヤマ様の屋敷で働かせて欲しいと言ってるのです』
簡単に言うと、新しく準男爵が生まれたは良いが、不動産屋の話では、まだ使用人がいないと言う。その噂が一瞬で広まり、雇って欲しいと言ってきているのであった。
準男爵でも貴族であり、それなりの金封を貰っていると思い込んでいるのである。実際は、一ヶ月に金貨1枚だけであるが、それでも世間からしてみれば大金である。何もしなくても金貨が貰えるのだから……。
事情を把握したカミュ。自分たちが使用人だから、これ以上は雇えないと説明するのだが、聞き入れてもらえず、いったん家の中に戻ることにした。
「どうだった?」
栗山が恐る恐る質問すると、カミュが呆れた顔で説明をし、栗山は「個人情報保護法が無いって怖い……」と、小さく呟いた。
それからは一人ひとり面談して、片っ端から不採用言い渡したのは言うまでもなかった。
次に問題となってくるのが冒険者稼業である。
基本的に狩りに行くのはカミュたち4人である。栗山が行こうとすると、自分たちが稼いでくると言って聞かないものだから、仕方なく4人に任せることにし、何かあったらしっかりと報告するように口酸っぱく言いつけた。
それから半日が過ぎ、4人がぐったりしながら帰ってきた。そんな強敵が居たのかと栗山は思い、4人に確認してみると、ギルドへ何か依頼がないか確認しに行った際、自分を仲間に入れてくれと言ってる輩が多く、断るのに半日を費やしたとのことで、これからはギルドの依頼を受けずに狩りへ出かけることにすると、4人は口を揃えて言ったのだった。
翌日も家の前に人集りができており、朝から面接が始まる。4人は人集りの横を通って狩りへと出かけて行く。
昼頃に面接という名の追い払いが終わり、栗山は王宮図書館へと向かった。貴族となったことで、庶民では閲覧できない魔導書などを閲覧することが出来るようになったのである。
これぞ貴族の特権である。
王宮図書館の閉館時間まで読みふけり、現在までの国の事情や成り立ちなどを学んだ栗山。
この国は隣国であるカーディナル王国と休戦状態になっており、国境付近ではいつもいざこざが絶えない状態となっているようであった。
どちらが仕掛けてきているのかというと、栗山たちが居る国……セデルアース王国であった。セデルアース王国は資源に乏しく、資源が採れる隣国に目を付けたのだ。
しかし、初めのうちはセデルアースの優勢だったが、資源が採れるカーディナルが押し返す形となり、今は拮抗した状態が続いている。
魔族は居なくても、人同士での争いに巻き込まれる事となった栗山たち。
これではいつ、戦場に駆り出されるか分かったもんじゃない。4人が戻ってきたら今後について話し合うことを決めた。
家に戻ると、諦めきれなかった数人の志願者が立っており、どうにか雇い入れてくれと言う。そこを素通りして家の中へ入っていき、夕飯の支度を始めると、4人が帰ってきた。
昨日と異なり、今回はギルドの依頼を受けていないで狩りに出かけていたので、家の前以外で絡まれることがなく、狩りができたようである。
帰ってきたなり、お腹が空いたと言う4人に配膳をする栗山。本来は4人の仕事なのだが、この4人は狩り以外の仕事は壊滅的である。期待するだけ無駄なのだ。
配膳が終わり、4人が同時に食べ始めたのを確認してから、栗山は今日調べたことを4人に話す。
「戦争状態なのは知ってましたが、そういった理由なんですね……」
スープを啜りながらコレットが言う。
どうして知っていたか、それはカミュの両親を戦争に駆り出されていたからである。
「――そこで……だ。お前たちは明日から王宮の騎士らに交ざって剣の練習をしてもらいたい。一応、騎士の諸君らには話を通してある」
栗山の言葉に4人は食べる手を止めて栗山を見る。王宮の騎士というより、兵士が納得するのかが問題である。彼女たちは奴隷だったということを、王宮の兵士たちは知っているのだから。
「その訓練には俺も参加する予定だ。お前たちのことが見守れる場所で訓練させてもらう」
その言葉を聞いて、4人はホッと息を吐いてから再び食事を食べるのだった。
翌日になり、家の前にいる人集りをやり過ごしてから王宮へと向かい、訓練場へ案内される。
4人からしてみれば、初めてまともに城の中を案内されており、4人はキョロキョロしながら案内人について行った。
案内された訓練場は女性専用の訓練場で、女性騎士たちが木剣を使い訓練をしていた。
案内をした兵士が、騎士長らしき人に声をかけると、騎士長が栗山の前にやって来た。しかし、騎士長と言っても女性ということもあり、栗山よりも小柄だった。
「貴殿が竜殺しの準男爵どのか?」
騎士長のリーリヤが話しかけてくる。
「始めまして、俺は栗山と言います」
栗山が挨拶をすると、続いてカミュたちが挨拶をする。元は奴隷だということは王宮内で知らない者は居ないだろう。しかし、騎士長は握手求めてきたので、4人は少し照れながら握手を交わす……が、その握力は想像よりも強く、4人は痛みを我慢していた。
「我々は剣を使うのが初めてなので、基礎から教えていただける助かります」
そう言って栗山が握手を求めるのだが、騎士長は握ることもせずに一人の騎士に基礎を教えるよう命じて、自分の持ち場へ戻っていく。
「あれ? 嫌われるようなこと、言ったか?」
隣に立っていたカミュは苦笑いをした。
指導してくれる騎士はアーサルという名の騎士らしく、4人は頭を下げてお願いをする。
「時間は無限でなく有限です。この様な時間に来られても教えられることは限られてしまいます。明日からはもっと早く来てください」
どうやら来るのが遅くて、騎士長の怒りを買ったようである。




