表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/64

45.馬鹿にするんじゃない

 4人分の書類を袋に仕舞い、急いで城から出ようとする栗山だったが、4人がどこの宿屋に泊まっているのか分からないことに気がつき、城の出入り口付近で立ち止まった。

 色々な意味で浮かれていたのは自分だと言うことに気がつき、しゃがんで頭を抱えていると、門番の兵士から邪魔だと言われてしまい、慌てて城の外へ出て行こうとする。


「――待たれよ、クリヤマ殿!」


 後ろから誰かに呼び止められ、栗山は慌てて振り返る。すると、立派な鎧を着込んだ騎士が急いで栗山の元へと走ってきていた。

 騎士なんかと知り合いではないため、栗山は周囲を見渡すのだが、立ち止まっているのは自分だけであり、騎士も栗山に向かって駆け寄ってきている。


「クリヤマ殿、どこへ向かわれるのですか」


 目の前までやって来た騎士はそう言い、栗山は首を傾げることしかできなかった。


「本日の主役は貴殿なんですよ! 主役がいない舞踏会なんて聞いたことがありませんよ」


「……え? あ、いや、あの、ほら……連れて来ている奴らと合流しなきゃだし――」


「そんなのは城の者に任せておけば良い。ささ、こちらに来て、どうやって古代竜を仕留めたのか、我が部隊の兵士らに、その英雄譚を聞かせてやってくれまいか!」


 戸惑っている栗山の腕を掴み、何処かへ連れて行こうとしてくる。


「ちょ、ちょっと待って下さい! あれは俺一人で倒した訳じゃない、彼女たちが居たから倒せたんですよ! 英雄というのなら、それは彼女たちで――」


 騎士は栗山の話を聞くこともせずに腕を引っ張るっていく。その力に抗うことができずに栗山はどこかへと連れて行かれてしまったのであった。


 栗山が解放されたのはそれから数時間後で、栗山は何を話したのかも覚えていない。今は豪華な部屋のソファーに腰掛けるかたちでグッタリとしていた。

 この様な場所でユックリしている暇は無いのだが、舞踏会があるという理由から、栗山は城から出してもらうことが出来ずにいたのであった。


 今頃4人はお腹を空かせているのではないかと考えては立ち上がり、侍女らしき人に咳払いされてソファーに腰掛けることを繰り返す。


「あの、俺は早く仲間の4人に会わなきゃいけないんです」


 いい加減、我慢の限界が近いことから、栗山はドアの前で立っている侍女らしき人に言うのだが、表情を一切変えることもなく栗山を見て言う。


「存じてます。今、城の者が探しておりますので、今しばらくお待ち下さいませ」


 そう言って話を終わらせ、無表情でドアの前で逃さないように立っている。

 本当に探しているのかと思いながら、立ち上がっては座り繰り返していること一時間、部屋のドアがノックされて侍女らしき人が振り返ってドアを開けると、兵士が何かを侍女らしき人に伝えると、侍女らしき人は栗山の方を向いて一礼をした。


「お待たせ致しましたクリヤマ様。お連れの方々がいらっしゃっいました」


 その言葉に栗山は立ち上がった。


「――本当ですか!」


「契約の解除する準備を行いますので、もうしばらくお待ちください」


「ちょ、ここで行えば良いじゃないですか!」


 この場で行えば良いじゃないかと栗山は言うが、侍女らしき人は首を横に振る。


「ここはそのような場所ではありません。ご理解の程、宜しくお願いします」


 そう言われても理解なんてできやしない。栗山が懇願するのだが、侍女らしき人は首を縦に振ることはなく、この状況にキレそうになる。

 だが、ここでキレたら解除できなくなるかも知れないと、自分に言い聞かせて苛立ちを抑え込む。

 更に一時間が過ぎ、ようやく別室へと案内されて、4人と合流することができたのだが、栗山はすでに疲れ切った顔をしていた。それを見た4人は、不思議そうな表情をして栗山をみていたのだった。


 王都にいた奴隷商が契約破棄の書類を確認させてほしいと言われ、栗山は言われた通りに書類を袋から出し、奴隷商に渡す。奴隷商は書類に目を通し、4人に向かって各書類に血判を押すよう指示する。


「チアキさん、これはどういう事?」


 いきなり血判しろと言われ、疑問に感じたカミュが質問する。栗山はは深く息を吐いてから最初から説明を始めると、4人は目を大きく開いて驚く。


「これでお前たちは自由になれるんだ」


 栗山の言葉に、4人は金魚のように口をパクパクさせている。


「奴隷だからって、色々な人たちから馬鹿にされることがなくなるんだ」


 ようやく全てから解放されると栗山が言うと、カミュはゆっくりと栗山のところへ行き、勢いよく胸ぐらを掴んで叫ぶように言う。


「――ば、バカにしてるのはどっちだ!」


 カミュの言葉に驚いた顔をする栗山。


「わ、私は……ご主人様の奴隷であることに、誇りを持ってるんだ! 私の全てはこの契約にあるんだ! ご主人様の奴隷になって後悔なんてしたことなんかない! 私を……私たちを馬鹿にするな!」


「な、何を言ってるんだよ、奴隷じゃなくなるんだぞ……。お前たちは自由になれるんだぞ」


「――私たちの誰が自由じゃないって言った!」


 カミュの言葉に栗山は他の3人を見るが、誰として納得しているようには見えない。


「私たちを可哀想だって思うな! 私たちはご主人様に買われて良かったって思っているのに、貴方はそうじゃなくて、哀れみの目で観ていたのか!」


「ち、違う……そんなこと……」


「馬鹿はご主人様だ! エミルだってそんな事を望んでいるわけない! 私たちは貴方から生きるための(すべ)を教えてもらった。他の人と同じように対等に扱ってくれていたんじゃないのか! そんな貴方が好きだったのに……」


 掴んでいた手を離して、カミュは栗山の胸を力無く叩く。


「チアキさん、私たちは可哀想な存在なんですか」


 コレットが問いかけてきた。


「――ち、違う! そうじゃなくて……」


 それ以上、栗山の口から言葉が出ない。


「愛されているんですなぁ……。貴方は」


 奴隷商が栗山の肩に手を置きながら言う。栗山を除く4人は解放される事を望んでいないと判断した奴隷商は、近くにいた兵士に何かを告げ、この場から立ち去って行く。

 兵士からしてみれば、現状はカオスな状態であり自分も立ち去りたいと思うのであった。


 もちろん奴隷である4人は舞踏会なんかに参加することができず、別室で待機させられる。栗山は心ここに在らずの状態で舞踏会に参加していた。



「舞踏会かぁ……」


 遠くから聞こえてくる音楽。そこは夢のような場所なのであろうと想像するチヒ。


「チヒは舞踏会に出たかったのか?」


 カミュが睨みながら聞く。


「別に。私たちには縁のない場所よ。それよりもお腹が空いたわ。少しでもいいから、食事くらい出してくれても良いと思うんだけど……」


 チヒの言葉に「たしかに……」と、カルミは同意しながら笑う。


「今頃チアキさんは、どうしてるんだろう……」


 コレットがカミュの方を見ながら言う。


「案外、楽しんでいるのかもよ」


 カルミが笑いながら言うと、カミュがカルミを睨みつけ、険悪なムードが室内を漂っているとドアがノックされ、カミュがいち早く反応して椅子の陰に隠れた。

 ドアが開くと、残飯のような食事が運ばれてきて兵士が「食事だ」と告げて室内から出て行く。


「あー……これこそ私たち向きの食事だわ」


 貴族の食べ残しを見て、コレットが呟きながら残飯の匂いを嗅ぐ。チアキが作ってくれる食事に慣れ親しんだことで、本来、自分たちの置かれていた状況を改めて理解し、コレットはスプーンを手にして、残飯のような食事を一口食べる。


「……あんまり美味しくないわね」


 一口だけで食べるのを止め、コレットはスプーンをテーブルに置いて床に座った。

 4人がいる部屋は椅子などない。奴隷は物と同じように扱われるので、物置部屋のような場所で待機させられていた。


「あと、どれくらいで宿屋へ帰れるのかな……」


 暇を持て余したカルミが呟くと、4人のお腹が合唱するかのように鳴り響き、4人は恥ずかしそうにお腹を押さえたのだった。

 それから数時間が過ぎ、少しでも空腹を満たしておかなければ、栗山に啖呵を切った意味がなくなるとチヒが言い、4人は美味しくもない食事を食べた。

 更に時間が過ぎ、ようやく待機している部屋のドアが開くと、兵士が出るようにと言って、別室へ案内された。

 ソファーには栗山が座っており、ようやく舞踏会が終わったのだと4人は思い、ホッと息をつく。


「クリヤマ殿、貴殿の奴隷どもを連れて参りました」


 せっかく栗山に会えてホッとしたのに、兵士の言葉で台無しになる4人。


「――ありがとうございます」


 兵士にお礼を告げる栗山。奴隷解放の一件があって、どう接して良いのか戸惑っている。

 それを察した4人は栗山の近くへ行き、「取り敢えず宿屋へ向かいませんか?」と、コレットが言い、栗山は頷き立ち上がった。

 城から出て城下町へ向かって歩き始める……が、城下町は城からかなり離れており、歩きでも一時間はかかる。

 城下町に辿り着いたのは良いが、どこに宿屋があるのか分からない栗山。前を歩いている4人に付いていくしか無い。

 しかし、さすが王都と言われるだけあり、夜遅いのに街はいまだに賑わっていた。それを横目に4人は宿屋のある方へ向かっていくのだが、寂れた場所へと向かっていく。先ほどから宿屋の看板がチラホラ見かけるのだが、それを通り過ぎる。

 4人には宿屋の看板が読めないわけではない。なのに、4人は宿屋に目もくれずに歩いていく。


「お……おい、どこまで歩くつもりなんだよ」


 あてもなく歩き続けているような気分になった栗山は、前を歩いている4人に問い掛けると、4人は立ち止まって振り返る。

 申し訳なさそうな顔をしながらコレットが言う。


「……知らなかったんです」


「な、何が?」


 宿屋に泊まるためには身分証を提示する必要があるのだ。身分証のない者は少し高い金額を払う必要がある。普段は栗山が冒険者カードを提示しており、宿屋に泊まっていたのだが、今回は奴隷である4人が宿を探していた。

 4人が持っている冒険者カードには『奴隷』の二文字が刻まれており、門前払いを受けてしまうのである。


 そのことを聞いた栗山は、頭を押さえて立ち尽くす。

 完全にそのことを失念していたからである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ