46.再び呼び出した内容は?
4人が泊まれそうな宿屋など都心部には無く、町外れにある古びた宿屋である。しかも、奴隷がお金を持っていることじたいが、普通では考えられないことであるため、この宿屋でも通常の三倍の値で泊まることができたのであったが、案内された部屋は埃まみれの部屋だった。
いくらなんでもこれは酷いと文句を言いに行った4人だが、嫌なら泊まらなくても良いと言われ、更には迷惑料という名目でお金を巻き上げられてしまうありさま。
カミュがあれだけ啖呵を切ったのに、この有り様では言い訳のしようが無い。4人は申し訳なさそうにして床に正座していた。
「別にお前たちが悪いってわけじゃ無いんだろ? いい加減、普通に座ったら? 足が痺れるだろ」
そう言っても4人は頑なに足を崩さない。
特に、あれだけ啖呵を切ったカミュは、俯き顔を上げようともしなかった。
「ベッドも一つだけの部屋しか、用意できませんでした。申し訳ありません」
悔しそうな声でカルミは言う。
今回に限っては栗山にも落ち度があるのだが、4人はそんな素振りすら見せずに謝罪の言葉を出し続ける。
「あのさ、お前たちの気持ちは分かったし、俺にも落ち度がある。この際だから、本当に契約を解除した方が良くないか?」
そう言うと、カミュが栗山を睨むように見つめる。
「カミュが言いたいことは理解できてる。契約によって、絆のようなものがあるといいたいんだろ? しかしな、俺はお前たちがぞんざいに扱われるのが嫌なんだよ」
「――だけど!」
カミュが何かを言おうとしたところで、栗山は手で静止させる。
「だからぁ、言いたいことは理解したよ。けどな、俺はお前たちを契約という名の鎖に縛りたいわけじゃないんだ。対等な立場で付き合っていきたいと思ってるんだよ」
栗山の言葉に納得できないといった顔をするカミュ。他の3人は理解を示したかのような顔をしていた。
「それに、契約を解除したところで、お前たちは行くあてがあるのか? いくらレベルが高いといっても、剣術を習っている訳でもない。俺の武器が無ければ何もできないだろ? 結局のところ、今の生活が変わる訳じゃないんだよ」
栗山の言葉に頷く3人だが、感情が先に動くカミュだけは納得していなかった。
「契約を解除したところで、出ていけとは言わない。とにかく、俺はお前たちがこの様な扱いを受けるのが嫌だから、契約を解除したいと言ってるんだ。これまで築いたものを捨てろとは言わない。それを大切にしてくれるのは、とても嬉しい」
「そうまで思ってくれているのなら……」
チヒが理解を示すと、カミュが驚いた顔をしてチヒの顔を見ながら名前を呼ぶ。
「まぁ、別に今すぐに答えを出してくれとは言わない。取り敢えず4人で話し合って決めてくれ。それに、今日はもう遅い。早く寝ようぜ」
時間は分からないが、深夜だってことだけは分かる。栗山は袋から寝袋を取り出して4人に渡し、大きな欠伸をして眠りについた。
4人も受け取った寝袋を広げて中に入ると、疲れが出たのか全員は直ぐに寝息を立てるのだった。
翌朝、栗山たちは再び王城へと招かれるのだが、昨日は色々あり寝るのが遅くなってしまったこともあり、全員が寝不足気味であった。
特に辛いのが4人であり、主人の名目がある手前、人前で欠伸をすることが許されていないのである。
栗山が欠伸をするたびに、つられて欠伸をしそうになる4人。必死に欠伸を堪えながら王城に向かったのであった。
王城に辿り着き、門番の兵士に国王陛下から呼び出しを受けた旨を説明すると、一人の兵士が確認に向かう。
小一時間ほど待たされてから、栗山は別室に案内されるのだが、奴隷の身分である4人は外で待つよう兵士に言われてしまった。
「ちょうど良い機会だから、昨日の話に関して意見をまとめておきましょ」
コレットが3人に言うと、カミュは不機嫌そうな顔でコレットを見つめていたが、チヒとカルミの2人は同意した。
「契約の解除だけど、みんなはどう考えてるの?」
まとめ役を買ってでるコレットに対し、チヒが口を開く。
「正直な話、私は解除に賛成かな」
そう言うと、コレットとカミルも頷くが、カミュが「私は反対だ!」と、強い口調で言う。
「カミュ、そうは言っても奴隷のままではチアキさんの側には居られないじゃん」
コレットが諭すように言う。
「――だけどっ!」
「解除したとしても、きっとチアキさんは私たちを捨てたりしないわよ」
「その保証はある! 本当に捨てたりしないって言えるの!」
カミュの剣幕に溜め息を吐くコレット。
「少しは落ち着きなさいよ、昨晩だってチアキさんが言ってたじゃん。私らは冒険者としてのレベルは高いけど、剣を扱えることができないわけだし、チアキさんの武器に頼るほか戦うことができないんだしさ」
「だったら、あなた達3人が解放してもらえば良いじゃん! 私はご主人様の奴隷のままでいるから!」
頑なに奴隷のままを選ぶカミュ。いくらカミュを説得しようにも、「信じられない」の一点張りであった。
それから数時間が過ぎ、太陽は真上にきた頃に、難しい顔をした栗山が戻ってきた。
「あ、おかえりなさい!」
栗山の存在に気が付いたカミュが声を掛ける。
「悪いな、長いこと待たせてしまって……」
「いえ、ご主人様を待つのなんて苦になりません!」
カミュの言葉に栗山は自分の頭を掻く。
「こんな場所で話すのもアレだ、どこかの店で……。あー、王都ではそれも難しいか……」
4人の身分を考えると、店に入っても席を用意してもらうことができない。奴隷は床に座らせるのが一般常識になってしまうのである。
「こうなるから、解除してもらった方が良いって言ってるじゃない」
コレットが肘で突きながらカミュに言うが、カミュは聞く耳を持たない。
「なんだ、解除について話し合ってくれたのか? だったら、宿屋へ戻って話でもするか。他の店にゃ入れんし」
そう言うと、4人は返事をして宿屋のある方へと歩き出すのだが、宿屋に到着するまでは終始無言であった。
宿屋にたどり着き、受け付けに戻った事を告げると、カルミが突然声を上げる。
「あっ! やっば……」
その言葉に全員がカルミの方を向く。
「あの……宿屋ですが、一泊分しか……取ってません……」
「……は?」
カルミが何を言ったのか理解するまでに数秒かかり、カルミを除く3人は、そのことを思い出して固まり、栗山は受け付けの顔を見ると、受け付けの男は無表情で栗山を見つめていた。
「もう……一泊って、できます?」
そう栗山が言うと、男は無表情で首を横に振って、出ていけと、手で追い払う仕草をしたのだった。
いくら栗山が交渉しても男は首を縦に振ることはなく、渋々栗山たちは店を後にした。
店の外で立ち話をする訳にもいかないため、どこか話せる場所を探すことにしたのだが、話せる場所は見つからず、公園の広場のような場所で話すことになった。
「結局、こんな場所で話すことになっちまうのかよ」
栗山の言葉に申し訳なさそうな顔をする4人。
「毒を吐いても仕方がない、それで4人はどうする事にしたんだ?」
「私は! ご主人様の奴隷のままが……」
言いかけるカミュ。
「私たちは解除してもらう事にしました」
コレットが代表して言うと、栗山は頷いたあとにカミュを見る。
「私は……」
「お前が何を悩んでいるのか分からん。何をそこまで頑なに拒むんだ? これまでの状況を考えたら、解除しておいた方が良いと思わねーのか?」
「で、でも……。解除したら私のことを捨てちゃうんじゃ……」
「お前は馬鹿か? 文字も書けない、読めないお前らは、何処かへ行くあてなんてあるのかよ? お前らはレベルが高いが剣を使える訳でもない。俺の武器が無けりゃ何も出来ない奴がどうやって生活をするって言うんだよ」
栗山の言葉に俯くカミュ。
「お前はそんなことを考えなくてもいい。それに、こんな事で無くなる絆なのかよ?」
「――そんなの分からないじゃん! ご主人様が考えていることなんて分からないよ!」
「分からなくて当たり前だ。分かる奴がいるとしたら、そりゃ神様くらいだ。これからも生活は変わらない」
その言葉に、カミュは栗山に抱きついて泣き出した。
「全員が解除で良いな。あとは……俺の話かぁ……」
溜め息を吐く栗山に、3人は首を傾げる。
「そう言えば、何の話をしてきたんですか?」
チヒが気になったのか聞いてくる。
栗山は頭を掻きながら説明を始めると、3人は言葉を失った。
どんな話をしてきたのかと言うと、準男爵の爵位を与える次いでに、この王都で生活をしろというのであった。要は自分の戦力として手元に置きたいということである。
「で、ですけど、ブルネリアの町にある……あの家はどうするの?」
カルミが聞いてきた。
「引き払えだってさ。準男爵になると、毎月金貨1枚が支給されるんだって、それで新しい家を王都で借りるか、買うかどちらかにしろだってさ」
「ち、チアキさんはそれで良いんですか……」
正直に言うと、初めは断りを入れたのだが、彼女ら4人を取り上げると言ってきた。そんなことは許されないと言ったのだが、相手は国の最高権力者であり、自分が言ったことが正義だと言い放たれてしまうと、言い返すことができず、受け入れるしか無かったのである。
そんな事を言えば、彼女たちが責任を感じてしまうため、栗山は敢えて受け入れたとしか言えなかったのである。
「準男爵と言っても、一番下の貴族になるだけで、別に偉くなった訳じゃない。それに冒険者として生活をすることは許されているし、更には近々新しい村を開拓するそうで、そこに赴任しろって言ってきた。さっきは偉そうな事を言ったが……その、悪いけど手伝ってくれないか? 俺は常識なんて分からん。結局のところ、俺がお前たちを必要としているんだ」
栗山の言葉に呆れた顔をする3人だったが、カミュは「もちろんです! ご主人様の行かれる所に私は行きますよ!」と、先ほどまで泣いていたのが嘘のような満面の笑みで答えるのだった。




